日本鍼灸の進化と現代医療における役割:鍼灸の歴史と効果

鍼灸とは

鍼灸は、陰陽五行などの東洋思想をベースに発達した医学であり漢方とあわせて東洋医学の代表格です。鍼あるいはお灸を用いて生体に微細な物理的エネルギーを経穴(ツボ)などの特定部位に作用させる事で生体の機能的な歪みを是正し、疾病の予防および治療を行う医学です。東洋医学には、鍼灸以外に、漢方・あん摩マッサージ指圧などがあります。超高齢化やストレスの多い現代の社会問題を背景に古くて新しい医学・医療として非常に注目されています。日本・中国・韓国・ベトナムなどのアジア圏だけではなく欧米などでも活用されています。近年では、鍼灸系大学や医学部の研究所で難病への効果や、そのエビデンス・メカニズムの研究が進められています。

鍼灸の起源は?

鍼灸の起源は石器時代の中国にあります。日本に伝わったのは奈良時代。中国の僧侶が仏典とともに鍼灸の医学書を携えてやってきたとされています。その中で丹波康頼により記載された医心方(国宝、御室仁和寺所蔵)は現存する最古の医学書です。平安から室町時代にかけて、鍼灸や漢方が日本社会に定着し、江戸時代に入ると、鎖国の影響もあり、鍼灸は日本の伝統医学として独自の進化を遂げました。その後、江戸時代中期以降に『解体新書』が登場し、明治維新後は政府の西洋化政策によって、西洋医学が台頭しました。一時は鍼灸の廃止論なども出ましたが、その効果を評価いただいていた国民からの強い支持を得て、現在では不定愁訴や慢性疼痛などに対して再認識されています。現在、全国の鍼灸学系大学や医学部・大学病院などで日本鍼灸は臨床研究や診療、治療に用いられています。また、日本国以外にも多くの国で注目がされています。

国家資格はり師・きゅう師の資格について

はり師・きゅう師(鍼灸師)はあん摩マッサージ指圧師と共に厚生労働大臣指定登録機関である国家資格です。東洋療法研修試験財団(理事長:奈良信雄、常務理事:坂本歩)により年1回(例年2月末)行われる試験に合格した者に与えられる資格です。一般的に鍼灸師と呼称されますが、正式には、はり師ときゆう師の2つの資格からなります。受験資格としては、鍼灸師養成校の大学では4年間・専門学校では3年間・盲学校などの理療科の履修済み・卒業見込みの者に受験資格が与えられます。例外として明治国際医療大学(旧:明治鍼灸大学)のみ在学中の3年時に受験資格が与えられます。

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日本鍼灸の鍼術灸術の特徴と杉山和一

日本鍼灸は伝来依頼、世界で唯一歴史が途絶える事なく今日まで続く伝統医学です。

鍼術

主に、毫鍼(ゴウシン)と呼ばれる毛よりも細いステンレス製の鍼を使用します。現在、日本では、主に直径0.10~0.20mm程度の鍼。日本鍼灸の最大の特徴は、鍼を刺入時に鍼管と呼ばれる筒を用いて行う管鍼法という方法を用いる事です。この管鍼法を広めたのが杉山和一(1610〜1694)です。日本鍼灸に影響を与えたといわれています。1674年(延宝4年)に発刊された「鍼灸抜粋」に紹介されており広く行われていたと思われます。
この管鍼法について、入江流の書に記載がありますが創設者についての記載がないです。一説には、杉山和一が江ノ島で松葉が竹管に入っていたところから思いついたといわれています。
管鍼法以外にも、撚鍼法や打鍼法など鍼管を使わない方法があります。
英語では鍼管の事をGuide tube(ガイドチューブ)と呼ぶ事があります。また、世界で初めて使い捨て鍼(ディスポーザブル鍼灸鍼)の開発を行なったのは静岡に拠点を置く日本メーカーのセイリン株式会社(創業者:鈴木毅)です。

灸術

「お灸を据える」など、イメージのわるい事が多いお灸の原材料はヨモギです。灸術の方法には、もぐさを直接皮膚の上に乗せて着火させる直灸と、生姜やニンニク、味噌などを切って皮膚との間をあけて行う間接灸などがあります。間接灸は、熱の緩衝材になるものを入れたりして熱さを和らげます。また、緩衝材になる素材の効果などもあり気持がよいものです。この他にも、箱にお灸を詰める箱灸や鍼の先端に親指ぐらい大きさのもぐさを取り付けて点火する灸頭鍼などもあります。お灸は薬局などで購入でき近年はセルフケアの1つとして人気が高まっています。

小児鍼

乳幼児を対象にして行う施術を総称にて小児鍼と呼びます。小児への鍼灸は古来中国でもありましたが、日本で発達した特殊鍼法です。一般的な皮膚に刺入する鍼とは違い、ヘラや棒状の形のもので軽度に摩擦刺激を与える事が多い施術です。夜泣きや食欲不信、不機嫌などのいわゆる癇の虫などの症状に対して行う事が多くあります。江戸時代より大阪を中心に発達しました。現在も大阪府内には平安時代より一子相伝の小児鍼をつたえる中野のはりがございます。また、最寄りの駅には近鉄電車「針中野」という駅名があります。

