はじめに:問診は“症状を聞く”のではなく“背景を掘る”ための対話
中医学における問診は、単なる情報収集ではなく、患者の心と体に寄り添うコミュニケーションです。
- 「どこが痛いか?」よりも、「いつ・どんなふうに・どんなときに悪化するか?」
- 「眠れますか?」ではなく、「眠るまでにどれくらいかかりますか? 途中で目が覚めますか?」
このように、具体性・丁寧さ・共感をもって質問することで、より深く・正確な証(しょう)の把握に繋がります。
1. 基本姿勢|信頼関係があってこそ本音が引き出せる
患者との会話で重要なのは、安心感と非評価的な態度です。
- 否定しない
- さえぎらない
- 話のペースに合わせる
- 主観的な感覚にも価値を置く
- 時に雑談も挟んで心を開いてもらう
これらを意識するだけで、患者の口から思わぬキーワードや証のヒントが飛び出すことも少なくありません。
2. カテゴリ別・中医学的な質問例一覧
以下に、カテゴリ別に中医学的な観点で重要な質問をまとめます。
✅ ① 疲れやすさ・体力の状態(気虚の見極め)
- 最近、以前より疲れやすくなったと感じますか?
- 朝からだるいですか? それとも夕方になると疲れますか?
- 話すのが面倒に感じることがありますか?
- 食後に眠くなったり、お腹が張ったりしませんか?
- 風邪を引きやすい方ですか? 引くと長引きますか?
✅ ② 体の熱・冷え・汗の状態(寒熱・陰陽バランス)
- 体が冷えやすいですか?(足先、腰、背中など)
- 逆に、のぼせたり、顔が赤くなったりすることは?
- 冷たい飲み物が好きですか?
- 寝汗をかきますか?(どのくらいの量?)
- 汗をかきやすいですか? 無汗またはちょっとの運動でも大量にかきますか?
✅ ③ 睡眠について(心・腎・肝のバランス)
- 夜はすぐに眠れますか?
- 途中で目が覚めることは?(何時ごろ?)
- 朝すっきり起きられますか?
- 夢をよく見ますか? 内容を覚えていますか?
- 寝汗をかいたり、寝返りが多い方ですか?
✅ ④ 消化・排泄の様子(脾胃・腎・肝など)
- 食欲はありますか?
- 食後に胃がもたれたり、お腹が張ったりしますか?
- 便通は毎日ありますか?(硬さ、色、におい、残便感など)
- 下痢と便秘が交互に起こることは?
- おならが多い・匂いが強いと感じることはありますか?
✅ ⑤ 感情・精神状態(肝・心・脾との関係)
- 最近、イライラしたり怒りっぽくなったと感じますか?
- 物事を考えすぎてしまう傾向はありますか?
- 不安感が強かったり、気持ちが沈むことは?
- 落ち込みやすくなったきっかけはありましたか?
- 緊張しやすい、または人前で話すと手が震えたりしますか?
✅ ⑥ 女性の周期的変化(婦人科的質問)
- 月経周期は規則的ですか?(例:28日)
- 生理痛の有無・痛むタイミング・痛みの場所は?
- 経血の色や量、塊の有無は?
- 生理前後にイライラや便秘、むくみがありますか?
- 更年期症状(ほてり、汗、イライラ、不眠など)はありますか?
3. 質問の組み立て方のコツ
✅ ステップ形式で深掘りする
- オープン質問:「最近体調はいかがですか?」
- 感覚的質問:「それはどんな感じですか?」
- 限定質問:「毎日ですか? 特定の時間帯ですか?」
- 中医学的質問:「寒いと悪化しますか? 空腹時に起きますか?」
このように、患者が自然に話せる流れをつくりつつ、情報を“絞っていく”ことが効果的です。
4. 実際の問診でのシミュレーション例
🗣 例:「疲れやすいです」と言われたときの掘り下げ
- 「それはいつ頃からですか?」
- 「どんなときに特に感じますか? 朝ですか? 夕方ですか?」
- 「食後に眠くなったり、お腹が張ったりしませんか?」
- 「声が小さくなったと感じますか? 風邪は引きやすいですか?」
- 「舌を見せてもらえますか?(淡白・歯痕あり→気虚の可能性)」
→ 証の仮説:気虚証(脾気虚)
✅ まとめ:中医学の問診は“聴く力”がすべての出発点
中医学の診断は、問診なくして成り立ちません。
「どこが痛いか」ではなく、「なぜ、どうして、どんなふうに」その症状が出ているのかを引き出すことで、根本的な原因=証を導き出せます。
✅ 良い問診とは…
- 患者が安心して本音を話せる雰囲気
- 体だけでなく心の変化にも耳を傾ける姿勢
- 質問の順序と深掘りの工夫
- 証と治療の方針に直結する“気付き”を引き出す技術
ぜひ本記事の質問例を参考に、明日からの現場に活かしてください。
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