はじめに
SOAPカルテの最初の項目である「S(Subjective:主観的情報)」は、患者本人が感じている症状や違和感、体験したことを記録するパートです。
ここをおろそかにすると、以降の客観的所見(O)・評価(A)・計画(P)も不明確になります。
この記事では、「Sに何を書くべきか」「どんなふうに聞き出せばよいか」を、鍼灸院の現場を前提にやさしく解説します。
S(主観的情報)とは何か?
主観的情報とは、患者が感じている身体・精神的な状態や生活上の困りごとを、そのままの言葉で記録する情報です。
たとえば、
- 「肩が重だるい」
- 「夜眠れない」
- 「生理の前になるとイライラする」
- 「最近、気分が落ち込む」
など、症状そのものだけでなく、不調の背景や生活の変化も含まれます。
よくある勘違い:Sに書いてはいけないもの
❌ NG例:「脈が沈で弱い」「肩に圧痛あり」
→これらは施術者が得た情報であり、「O(客観的情報)」に書くべきです。
Sには「患者が自分の感じたことを言葉にしたものだけ」を記録します。
「〜と患者が訴えた」「〜が気になると話す」といったように、情報の出どころを明確にすることが大切です。
鍼灸院でSを充実させるための聞き方の工夫
❶ 「いつからですか?」の深堀り
- ✅ 「いつからその症状がありますか?」
- ➕ 「その前後で生活や仕事に変化はありましたか?」
→発症時期とその背景の変化を聞くことで、体調悪化のトリガーが見えてきます。
❷ 「どんなふうに痛みますか?」の形容語を引き出す
患者の「痛い」は非常に曖昧です。
- ✅「ズキズキしますか?ジンジン?しびれる感じですか?」
- ➕「その痛みはじっとしていてもありますか?動くと強くなりますか?」
→擬音語や動作との関連を聞くと、訴えのイメージが具体化します。
❸ 「他に気になることありますか?」の一言で本音が出る
主訴だけを聞いて終わるのではなく、「最後にもう一つ」といった軽い質問で、眠り・便通・食欲・気分など、体全体の調子を引き出せます。
実際の記載例(良い例と悪い例)
❌ NG例(ぼんやりしている)
「なんとなく調子が悪い」「ストレスが多い」
→これでは施術方針が立てづらく、AやPに反映しにくくなります。
✅ 改善例(具体的で流れがある)
「2週間前から肩が重だるい。長時間パソコン作業をしていると夕方に悪化。寝ると少し楽になる。仕事のストレスもある」
→症状の起点・性質・時間帯・緩和因子・背景要因が含まれており、その後のO・A・Pにつなげやすい主観情報となっています。
注意点:患者の言葉を“翻訳しすぎない”
カルテを書く際、どうしても「正しい言葉で書こう」としてしまいますが、Sに関しては患者の言葉をなるべくそのまま残すことが大切です。
たとえば、
- 「ゾワゾワする」「シャキッとしない」「泣きたくなるような感じ」など
曖昧に見える表現でも、それが患者の主観であり体感なので、そのまま記載しましょう。
まとめ
主観的情報(S)は、患者の症状だけでなく、「今どう感じているか」「どこに困っているか」という心と体の声を聴くパートです。
的確な問診と丁寧な記録によって、評価や施術方針も的確に組み立てられるようになります。
まずは「聞く力」を磨き、「そのまま書く力」を育てることが、SOAP記録の第一歩です。
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