はじめに
鍼灸院における施術記録は、患者の状態把握や施術方針の一貫性を保つために欠かせません。中でも「SOAP(ソープ)式カルテ」は、主観的・客観的な情報を整理し、評価と施術計画につなげるための汎用的かつ実用的な記録法として広く活用されています。
本記事では、SOAPの基礎から鍼灸臨床に応用するための具体的な書き方を解説します。
SOAPとは何か?
SOAPとは、以下の4つの構成要素の頭文字を取った医療記録法です。
- S(Subjective)主観的情報
患者の自覚症状や訴え。「○○が痛い」「寝つきが悪い」など。 - O(Objective)客観的情報
鍼灸師が観察・検査で得た客観的な所見。視診・触診・脈診・舌診の情報など。 - A(Assessment)評価
SとOをふまえた臨床的判断。東洋医学の証立てもここに含める。 - P(Plan)計画
施術の方針、治療内容、生活指導などの計画。
鍼灸におけるSOAP式の具体的な記載方法
1. 主観的情報(S)
患者の発言を忠実に記載します。問診時の会話をもとに、以下を整理します。
- いつから:例)「3日前から」
- どこが:例)「右肩が重だるい」
- どんな痛み:例)「ズーンと重たい感じ」
- どのようなときに悪化/改善するか:例)「デスクワークが続くと悪化」
記載例:
「1週間前から右肩に重だるさがあり、夕方になると症状が強くなる」
2. 客観的情報(O)
施術者が観察・検査して得た情報を記載します。
- 姿勢や皮膚の状態(紅斑・冷感など)
- 圧痛点や可動域制限
- 脈診・舌診・腹診などの東洋医学的所見
記載例:
「右肩外転120度で制限あり。肩井に圧痛。脈は沈でやや弱。舌苔は薄白」
3. 評価(A)
SとOをふまえて症状の原因や状態を評価します。
- 西洋医学的:筋緊張、関節可動域などの状態分析
- 東洋医学的:「肝鬱気滞」や「脾虚湿困」などの証立て
記載例:
「筋緊張性の肩こり。精神的ストレスと関連あり。肝鬱気滞と考えられる」
4. 計画(P)
施術内容、使用経穴、生活指導などを具体的に記します。
- 使用する手技(鍼・灸・手技など)
- 使用する経穴
- 今後の通院スケジュール
- 自宅での養生指導
記載例:
「肩井、天宗、肝兪に鍼。背部に温灸。ストレス緩和のため深呼吸指導。週1回の施術を継続予定」
SOAP式カルテのメリットと活用効果
- 情報の整理ができ、施術方針に一貫性が出る
主訴から所見、判断、対応までが一本の流れで記録されるため、施術の質が安定します。 - 施術効果の可視化ができる
毎回のカルテで「何が変わったか」を見える形で残すことができます。 - 多職種連携・チーム施術にも有用
記録の標準化により、引き継ぎや連携の際も情報伝達がスムーズに。 - 記録としての信頼性が高い
トラブル時の記録証明や、レセプト添付にも対応しやすくなります。
よくある記載ミスと注意点
- 評価(A)が曖昧:「施術を行った」などの事実だけでは不十分
- 客観的情報(O)に主観が混ざる:「だるそうに見えた」はNG、「肩に熱感あり」はOK
- SとOが混在:「右肩に痛みがあると言っていたので圧痛があった」→分けて記載すべき
まとめ
SOAP式カルテは、鍼灸院にとっても導入すべき価値の高い記録様式です。患者の主訴や所見を正しく記録し、評価と計画を整理することで、施術の質向上・情報共有・トラブル対応にも役立ちます。
記録を「作業」ではなく「臨床思考の整理」として活用することで、鍼灸師としての診る力・書く力も向上していきます。
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