「気分が落ち込む」「突然涙が出る」
「わけもなくイライラしてしまう」
「夜中に何度も目が覚める」
——これらの不調が40〜50代で続くとき、更年期うつの可能性があります。
原因は、女性ホルモンの急激な減少と、それに伴う自律神経・内分泌系・感情のバランスの揺らぎです。
この記事では、東洋医学から見た更年期の体と心の変化を読み解き、
鍼灸師としてできる具体的な施術・対応・養生提案を紹介します。
更年期うつの特徴|西洋医学的な視点
◆ 主な症状
身体症状 | 精神症状 |
---|---|
のぼせ・発汗・動悸 | 不安・抑うつ・無気力 |
不眠・疲労感 | イライラ・集中力低下 |
頭痛・肩こり | 感情の起伏・焦燥感 |
➡ これらは「更年期障害」と呼ばれる自律神経失調症状の一部であり、心の問題と体の症状が複雑に絡み合っている状態です。
東洋医学で見る更年期うつの体質傾向
更年期は、東洋医学では「腎の衰え(腎虚)」がベースにあると考えます。
そこに肝・心・脾などの変調が加わることで、さまざまなうつ症状が出てきます。
◆ ① 肝鬱化火(かんうつかか)
- ストレス・感情抑圧により肝気が停滞し、内熱に転じる
- イライラ・怒りっぽさ・不眠・顔の火照りなど
◆ ② 腎陰虚(じんいんきょ)
- 閉経前後の腎陰の不足により、陽が暴走
- のぼせ・発汗・動悸・焦燥感・情緒不安定に
◆ ③ 心脾両虚(しんぴりょうきょ)
- 長期の疲労・思い悩みで心と脾が弱り、気血の生成不足
- 不安感・健忘・寝つきの悪さ・無力感
☞ 更年期うつは、「陰陽の乱れ」「気血の不足」「情緒の停滞」が複合的に重なるのが特徴です。
鍼灸で整える更年期うつケア|実践ポイント
◆ ① 肝の疏泄を助け、情緒の通りをつくる
ツボ名 | 作用 |
---|---|
太衝・行間 | 肝気を巡らせ、怒り・不安・抑圧を緩和 |
内関・神門 | 心と肝をつなげ、情緒安定に |
百会 | 抑うつ傾向・気分の引き上げに有効 |
➡ 鍼はソフトに、“気の通り道”を開く意識で施術します。
◆ ② 腎を補い、陰陽のバランスを回復する
ツボ名 | 作用 |
---|---|
腎兪・命門 | 腎陽・腎精を補い、回復力を支える |
太谿・照海 | 腎陰を補い、のぼせ・不安・熱感に対応 |
三陰交・関元 | 腎・脾・肝をつなぐ統合的ケアポイント |
➡ 温灸や箱灸などの温熱療法が効果的。
「体の芯をあたためながら、心を落ち着ける」施術設計を。
◆ ③ 睡眠と疲労回復を助けるアプローチ
ツボ名 | 主な目的 |
---|---|
中脘・脾兪 | 胃腸を整え、気血生成を促す |
安眠・心兪 | 入眠改善・不安感の緩和 |
気海・足三里 | 気を補い、体力低下・冷えに対応 |
鍼灸師が伝えたい更年期の養生とセルフケア
✅ 食事:腎と肝をいたわる食材を
食材 | 効果 |
---|---|
黒豆・黒ごま・山芋 | 腎精・腎陰を補う |
なつめ・クコの実・小松菜 | 血を養い、情緒を安定 |
甘酒・発酵食品 | 脾胃を助け、気血生成をサポート |
✅ 生活習慣:陰陽のバランスを整えるコツ
- 就寝・起床時間を一定に(体内時計の安定)
- 冷え対策と軽い運動で気の流れを保つ
- 情報・人間関係の“断捨離”で肝気の滞りを予防
💡「頑張る」ではなく、「ゆるめる」がキーワードです。
✅ 感情のセルフケア
- 感情を「外に出す習慣」(書く・話す・泣く)を提案
- 「感情が揺れるのは当たり前」と伝える
- 一人で抱え込まないよう、“頼っていい空気”をつくる
まとめ|更年期は“変化”の季節。鍼灸ができるのは「整える支え」
更年期は、身体的・精神的・社会的に「変化と調整」が求められる時期です。
そのため、うつのような症状が出るのは、異常ではなく“過渡期の揺らぎ”。
鍼灸師ができることは、
- 肝・腎・心の調和を図り
- 陰陽・気血のバランスを回復し
- 「今の自分」を肯定する施術と言葉を届けること
です。
“今は整えている途中でいい”。
そう伝えられる鍼灸師の存在は、更年期という揺らぎの時期に、大きな安心をもたらします。
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