はじめに
SOAP式カルテは、患者の訴えや所見、施術方針を「S・O・A・P」という4つのステップで整理して書く方法です。
しかし、現場では「どの項目に何を書くのかが曖昧」「すべてをSに書いてしまう」「評価がないまま施術している」などの記録ミスがよく起こります。
このようなミスを防ぐには、それぞれの項目の意味を正しく理解し、記録内容の区別を明確にすることが大切です。
本記事では、SOAPカルテにありがちな間違いと、それを改善する具体的な方法を解説します。
1. S(Subjective):主観と客観が混ざっている
❌ よくあるミス
「右肩が痛く、肩井に圧痛があった。」
このような文では、「右肩が痛い」は患者の主観的な訴え(S)ですが、「肩井に圧痛がある」は施術者の触診による客観的な所見(O)です。これを同じ項目に書いてしまうと、「誰の情報か」が不明確になります。
✅ 正しい記載方法
- S(主観):「右肩がズキズキ痛む。特に夜中に痛みで目が覚める」
- O(客観):「肩外転120度で制限あり。肩井に圧痛あり」
ポイントは、Sには“患者が話したこと”のみを書くこと。
施術者が観察・確認した内容はOに書きましょう。
2. A(Assessment):評価が書かれていない/曖昧すぎる
❌ よくあるミス
「肩こりのため、肩周囲に鍼を行った」
この記録では、評価(A)がありません。
なぜ肩こりが起きているのか、どのような状態なのかといった施術者の臨床判断が記載されていないため、施術の意味が伝わりません。
✅ 正しい記載方法
- A(評価):「筋緊張性の肩こり。長時間のデスクワークにより肩上部の血流が悪化。肝気鬱結の傾向も見られる」
評価は「何が問題で」「なぜ起きていて」「どう捉えたか」を簡潔に記述するのがポイントです。
東洋医学的な証(例:肝鬱気滞、脾気虚など)を使う場合もこのAに書きます。
3. P(Plan):計画が抽象的すぎる/次に何をするのか不明
❌ よくあるミス
「今後も経過を見ながら施術予定」
このような記録では、どのような施術をするのか、次回どうするのかがわかりません。
✅ 正しい記載方法
- P(計画):「肩井・天宗に置鍼、温灸併用。ストレッチ指導を併せて行う。1週間後に再評価」
具体的な経穴・手技・頻度・指導内容などを明確に記すことで、記録としての価値が高まり、他のスタッフが見ても内容がすぐに把握できます。
4. SOAPの流れに一貫性がない
❌ よくあるミス
Sに「腰が重い」と書かれているのに、Pでは「肩こりへの施術」となっている。
このように、主訴(S)と施術内容(P)が食い違っていると、記録の整合性がなくなります。
✅ 正しい流れの一例
- S:「1週間前から腰が重だるく、朝に強く感じる」
- O:「腰部の圧痛(L3〜L5)、前屈制限あり、舌苔白、脈沈」
- A:「寒湿による腰痛と考えられる。脾腎陽虚の傾向」
- P:「腎兪・命門・志室に温灸と鍼施術。冷え対策の生活指導。3日後に再診予定」
SOAPは流れがつながって初めて意味を成すということを意識しましょう。
5. 経過の記録が反映されていない
SOAPカルテは「1回ごとに完結した記録」ではなく、継続的な施術プロセスを追うためのものです。
症状の変化が記録に反映されていないと、施術が本当に効果的だったのかがわかりません。
✅ 書き方の例(2回目以降)
- S:「前回の施術後、痛みが少し軽減し、夜は眠れた」
- O:「肩外転可動域が130度に改善。圧痛も軽減」
- A:「施術の効果あり。引き続き筋緊張と血流改善を目的とする」
- P:「同部位に鍼+温灸を継続。姿勢指導を追加。次回1週間後」
まとめ:正確なSOAP記録は臨床力の証明
SOAP記録のミスは、「書く技術」の問題ではなく、臨床の思考が整理されていないことの現れでもあります。
どのように患者の訴えを捉え、何を見て、どう判断し、どんな施術をするのか──
この流れを明確にすることで、記録の質だけでなく、鍼灸師としての診る力・伝える力も確実に向上します。
📚 関連記事
▶️ SOAP式カルテとは?鍼灸院での正しい書き方と臨床に活かす記録のコツ
▶️ 主観的情報(S)の記録ポイントと聞き方の工夫
▶️ 評価(A)の立て方と東洋医学的な証立て
▶️ 施術計画(P)の書き方と症状別の工夫
鍼灸関連についてはコチラ
▶️ 経絡治療とは?本治法と標治法で整える鍼灸の根本療法ガイド
▶️ 中医学とは?自然治癒力を高める東洋医学の基本理論・治療法・効果
▶️ 鍼灸の基礎知識:日本鍼灸の進化と現代医療における役割