大腰筋のトリガーポイント|腰痛と姿勢改善に効く鍼アプローチ

はじめに|大腰筋のトリガーポイントと腰痛の関係

大腰筋(Psoas Major)は、腰椎から大腿骨にかけて伸びる深層筋であり、姿勢の維持や歩行動作に重要な役割を果たす。日常生活の中で座位姿勢が長時間続くと、大腰筋が過剰に収縮し、トリガーポイントが形成されやすくなる。

大腰筋にトリガーポイントが生じると、慢性腰痛、股関節の違和感、姿勢の崩れ(反り腰・猫背) などの問題を引き起こす。特に、デスクワークや運転時間が長い人は、無意識のうちに大腰筋が短縮し、腰部への負担が増大する。

本記事では、大腰筋のトリガーポイントがもたらす影響、関連痛のパターン、鍼灸施術のポイントについて詳しく解説する。


1. 大腰筋の役割とトリガーポイントの発生部位

大腰筋の解剖学的特徴

大腰筋は、腰椎(L1〜L5)から起始し、大腿骨の小転子に停止する深部筋 であり、腸骨筋とともに「腸腰筋」と呼ばれる。主な機能は以下の通り。

腰椎の安定化 → 姿勢の維持に重要な役割を果たす
股関節の屈曲 → 歩行時や階段昇降時に活躍する
骨盤の前傾・後傾の調整 → 反り腰や猫背の原因に関与

トリガーポイントの発生部位

大腰筋のトリガーポイントは、腰椎沿いの筋腹部 に多く形成される。特に、以下のポイントに圧痛が生じることが多い。

  • 第12肋骨の下方 → 腹部を圧迫すると深部に痛みを感じる
  • 腸骨稜の内側 → 腰椎と骨盤の境目に硬結が生じやすい
  • 小転子付近 → 股関節の前面に放散痛を伴う

トリガーポイントが形成されると、腰の深部に重だるい痛みが発生し、股関節の可動域が制限される。


2. 大腰筋のトリガーポイントと関連痛のパターン

大腰筋の関連痛とは?

大腰筋にトリガーポイントができると、痛みは腰部だけでなく、鼠径部(そけいぶ)、股関節、太もも前面 へと広がる。特に以下のような関連痛が見られる。

腰部の深部痛 → 腰椎の周囲に鈍い痛みを感じる
鼠径部の痛み → 太ももの付け根に違和感が出る
大腿前面の放散痛 → 坐骨神経痛と似た症状を呈する

トリガーポイントの特徴的な症状として、腰を伸ばすと痛みが増し、丸めると軽減する傾向がある。

関連痛の診断ポイント

  • 腰痛を訴える患者が股関節の屈曲で痛みを感じる場合、大腰筋が関与している可能性が高い。
  • 長時間座った後に腰を伸ばすと痛む場合、大腰筋が短縮していることが考えられる。
  • 触診で腹部から圧迫し、深部に響く痛みが出る場合、トリガーポイントの存在を示唆する。

3. 鍼灸による大腰筋トリガーポイントの施術法

施術の基本ステップ

  1. トリガーポイントの特定(触診・圧痛の確認)
  2. 経穴(ツボ)を活用した刺鍼
  3. 施術後のストレッチ・セルフケアの指導

鍼施術のポイント

🟢 深層部への刺鍼(腹部アプローチ)

  • 刺鍼ポイント: 気海(きかい)、関元(かんげん)、大横(だいおう)
  • 施術方法: 腹部から圧痛点を確認し、慎重に深部へ刺鍼。長鍼(寸6、50mm以上)を使用し、ゆっくりと刺入する。

🟢 背部からのアプローチ

  • 刺鍼ポイント: 腎兪(じんゆ)、志室(ししつ)
  • 施術方法: 腰椎の両側に沿って刺鍼し、筋緊張の緩和を促す。筋膜リリースを組み合わせることで効果を高める。

🟢 股関節周囲へのアプローチ

  • 刺鍼ポイント: 曲骨(きょくこつ)、衝門(しょうもん)
  • 施術方法: 鼠径部にアプローチし、大腰筋の停止部を緩める。股関節の可動域を改善し、痛みの軽減を図る。

適切な刺鍼技術とツボの選定により、大腰筋のトリガーポイントを的確に解消し、腰痛の緩和を促すことができる。


4. セルフケアと再発防止策

鍼施術後に適切なセルフケアを指導することで、症状の再発を防ぎ、長期的な改善を促進する。

おすすめのセルフケア方法

  1. ストレッチ
    • 仰向けで片膝を抱え、大腰筋を伸ばすストレッチを1回20秒×3セット
    • ランジストレッチで股関節の柔軟性を高める(左右30秒ずつ)
  2. 温熱療法(お灸やホットパック)
    • 気海や関元にお灸を据え、血流を促進する
  3. フォームローラーを活用した筋膜リリース
    • 腹部を軽く圧迫しながらリリースすることで、深層筋の緊張を緩和

まとめ

大腰筋のトリガーポイントは、慢性的な腰痛や股関節の違和感、姿勢不良の原因 となるため、適切な診断と施術が重要。

腰椎沿いの深部にトリガーポイントが形成される
腰痛だけでなく、鼠径部や大腿前面の関連痛を引き起こす
鍼灸では、腹部・背部・股関節周囲のアプローチが有効

まとめ

僧帽筋のトリガーポイントは、肩こり・頭痛の大きな原因となるため、適切な診断と施術が重要。

上部線維のトリガーポイントは、頭痛や首のこりと関連が深い
中部・下部線維のトリガーポイントは、肩甲骨や背中の痛みと関係がある
鍼灸施術では、トリガーポイントの位置を正確に特定し、適切な経穴を選択することが大切

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