「理由もなく涙が出てくる」
「赤ちゃんがかわいいのに、気持ちが沈む」
「誰にも頼れず、ひとりで抱えている気がする」
それは、「産後うつ」かもしれません。
現代の出産後、およそ7人に1人が産後うつの傾向を示すとも言われており、
その多くがホルモンバランスの急激な変化と、心身の回復の遅れによるものです。
この記事では、東洋医学から見る産後うつの特徴と、
鍼灸師としてできる施術・声かけ・養生指導について解説します。
なぜ産後に“うつ状態”が起こるのか?
◆ 現代医学的な背景
- 分娩後、女性ホルモン(エストロゲン・プロゲステロン)が急減
- 育児による慢性疲労・睡眠不足・孤立感
- 「こうあるべき」というプレッシャーや自己否定
☞ 脳内のセロトニンバランスも崩れやすく、抑うつ状態・感情の起伏・不眠などの症状につながります。
東洋医学で見る「産後うつ」のからだ
東洋医学では、出産を「血と気の大量消耗」と捉えます。
特に関係するのは、「腎・血・心」。
◆ 腎虚(じんきょ)
- 出産によって腎精を大きく消耗
- 息切れ・疲れやすさ・冷え・腰のだるさに
◆ 血虚(けっきょ)
- 大量の出血と産後の消耗 → 血不足
- 不安感・不眠・ふらつき・めまい・顔色の悪さに
◆ 心神不安(しんしんふあん)
- 育児ストレス・孤独感が「心」に影響
- 情緒不安・焦燥・涙もろさ・夜間の不眠
☞ 産後うつは、「からだ」と「こころ」の両面が消耗した状態といえます。
鍼灸でできる産後うつケア|3つの柱
◆ ① 腎を補い、全身の回復力を支える
ツボ名 | 主な作用 |
---|---|
腎兪(じんゆ)・命門(めいもん) | 体の中心を温め、腎精を補う |
気海(きかい)・関元(かんげん) | 元気を補い、疲労回復に |
三陰交(さんいんこう) | 血の生成・生殖機能の回復を助ける |
➡ 温灸・てい鍼・指圧など、やさしい刺激+温める施術が安心感を与えます。
◆ ② 血と心を養うことで、情緒の安定を促す
ツボ名 | 主な作用 |
---|---|
心兪・神門 | 不安感・涙もろさ・情緒不安に |
脾兪・中脘 | 脾胃を整え、栄養吸収を助ける |
百会・内関 | 精神安定・気の上衝を抑える |
➡ “気を鎮め、血を満たす”という東洋医学らしいケアが、心の落ち着きにつながります。
◆ ③ 孤立感への対応:施術者の“まなざし”が鍵
- 話を遮らず、評価せず、「聴く姿勢」を持つ
- 「がんばりすぎていること」を肯定してあげる
- 「また来ていい」と思ってもらえる安心感のある関わりを
☞ 治療効果以上に、「ここに来ると安心する」と感じてもらえることが、産後うつケアの第一歩です。
鍼灸師が伝えたい産後の養生とセルフケア
✅ 1. 「ととのえる食習慣」
食材 | 効果 |
---|---|
小豆・黒ごま・くるみ | 腎と血を補う |
鶏肉・かぼちゃ・山芋 | 胃腸を支え、疲労回復に |
温かい汁物(味噌汁・スープ) | 冷えを防ぎ、消化吸収をサポート |
✅ 2. 睡眠と休息を“質”で補う
- 「昼間に10分でも目を閉じるだけ」で回復の足しに
- パートナーと協力して、“30分の中途半端な仮眠”を肯定する
- 湯船で副交感神経を優位にし、寝つきを改善
✅ 3. 「できていること」に目を向ける習慣
- 日記に“今日できたことを3つ”書く
- 「赤ちゃんが泣いた → 対応できた」=成功体験
- セルフケア=“自分を責めない習慣”づくり
まとめ|産後うつは“自然な変化”に鍼灸が寄り添える領域
産後の女性は、
- 身体の消耗
- ホルモンの変化
- 環境の激変
という三重苦の中にいます。
鍼灸は、「整える」「温める」「寄り添う」ことができる医療。
そのやさしさは、産後ケアという領域でこそ真価を発揮します。
- 腎を温め、精を養い
- 血を補い、心を落ち着け
- 気を通し、“またやっていける感覚”を取り戻す
そんな施術ができる鍼灸師を、一人でも多く育てていくことが、
この社会にとっても大切なことだと、私たちは考えています。
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