日本鍼灸とは?中国鍼灸・中医学との違いを徹底解説

「鍼灸」と一言で言っても、そのスタイルや理論には大きな違いがあります。特に日本鍼灸と中国鍼灸(中医学に基づく鍼灸)は、起源こそ共通していても、現在の実践方法や診断基準、教育制度まで異なる部分が多くあります。

この記事では、初めて鍼灸を学ぶ方・受ける方にもわかりやすく、「日本鍼灸とは何か?」「中国鍼灸との違いとは?」という問いに答えながら、それぞれの特性や使い分けのヒントを丁寧に解説していきます。


1. 日本鍼灸とは?|中国鍼灸との位置づけを整理

日本鍼灸は、古代中国から伝来した東洋医学をもとに、日本独自に発展した鍼灸医学です。代表的な流派には「経絡治療」「長野式」などがあり、体質を整える微細な刺激と、直感的な診断を重視します。

一方、中国鍼灸は、中国政府が1950年代以降に体系化した「中医学(TCM)」に基づく医療技術で、世界中で国家医療として認可されています。弁証論治という複雑な診断法を軸に、鍼灸・漢方・推拿などと連携しながら、症状と体質を同時に治療するのが特徴です。


2. 理論的な違い|中医学 vs 経絡治療

比較項目日本鍼灸(経絡治療)中国鍼灸(中医学)
理論基盤経絡の虚実を補瀉する弁証論治で病因・病機を分析
診断視点経絡単位でシンプル臓腑・気血津液・八綱など多層的
施術哲学気の流れを調える病理状態に直接アプローチ

経絡治療は、脈診・腹診から得た情報をもとに、気血の偏りを整えることに主眼を置きます。対して中医学では、舌診・問診・脈診・背候診などを組み合わせ、“証”を立ててから治療を設計するスタイルです。


3. 技術と刺激量の違い|浅刺 vs 深刺、繊細 vs パワフル

特徴日本鍼灸中国鍼灸
刺鍼深度浅刺(0〜3mm)深刺(1〜5cm)
鍼の種類細く柔らかい鍼(金鍼・銀鍼)太くしっかりしたステンレス鍼
刺激の強さ微細で穏やか得気を得る強めの刺激

日本鍼灸は、小児・高齢者・妊婦など刺激に敏感な体質の方に向いており、刺さない鍼(接触鍼)や浅刺を多用します。
中国鍼灸は、得気(鍼の響き)による反応を重視し、深刺や電気鍼も活用しながら、積極的に症状へアプローチします。


4. 診察・診断法の違い|脈診・舌診・腹診の扱い

診察法日本鍼灸中国鍼灸
脈診経絡の虚実を診る主軸病機や体質の分析補助
舌診補助的中心的な診断法
腹診経絡の状態を読み取る比重は低め

日本鍼灸では、脈診と腹診が診断の要であり、特に経絡治療では脈の変化を治療の指標とします。
中国鍼灸では、舌診を主軸に据え、「苔の色・形状・湿度」などから内臓や気血の状態を推定します。


5. 教育制度と臨床現場の違い|どこで学び、どう使うのか?

項目日本鍼灸中国鍼灸
教育機関鍼灸専門学校・大学中医薬大学・中医学院
資格制度鍼師・灸師の国家資格中医鍼灸師の国家資格
臨床環境民間治療院が中心中医病院・公的医療内で実施
医療制度自費診療が主流医療保険制度に組み込まれる

日本では、卒業後に流派(経絡治療、整動鍼など)を学会等で選択し、個人の裁量で多様な鍼灸スタイルが広がっているのが特徴です。
一方、中国では国家医療の一環として、中医学教育を受けたうえで統一された基準のもとに鍼灸が実践されます。


6. どちらが自分に合うのか?使い分けのヒント

鍼灸を受ける方、あるいは学ぶ方にとって重要なのは、「どちらが正しいか」ではなく、「どちらが今の自分に合っているか」を見極めることです。

  • 繊細な体質・慢性疲労・自律神経の乱れ → 日本鍼灸が向いている
  • 明確な痛み・頑固な症状・炎症など → 中国鍼灸が効果的

また、近年では両方を統合して使うハイブリッド型の臨床家も増加中。段階的に使い分けることで、相乗効果を得られるケースも多くなっています。


✅ まとめ|鍼灸の違いを知ることが、最良の選択につながる

「鍼灸はひとつではない」――。
日本鍼灸と中国鍼灸は、それぞれが歴史と理論を持つ正統な東洋医学の系譜です。

  • 日本鍼灸=体質を調え、気を整える“静の医術”
  • 中国鍼灸=病因を捉え、積極的に攻める“動の医術”

この違いを理解すれば、自分に最適な鍼灸を見つけられるだけでなく、より深く、安心して鍼灸を活用できるようになります。

もし迷った場合は、信頼できる鍼灸師に「どんな理論に基づいた鍼灸をしているのか」をぜひ尋ねてみてください。それが、東洋医学との豊かな関係の第一歩になるはずです。

📚 関連記事

▶️ 経絡治療とは?本治法と標治法で整える鍼灸の根本療法ガイド
▶️ 中医学とは?自然治癒力を高める東洋医学の基本理論・治療法・効果


鍼灸関連についてはコチラ
👉経絡とは?|東洋医学におけるエネルギーの流れをつなぐ道
👉鍼灸師の先輩が実践!経穴を楽しく覚える8つの効果的な学習法
👉鍼灸の基礎知識:日本鍼灸の進化と現代医療における役割

開業鍼灸師のためのお役立ちメディア「カルテラス」へのリンク
鍼灸柔整キャリアラボへのリンク
鍼灸関連学会・セミナー・イベント
鍼灸師・あんまマッサージ指圧師・柔道整復師を目指す全国養成校 大学・専門学校一覧のバナーリンク

この記事を書いた人

アバター

日本鍼灸大学

日本鍼灸大学は「世間と鍼灸を学問する」をコンセプトに有志の鍼灸師とセイリン株式会社が立ち上げたWebとYouTubeチャンネルです。普段、世間話と鍼灸学のお話しを井戸端会議的に気軽に楽しめる内容に仕立て日本鍼灸の奥深さを鍼灸学生に向けて提供します。
※当サイトは学校教育法に則った大学施設ではありません。文部科学省の指導の元、名称を使用しています。

2023年より鍼灸柔整キャリアラボを試験的にスタート!鍼灸柔整キャリアラボは『詳細はこちら』ボタンからアクセス。