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鍼灸の効果について

鍼灸の効果をイメージされる場合、肩こり、腰痛、膝痛などの痛みを頭に浮かべる方が多いと思いますが、実際に鍼灸が得意とする疾患は、自律神経やホルモンバランスの調節、血液循環など内科的な疾患です。1997年11月5日にアメリカ合衆国 国立衛生研究所(通称:NIH)により発表された鍼灸に関する合意声明書(NIH Panel Issues Consensus Statement on Acupuncture)と鍼灸療法の病気に対する効果とその科学的根拠を認める見解が発表されています。

アメリカ合衆国 国立衛生研究所(通称:NIH)では、以下の疾患に対して鍼灸の有効性があげられています。

消化器系疾患

胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾

代謝内分秘系疾患
生殖、泌尿器系疾患

膀胱炎・尿道炎性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎

婦人科系疾患

更年期障害乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順冷え性・血の道・不妊

眼科系疾患

眼精疲労仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい

他国でも、英国では2000年のBuritish Medical Journalにて英国医師会(BMA)が背部通や歯痛、嘔気や嘔吐、片頭痛に鍼灸が有効であると承認しました。また、近年では、術後疼痛やCOPD、繊維性筋痛症への効果も評価されています。

経穴(ツボ)とは?

一般的な呼称ではツボ、鍼灸用語では経穴(けいけつ)とよばれます。
東洋医学の考えでは、全身を気と血・水が循環しているといわれています。気血の通り道は経絡と呼ばれます。その経絡上にあるポイントが経穴(ツボ)です。鍼灸医学では経絡が何らかの作用で滞ってしまうと病に至るといわれ、これを改善するために、経穴に鍼や灸を使って気血の流れをスムーズにします。

経穴は長い歴史の中で地域ごとの名称や部位に違いが生じていました。
そのためWHOが主幹となり1989年に名称が統一され、2006 年の国際会議で361 穴の位置が決まりました。2008 年5 月には「WHO 標準経穴部位公式版」が発刊されました。これにより世界的規模で鍼灸のエビデンスやメカニズム研究、臨床研究ための座標を整えたということになります。
近年では、経穴になる部位は他の組織部分より神経や血管の密度が高いともいわれています。人によって経穴の部位は若干かわります。その経穴を指先の繊細な感覚で見つけるのが鍼灸師の技量の見せ所の1つです。

余談ですが、動物の経穴は人間の経穴とは位置や名称が違うものがあります。

最新日本鍼灸研究の社会的実績

近年、日本では鍼灸学の研究は、鍼灸学系大学だけでなく、医学部や医科系大学などでも研究が進んでおります。公益社団法人全日本鍼灸学会をはじめ各鍼灸学会では活発な議論が行われております。

COPD(慢性閉塞性肺疾患)

WHO世界保健機構の発表により2030年には世界の死亡順位の第3位になると予測されているのがCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease:慢性閉塞性肺疾患)です。COPDは慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれてきた病気の総称で、タバコの煙を主とする有害物質を長期間吸入することによって生じる「肺」の病気です。この病気は、肺の内部が破壊されたり気管支が狭くなって通常の呼吸が困難となり、息苦しさ、とくに息を吐き出しにくいという症状や、せきやたんが長く続くという症状も見られます。この疾患に対して2012年当時京都大学より鈴木雅雄氏(鍼灸師、現:福島県立医科大学 教授)らによりCOPDの労作時の息切れに鍼治療が有効である事が証明され世界五大医学雑誌の1つである「Archives of Internal Medicine」に掲載されました。

👉COPDに対し鍼灸を用いた症例の紹介

線維筋痛症

線維筋痛症(FMもしくはFMS:Fibromyalgia Syndrome)とは、全身のさまざまな場所に激しい痛みが出る病気です。具体的な原因は現時点では分かっていません。そのため、病院で行われる検査では異常が出ないことが多く、正しい診断をすることが難しいとされています。近年では、世界的歌手であるレディーガガ女史が公表し注目されました。日本でも約200万人が疾患をかかえているといわれています。2010年代、明治国際医療大学 教授 伊藤和憲氏らのグループが中心となり研究が進められ効果が検証されました。現在、線維筋痛症のガイドラインにも鍼灸が掲載されています。

他にも日本鍼灸の研究については別途ご紹介いたします。

鍼灸の読み方

よく質問されるのが鍼灸の読み方です。鍼灸は鍼(はり)と灸(きゅう)と書いて「しんきゅう」と読みます。また、「はりきゅう」と読む場合もあります。また、針灸は同意語です。

鍼灸の多職種連携の必要性

鍼灸は、その治療効果を最大限に発揮するために、医師や看護師、理学療法士、薬剤師など他の医療専門職との連携が重要です。多職種の視点を取り入れることで、患者の全体的な健康状態を把握し、より包括的な治療が可能となります。特に慢性疾患や高齢者のケアにおいて、鍼灸の補完的役割が認識されつつあり、これにより西洋医学と東洋医学の統合が図られることが期待されています。

