はじめに|広背筋と肩関節の可動域制限の関係
広背筋(Latissimus Dorsi)は、上半身で最も大きな筋肉の一つであり、背中から骨盤、そして上腕骨までを結ぶ扇状の筋肉です。主に肩関節の内転・内旋・伸展に関わり、日常動作からスポーツパフォーマンスまで幅広い動きに関与しています。
現代では、デスクワークやスマートフォン使用などにより広背筋が慢性的に緊張しやすく、肩の可動域制限・背中の違和感・腰部の張り感といった症状が現れることがあります。これらの多くは、広背筋にできたトリガーポイント(筋硬結)による影響と考えられます。
この記事では、解剖の視点から構造を詳しく説明したうえで、関連痛の特徴と鍼灸によるアプローチ方法をわかりやすく解説します。
1. 広背筋の解剖|構造・付着部・機能
広背筋の構造と走行
広背筋は、第6〜12胸椎・腰椎・仙骨・腸骨稜・下部肋骨・肩甲骨下角から起こり、腋窩を通って上腕骨(小結節稜)へと付着します。複数の起始部を持ち、多方向から力を加える筋繊維構造が特徴です。
- 起始:胸椎棘突起、腰背筋膜、腸骨稜、下部肋骨、肩甲骨下角
- 停止:上腕骨小結節稜
- 支配神経:胸背神経(C6〜C8)
広背筋の主な作用(機能)
- 肩関節の内転:腕を体側へ引き寄せる
- 肩関節の伸展:腕を後ろに引く
- 肩関節の内旋:上腕を内側に回す
- 体幹の伸展・側屈(固定時)
このように、広背筋は「肩」と「体幹」の動きをつなぐ機能的な橋渡しの筋肉であり、姿勢保持や力強い動作に不可欠な存在です。
2. 広背筋のトリガーポイントと関連痛
トリガーポイントの主な部位
広背筋に形成されやすいトリガーポイントは、以下の3カ所が代表的です。
部位 | 症状との関係 |
---|---|
腋窩(わきの下)付近 | 肩関節の挙上・内旋動作に制限が出る |
肩甲骨下角付近 | 背部〜肩甲骨の可動域制限やこり感 |
腰部の筋腹中央 | 腰の張り感、長時間座位後のだるさ |
関連痛パターン
- 肩の可動域制限(挙上困難、肩甲骨の引っかかり感)
- 背中の重だるさ、肩甲骨内側のこり
- 腰部の違和感(座位姿勢や前屈時に張る)
- 上腕部の痛みや軽度のしびれ(特に内旋動作)
3. 広背筋トリガーポイントに対する鍼灸施術
鍼施術のポイントと刺鍼部位
🟢 腋窩付近(肩関節の動きに影響)
- 刺鍼ポイント:極泉(きょくせん)、天宗(てんそう)
- 刺鍼法:患者の腕を少し挙上した状態で、筋腹に50mm以上の鍼でアプローチ。深層に注意して刺入。
🟢 肩甲骨下角付近(肩甲骨と背中の連動改善)
- 刺鍼ポイント:肩貞(けんてい)、肩外兪(けんがいゆ)
- 刺鍼法:肩甲骨内側縁に沿って、30〜40mmの深さで刺入。背部の動きを緩める。
🟢 腰部中央(デスクワークによる腰の張りに)
- 刺鍼ポイント:腎兪(じんゆ)、志室(ししつ)
- 刺鍼法:広背筋下部に対し、45〜60mmの鍼で垂直にアプローチ。腰椎の安定感向上に寄与。
4. 広背筋のセルフケアと再発予防
施術効果を持続させるためには、広背筋の柔軟性と血流を保つことが重要です。
セルフケアメニュー
✅ 広背筋ストレッチ
壁に手をつき、反対側の骨盤を外へ押し出すように体側を伸ばす(20秒×3セット)
✅ フォームローラーで筋膜リリース
広背筋に沿って体を横に倒し、背中〜脇の下まで丁寧にリリース
✅ 温熱療法(お灸・ホットパック)
自宅で肩貞や腎兪に温灸を行うと、緊張緩和とリラクゼーションに効果的
まとめ|広背筋の解剖を理解した鍼灸施術が可動域改善のカギ
広背筋はその解剖構造上、肩関節の動き・体幹の安定性・姿勢保持に深く関わる重要な筋肉です。そのため、可動域制限や慢性的な背部の痛みがある場合、広背筋のトリガーポイント評価が欠かせません。
鍼灸施術においては、広背筋の構造(解剖)と走行を的確に把握し、深層筋まで安全に刺鍼できる技術が求められます。あわせて、セルフケアの提案や生活習慣の見直しを行うことで、患者の慢性症状に長期的な改善が期待できます。
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