肩こりに対するSOAPカルテ記入例|症例で学ぶ記録の流れ

はじめに

肩こりは、鍼灸院において最も多く見られる訴えの一つです。
しかし「肩がこる」と一言で言っても、その背景には姿勢不良、眼精疲労、ストレス、冷え、消化機能低下など、さまざまな要因が絡んでいます。

SOAP式カルテを使えば、患者の訴えを整理し、観察・評価・施術計画までを一貫した記録として残すことができます。
今回は、「肩こり」をテーマにした実際の記録例を通じて、SOAP式の書き方を学ぶ記事です。


症例プロフィール(仮想症例)

  • 年齢・性別:32歳 女性
  • 主訴:肩こり(慢性)
  • 発症時期:1年前から断続的、1ヶ月前より悪化
  • 生活背景:デスクワーク、1日8時間以上のPC作業、残業多め
  • 既往歴:特になし、冷え性あり

SOAP記録例:肩こりの症例

S(Subjective:主観的情報)

  • 「1ヶ月前から右肩が重だるい。特に夕方になるとひどくなる」
  • 「デスクワーク中にズーンとした鈍い痛みが出る」
  • 「夜は疲れているのに、なかなか寝つけない」
  • 「慢性的に冷えやすい体質」

※重要ポイント:いつから/どこが/どんなふうに/どのタイミングで/背景要因を含めて記載


O(Objective:客観的情報)

  • 右肩外転可動域:120度で制限、終末時に痛み
  • 肩井・天宗に圧痛、僧帽筋上部に過緊張
  • 舌質やや紅、舌尖赤、苔薄白
  • 脈:弦・やや数、右関部に緊張感あり
  • 姿勢:猫背傾向、右肩が左より下がる

※視診・触診・舌診・脈診・姿勢観察を含む


A(Assessment:評価)

  • 肩周囲の筋緊張と血流停滞による肩こりと考えられる
  • 精神的ストレスが誘因となり、肝気鬱結の傾向が見られる
  • 気滞・血瘀に軽度の熱化が加わっており、肝実証寄りの状態

※「S+O→A」の流れを意識し、東洋医学的診断(証)と体質傾向の記載を組み合わせる


P(Plan:施術計画)

  • 使用経穴:肩井・天宗・太衝・肝兪
  • 手技:置鍼10分+温灸(背部)+耳鍼(神門)
  • 施術頻度:週1回の施術を3回継続、経過により間隔調整予定
  • 生活指導:深呼吸・首肩の軽いストレッチ、就寝前のスマホ制限
  • 次回評価ポイント:可動域、肩の重さ、夜間睡眠の変化

※施術内容と自宅ケアを組み合わせた実行可能なプランを記載


解説|このSOAP記録のポイント

✅ 情報の一貫性

「S:夕方に悪化する肩こり」→「O:筋緊張と姿勢異常」→「A:気滞・血瘀」→「P:肝の疏泄を促す経穴+温補」
このように、すべての項目が一貫していることが良質なカルテの条件です。


✅ 記録に“意図”がある

Pに「太衝・肝兪」と記載した理由が、Aの「肝気鬱結」の評価とつながっており、施術に根拠があることを記録から読み取れる構成になっています。


✅ 初回〜継続施術への展開がしやすい

「次回の再評価項目(可動域・重だるさ・睡眠)」を明示していることで、2回目以降の施術方針を決める材料として活用できます。


まとめ

肩こりのように頻度の高い症状こそ、「いつも通りの施術」で終わらせるのではなく、SOAPに則ってしっかりと観察・評価・計画を立てて記録することで、施術の再現性と効果検証が可能になります。

「なんとなく施術する」から「根拠を持って施術する」へ。
SOAP式カルテは、あなたの臨床判断を言語化し、信頼ある鍼灸師への一歩を後押ししてくれる記録法です。

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