客観的情報(O)の記録例と東洋医学的観察法

はじめに

SOAPカルテにおける「O(Objective:客観的情報)」は、鍼灸師自身が施術前後に観察・検査した結果や反応を記録する部分です。
患者の訴えをもとに実際の状態を確認し、客観的な情報を記録することで、施術の的確さと継続性を支える土台となります。

この記事では、Oに何をどのように書くべきか、東洋医学ならではの観察法とともに解説します。


O(客観的情報)とは何か?

客観的情報とは、次のような情報を指します:

  • 鍼灸師が目で見たこと(視診)
  • 触って感じたこと(触診)
  • 動かして分かったこと(可動域検査など)
  • 診察で得たこと(舌診・脈診・腹診など)

これらは、主観(S)と違い、「施術者の観察と判断に基づいた事実」を記載するパートです。


よくあるO記録の誤りと対策

❌ NG例

「肩が重そうだった」「疲れている印象を受けた」

→このような表現は施術者の“主観的印象”であり、Oではなく「A」または記載すべきでない曖昧な表現です。


✅ 改善例

「肩外転120度で可動域制限あり」「肩井に圧痛、押圧で軽度の熱感を認める」「脈は沈・緩、舌は淡紅・薄白苔」

数字・所見・部位・診察法が明確に記されており、再現性のある記録となります。


鍼灸臨床でのO記録に役立つ診察方法と例

❶ 視診(目で見る)

  • 顔色、姿勢、皮膚の状態(紅斑・くすみ・乾燥など)
  • 舌診:舌色・舌苔・舌の形(胖大・瘀点など)

記載例:
「皮膚乾燥、口唇の色が淡い」「舌質淡、舌尖に瘀点、薄白苔あり」


❷ 触診(触って確認)

  • 圧痛点、冷感・熱感、筋肉の緊張度
  • 背部・腹部の反応点(東洋医学的触診)

記載例:
「肩井に中程度の圧痛、僧帽筋上部に過緊張」「腹診にて中脘・左大巨に圧痛あり」


❸ 動診・検査

  • 可動域(ROM)制限の有無
  • 立位・歩行姿勢、座位保持などの評価

記載例:
「前屈制限あり(指先−膝上15cm)」「右肩外転130度まで、終末時に痛み」


❹ 脈診(六部定位脈)

  • 脈位・脈幅・脈力・脈質(浮・沈、数・緩、虚・実など)

記載例:
「脈は沈・細、尺中にやや弱さあり。関中やや緊」


Oを正しく書くメリット

  • 施術前後の効果が可視化される
  • 評価(A)に客観的根拠が持てる
  • 他の施術者が読んでも再現性の高いカルテになる
  • 自分自身の診察力のブラッシュアップにもなる

記録の質を高める3つのポイント

  1. 定型表現+変化を加える
    「〇〇に圧痛」「舌質赤、苔少」など、毎回同じ表現にならないよう、変化を追記。
  2. 比較を書く
    「前回より圧痛範囲が縮小」「舌苔がやや厚くなった」など、前回との違いを記載。
  3. 過剰な解釈はしない
    Oは「見た事実・感じた事実」のみ。考察や診断はAに書く。

まとめ

「O」は、患者の主観(S)を裏付け、評価(A)につなげる重要な中継地点です。
目で見て、手で感じて、診て得た事実を、簡潔かつ明確に記録することで、SOAPカルテ全体の信頼性がぐっと高まります。

東洋医学の所見も客観的視点で書き分け、日々の施術を“データとして残せる”よう意識して記録を行いましょう。

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