【はじめに】
「春になると不安定になる」
「夏は体がだるくて無気力になる」
「秋に寂しくなり、冬に気分が沈む」
——こうした“季節性のうつ症状”は、現代臨床で非常に多く見られます。
東洋医学では、これらを自然の変化と身体のリズムが呼応した結果と捉え、
**五行論(木・火・土・金・水)に基づく「五臓と感情の関係」**をもとにケアの方向性を考えます。
本記事では、四季別のうつ症状の特徴と、鍼灸による調整ポイント、セルフケア指導法を総合的に整理し、
現場での応用に役立つ“季節とうつ”の理解を深めていきます。
🌸 春とうつ|「肝と気の巡り」を整える
主な症状 | 東洋医学的背景 |
---|---|
イライラ・落ち着かない | 肝気が滞る(肝気鬱結) |
睡眠の質低下・不安 | 肝と心のバランスの乱れ |
胃腸の不調 | 肝木が脾土を剋する(肝脾不和) |
◆ 鍼灸ケアの方向性
- 太衝・内関・行間:肝気の疏泄を助ける
- 足三里・中脘:脾を補い、気の生成を支える
◆ セルフケア提案
- 朝の深呼吸と日光浴
- 柑橘類・しそ・春野菜を取り入れた「巡りの食養生」
- 過密な予定を避け、“余白”を意識する生活設計
☀️ 夏とうつ|「心と気の消耗」を補う
主な症状 | 東洋医学的背景 |
---|---|
倦怠感・やる気の低下 | 発汗過多+陽気消耗=気虚 |
イライラ・不安感 | 心火の上昇・心神不安 |
消化不良・だるさ | 冷飲食による脾胃虚弱+内湿の蓄積 |
◆ 鍼灸ケアの方向性
- 足三里・気海・神門:気を補い、精神を安定させる
- 陰陵泉・豊隆:湿をさばき、体の重さを軽減
◆ セルフケア提案
- 冷たい飲食を控え、温かい汁物中心の食事へ
- 白湯・湯船入浴・軽い運動で陽気を養う
- カフェイン過多や過労を防ぎ、「疲れを翌日に持ち越さない」習慣を
🍂 秋とうつ|「肺と悲しみ」を整える
主な症状 | 東洋医学的背景 |
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物悲しさ・涙もろさ | 肺と“悲”の関連(五志) |
呼吸の浅さ・肌の乾燥 | 肺気虚・肺燥 |
無気力・人と会いたくない | 肺の宣発機能の低下・内向性の高まり |
◆ 鍼灸ケアの方向性
- 肺兪・太淵・中府:肺気を補い、呼吸を整える
- 神門・百会・太衝:情緒のめぐりと精神安定に
◆ セルフケア提案
- 秋の“白い食材”(梨・れんこん・ごぼうなど)で肺を潤す
- 深呼吸とアロマで“息の通り道”をつくる
- 無理に明るくせず、「静けさを味方にする」視点を共有
❄️ 冬とうつ|「腎陽と心の火種」を守る
主な症状 | 東洋医学的背景 |
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過眠・無気力 | 陽気不足(腎陽虚) |
冷え・腰痛・むくみ | 腎の弱り+水分代謝の滞り |
気分の落ち込み・社交性の低下 | メラトニン・セロトニンのリズム崩壊 |
◆ 鍼灸ケアの方向性
- 命門・腎兪・関元:腎陽を補い、体の芯から温める
- 百会・神門:沈みやすい気分の引き上げと心の安定に
◆ セルフケア提案
- 朝の日光浴と生活リズムの維持
- 黒ごま・くるみ・羊肉など「腎を補う食材」
- スマホを控えめにし、脳を休ませる夜の習慣をつくる
【季節を通して】
「うつ」は心だけでなく、“季節・体・感情の複合反応”
東洋医学では「心と体は一体」「自然と人は連動する」という思想が基本です。
そのため、季節のうつに対しても「感情」だけでなく:
- 五臓六腑の働き(肝・心・脾・肺・腎)
- 気・血・水のバランス
- 外界(寒熱・湿燥)との関係
を丁寧に読み解き、“今その人にとって必要な整え方”を導き出すことができます。
【まとめ】
四季はめぐり、心もまためぐるもの。
その揺らぎに気づき、寄り添うために、鍼灸師ができることは確かにあります。
- 春:肝と気をめぐらせ、内なる芽吹きを助ける
- 夏:脾と心を補い、過剰な熱と湿を整える
- 秋:肺と悲を抱き、呼吸と感情の通り道をつくる
- 冬:腎を温め、心の火種を守り、静かな回復を支える
“うつ”は孤立した症状ではなく、季節の中にある自然なゆらぎの一部とも言えるかもしれません。
鍼灸という手仕事が持つ「そっと整える力」を信じ、
その季節に必要なアプローチを、やさしく重ねていきましょう。
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