患者中心の医療

多職種連携は、患者を中心とした医療提供に不可欠です。鍼灸師は、体のエネルギー(気)の流れを重視しますが、同時に他の医療専門職が行う検査結果や治療計画と合わせて情報を共有することで、患者にとって最適な治療法を構築できます。例えば、医師が薬物治療を行う一方で、鍼灸師がその副作用を軽減する施術を行うといったケースもあります。

高齢者医療における連携

超高齢化社会では、高齢者の複雑な健康問題に対処するため、各分野の専門家が連携し、鍼灸を活用した介入が効果的です。鍼灸は、慢性的な痛みや不眠、消化器系の問題に対応できるため、リハビリテーションや介護サービスとも相性が良く、多職種による包括的なケアの一環として注目されています。

医療現場での具体的な事例

例えば、リウマチ患者が疼痛管理の一環として鍼灸を利用する場合、主治医と鍼灸師が連携して治療計画を立てることで、患者の生活の質を向上させることができます。また、精神的ストレスによる症状を緩和するために、心理カウンセラーや臨床心理士と協力して鍼灸を施すことも増えています。

今後の展望

今後、鍼灸と他職種との連携は、統合医療のさらなる発展に寄与すると考えられます。鍼灸師は、患者一人ひとりに合った治療を提供するために、他職種と協力し、医療チームの一員としての役割を強化していくことが重要です。このような多職種連携によって、より多くの患者が鍼灸の恩恵を受けられるようになるでしょう。

👉他職種連携と多職種連携の違いとは?

ウェルビーイング市場における鍼灸の可能性

ウェルビーイング市場は、健康・幸福・心身の調和を重視する分野で急成長しており、鍼灸はその中で大きな可能性を秘めています。特にストレスや不眠、慢性疼痛などの症状を改善する鍼灸は、セルフケアやホリスティックな健康管理を求める現代のニーズに合致しています。また、鍼灸は副作用の少ない治療法として、自然療法や予防医療を重視するウェルビーイング市場において一層注目されつつあります。

自然療法とセルフケアの需要

ウェルビーイング市場において、自然療法や非侵襲的な治療法への需要が高まっています。鍼灸は、薬物治療を避けたい人や、心身のバランスを自然な形で回復させたい人々に支持され、セルフケアの一環として取り入れる人も増えています。特に、近年のセルフケアなどトレンドの中で、自宅でお灸を行うキットの普及や鍼灸に関するwebサービスやアプリケーションの登場が、その手軽さと効果をさらに広めています。

メンタルヘルスの改善と鍼灸

ストレスや不安、不眠といった現代社会特有のメンタルヘルス問題に対して、鍼灸がリラクゼーション効果やストレス軽減効果を発揮することが認識されています。ウェルビーイング市場では、マインドフルネスや瞑想と同様に、鍼灸がメンタルヘルスケアの一環として利用されるケースが増加しており、心身のリラクゼーションを求める人々にとって、鍼灸は理想的な選択肢となりつつあります。

フィットネス業界との連携

フィットネスやアクティブライフスタイルを重視する市場においても、鍼灸は筋肉痛の緩和やリカバリー、柔軟性の向上といった面で大きな役割を果たしています。スポーツ選手やアスリートの間でも、パフォーマンス向上やケガの予防のために鍼灸が取り入れられることが増えており、スポーツリハビリテーションと鍼灸の連携が進んでいます。

ウェルビーイング市場の展望

今後、鍼灸はウェルビーイング市場における重要な柱の一つとして、さらに認知されていくでしょう。自然療法やホリスティックケアへの需要の高まりに伴い、鍼灸の役割は広がり続けると考えられます。また、技術の進化やデジタルヘルスとの連携により、鍼灸がより手軽に、そして多様な形で提供されるようになることが期待されます。

👉鍼灸のウェルビーイング効果とは?

日本鍼灸大学とは?

日本鍼灸大学は、学校教育法上の「大学」や「教育施設」ではありませんが、「大学」の名称については文部科学省と相談の上で使用しています。この大学は、有志の鍼灸師とセイリン株式会社が、日本鍼灸の発展と次の2,000年に繋がる学問の基礎を築くことを目指して設立されました。

「世間と鍼灸を学問する」をテーマに、鍼灸を通して社会と深く関わり、知識を共有する場を提供しています。また、設立の理念には、日本初の鍼灸大学である「明治鍼灸大学」(現・明治国際医療大学)を創立した谷口健蔵先生や、日本初の盲人の鍼灸医学博士となった芹澤勝助先生(東京教育大学、現・筑波大学)など、先人たちの「鍼灸師に学問を通じて心の豊かさを」という思いが受け継がれています。

鍼灸に興味のある皆様にとって、学びと交流の場となることを願っています。どうぞよろしくお願い申し上げます。

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日本鍼灸大学は「世間と鍼灸を学問する」をコンセプトに有志の鍼灸師とセイリン株式会社が立ち上げたWebとYouTubeチャンネルです。普段、世間話と鍼灸学のお話しを井戸端会議的に気軽に楽しめる内容に仕立て日本鍼灸の奥深さを鍼灸学生に向けて提供します。
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