思春期うつの理解と鍼灸的アプローチ|臨床で活かすための基礎と心の触れ方

「最近、10代の患者さんから“学校がしんどい”という相談を受けることが増えた」
「親御さんから“鍼灸で少しでも気持ちが軽くなれば…”と紹介される」
——こうしたケース、臨床の現場でも少しずつ見られるようになってきました。

思春期のうつ症状は、大人と違い“不安定でつかみにくい”ことが多く、鍼灸師にとってもアプローチの難しさを感じる場面があるかもしれません。

この記事では、思春期うつの基本的な理解を押さえながら、
鍼灸師ができる“心に寄り添うケア”と、東洋医学的な捉え方、現場での接し方のヒントをお伝えします。


思春期うつの特徴|「怒り」「無気力」はSOSのサイン

◆ 思春期特有の表れ方とは?

思春期のうつ症状は、大人のような「落ち込み」「無力感」ではなく、以下のような行動や身体症状として現れることが多いです。

主なサイン具体例
感情の変化イライラ、怒りっぽい、急に黙り込む
行動の変化学校に行けない、部屋にこもる、スマホ依存
身体の不調頭痛、腹痛、過眠または不眠、食欲低下

☞ 特に「学校がつらい」「何もしたくない」は、心の深い疲労のサインとして見逃せません。


鍼灸師としての関わり|「治す」より「安心をつくる」

鍼灸師にできることは、うつ病を“治療する”ことではありません。
ですが、「安心して呼吸できる時間と空間」を提供することは可能です。

◆ 鍼灸が提供できる価値とは?

  • 自律神経の調整(特に副交感神経を優位に)
  • 身体感覚の回復(自分の体に触れられる感覚)
  • 「言葉がいらない」非言語的なケア

☞ 診察室の中で、「この人といると落ち着く」という印象を残すだけでも、回復の入口になります。


東洋医学的な視点で見る思春期うつ

東洋医学では、思春期うつを以下のように捉えることができます。

◆ 肝気鬱結(かんきうっけつ)

  • ストレスや感情の抑圧が「肝の疏泄機能」を乱す
  • イライラ、怒り、不眠、月経不順などを伴う
    加味逍遙散(かみしょうようさん)などの漢方と近い見立て

◆ 心脾両虚(しんぴりょうきょ)

  • 思い悩みすぎて気血が消耗、心が不安定に
  • 集中力の低下・健忘・不安感・過眠傾向
    帰脾湯(きひとう)系の考え方が対応

実際の施術で意識したいポイント

◆ ツボ例(目的別)

目的ツボ名効果
不安・緊張緩和神門・内関心を落ち着かせ、自律神経を整える
気の巡り太衝・合谷肝の疏泄を助け、イライラや詰まりを緩和
全身の調整三陰交・足三里冷え・胃腸虚弱・気血不足に対応

💡 思春期の患者には「刺さない鍼」や「お灸」「てい鍼」「触れるだけ」など、刺激の選択と“安全感”の配慮が重要です。


若手鍼灸師・学生が心がけたい接し方

  • 無理に「話そうとしない」
  • 一言の表情・呼吸・肌の反応に気づく
  • 「そのままでいいよ」というメッセージを態度で伝える

🌱 言葉ではなく、触れ方で安心感を伝える。
これは鍼灸という手技が持つ最大の力です。


まとめ|鍼灸ができる“心のケア”は確かにある

思春期うつの患者さんに対して、私たち鍼灸師ができることは決して小さくありません。

  • 言葉を超えた信頼関係を築く
  • 体を整え、心をゆるめる
  • 「この場所は安心していい」と感じてもらう

そんな施術者の在り方が、若い患者さんの人生をそっと支える一歩になるかもしれません。

臨床に出たとき、「治療」だけでなく「寄り添う」という視点も、ぜひ大切にしてみてください。


🔗うつ病の関連記事はコチラ
うつ病とは?症状・原因・治療法をやさしく解説【初心者向けガイド】

🔗鍼灸の関連記事はコチラ
[鍼灸の基礎知識:日本鍼灸の進化と現代医療における役割]
[鍼灸と自律神経の関係|ストレス軽減と健康改善のメカニズム]
[鍼灸でサポートする産後うつ|ホルモンバランス調整とストレス緩和によるケア]

開業鍼灸師のためのお役立ちメディア「カルテラス」へのリンク
鍼灸柔整キャリアラボへのリンク
鍼灸関連学会・セミナー・イベント
鍼灸師・あんまマッサージ指圧師・柔道整復師を目指す全国養成校 大学・専門学校一覧のバナーリンク

この記事を書いた人

アバター

日本鍼灸大学

日本鍼灸大学は「世間と鍼灸を学問する」をコンセプトに有志の鍼灸師とセイリン株式会社が立ち上げたWebとYouTubeチャンネルです。普段、世間話と鍼灸学のお話しを井戸端会議的に気軽に楽しめる内容に仕立て日本鍼灸の奥深さを鍼灸学生に向けて提供します。
※当サイトは学校教育法に則った大学施設ではありません。文部科学省の指導の元、名称を使用しています。

2023年より鍼灸柔整キャリアラボを試験的にスタート!鍼灸柔整キャリアラボは『詳細はこちら』ボタンからアクセス。