はじめに|広背筋のトリガーポイントと肩関節の可動域制限
広背筋(Latissimus Dorsi)は、背中から上腕骨にかけて広がる大きな筋肉で、肩関節の動きに深く関与している。主に肩関節の内転・内旋・伸展を担当し、スポーツや日常動作において重要な役割を果たす。
デスクワークやスマートフォンの使用、長時間の座位姿勢によって広背筋が硬くなると、肩関節の可動域が制限され、腕が上がりにくくなる・肩の動作に違和感が出る・背中に慢性的な痛みを感じる などの症状が発生する。特に、肩を上げる際の痛みや、腕を背中に回す動作が制限される場合、広背筋のトリガーポイントが関与している可能性が高い。
本記事では、広背筋のトリガーポイントの発生原因、関連痛パターン、鍼灸施術のポイントについて詳しく解説する。
1. 広背筋の構造とトリガーポイントの発生部位
広背筋の解剖学的特徴
広背筋は、腰椎・仙骨・肋骨・肩甲骨の下部から上腕骨に付着する大きな筋肉 で、上半身の動作や姿勢維持に関与する。主な機能は以下の通り。
✅ 肩関節の内転 → 腕を体の内側に引き寄せる動作
✅ 肩関節の内旋 → 上腕を内側に回す動作(例:背中で手を組む)
✅ 肩関節の伸展 → 腕を後ろに引く動作
トリガーポイントの発生部位
広背筋のトリガーポイントは、主に以下の3か所に形成される。
- 腋窩(わきの下)付近 → 腕を上げる際の可動域制限を引き起こす
- 肩甲骨下角付近 → 背中の痛みや肩甲骨の動きの制限につながる
- 腰部の筋腹中央 → 腰の張り感や背部の不快感を引き起こす
特に、腋窩付近のトリガーポイントは、肩の動きを制限する大きな原因となる。
2. 広背筋のトリガーポイントと関連痛のパターン
広背筋の関連痛とは?
広背筋のトリガーポイントによる痛みは、局所的なものだけでなく、肩関節・上腕・背中・腰 に広がるのが特徴。主な関連痛パターンは以下の通り。
✅ 肩の痛み・可動域制限 → 腕が上がりにくくなる
✅ 背中の痛み・こり → 特に肩甲骨の下部に張りを感じる
✅ 腰部の張り感 → 長時間座ると腰の違和感が増す
✅ 上腕の痛み・しびれ → 腕を内側に回すと痛みが強くなる
特に、腕を上げたり、背中で手を組む動作で痛みや張りを感じる場合、広背筋のトリガーポイントが関与している可能性が高い。
関連痛の診断ポイント
- 腕を上げる動作で肩に引っかかるような違和感がある → 広背筋の短縮が関与
- 背中や腰の張りが強く、ストレッチで改善しにくい → トリガーポイントが影響
- 腕を内側に回すと痛みや制限が出る → 広背筋のトリガーポイントを疑う
3. 鍼灸による広背筋トリガーポイントの施術法
施術の基本ステップ
- トリガーポイントの特定(触診・圧痛の確認)
- 経穴(ツボ)を活用した刺鍼
- 施術後のストレッチ・セルフケアの指導
鍼施術のポイント
🟢 腋窩付近への刺鍼
- 刺鍼ポイント: 極泉(きょくせん)、天宗(てんそう)
- 施術方法: 長鍼(50mm以上)を使用し、広背筋の腋窩付近の硬結を緩める。腕を軽く持ち上げた状態で刺入すると効果的。
🟢 肩甲骨下部へのアプローチ
- 刺鍼ポイント: 肩貞(けんてい)、肩外兪(けんがいゆ)
- 施術方法: 中程度の深さ(30〜40mm)に刺入し、肩甲骨の動きをスムーズにする。
🟢 腰部へのアプローチ
- 刺鍼ポイント: 腎兪(じんゆ)、志室(ししつ)
- 施術方法: 広背筋の下部にアプローチし、腰の張りを軽減する。特に長時間座ることが多い患者に効果的。
4. セルフケアと再発防止策
鍼施術後に適切なセルフケアを指導することで、症状の再発を防ぎ、長期的な改善を促進する。
✅ おすすめのセルフケア方法
- 広背筋ストレッチ
- 壁に手をつき、体を軽く前傾させてストレッチ(左右20秒×3セット)
- フォームローラーで筋膜リリース
- 背中側を中心に、広背筋の硬結をほぐす
- 温熱療法(お灸やホットパック)
- 肩貞や腎兪にお灸を施し、血流を促進する
まとめ
広背筋のトリガーポイントは、肩関節の可動域制限・背中のこり・腰の張り感の原因 となるため、適切な診断と施術が重要。
✅ 腋窩付近・肩甲骨下部・腰部にトリガーポイントが形成されやすい
✅ 肩関節の可動域制限や背中のこりが主な症状として現れる
✅ 鍼灸では、腋窩・肩甲骨・腰部へのアプローチが有効
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