SOAP式カルテとPOS方式の違いとは?鍼灸現場での使い分けガイド

はじめに

カルテの記録法として「SOAP式」が一般的になりつつありますが、もう一つ重要な記録法として「POS方式(問題志向型システム)」があります。
両者は似ているようで、考え方の出発点や活用方法が異なります。

本記事では、鍼灸臨床で使うことの多い「SOAP」と、医療現場で確立されている「POS」の違いを比較し、それぞれをどう使い分ければよいかを解説します。


POS方式とは?

POS(Problem-Oriented System)=問題志向型システムとは、
「患者の持つ個々の“問題(Problem)”を単位としてカルテを構造化する」考え方です。

POSの主な特徴

  • 患者のすべての「問題」(主訴、症状、社会的背景、家族問題など)を洗い出し、問題ごとにSOAP形式で記録する
  • 各問題を独立して追跡できるため、複雑な症例や長期治療に適している
  • 医学部や病院実習で使われることが多く、問題リスト(Problem List)の作成が必須

SOAP方式との違いを比較

比較項目SOAP式POS方式
出発点診察・施術1回ごとの記録患者の「問題」ごとに記録を構成
構造S→O→A→Pの流れで記録問題リストをベースにSOAPで記録
適する場面単一の主訴・短期的施術複数の問題・長期的な観察
記録単位施術ごと問題ごと(主訴・背景含む)
鍼灸院での使用一般的・現実的応用的・教育・複雑な症例向き

鍼灸院での現実的な使い方

✅ SOAPを基本にし、POSの視点を取り入れる

鍼灸院では毎回の施術記録が中心になるため、SOAPが基本になりますが、

  • 「肩こり」「不眠」「消化不良」など複数の問題がある場合
  • 慢性症状で長期間の経過観察が必要な場合
  • 学生指導や症例報告の記録を整理したい場合

には、POSの「問題ごとに追跡する視点」が非常に役立ちます。


POSを簡易的に取り入れる方法(実践向け)

1. 問題ごとに「見出し」をつける

【問題1:肩こり】

S(主観的情報):
「1ヶ月前から、右の肩が夕方になると重だるくなる感じが続いています。デスクワーク中が特に気になります。」

O(客観的情報):
右肩僧帽筋上部に圧痛あり。肩甲間部の筋緊張。外転120度で可動域制限。脈はやや弦、舌苔薄白。

A(評価):
長時間の座位作業による筋緊張とストレス性の肩こり。東洋医学的には「肝鬱気滞」と考えられる。

P(計画):
肩井、天宗、肝兪に置鍼、10分間置鍼。背部に温灸を実施。深呼吸と軽い肩回しを指導。1週間後に再評価。


【問題2:不眠】

S(主観的情報):
「最近眠りが浅く、夜中に2~3回目が覚めてしまいます。夢もよく見ていて、寝た感じがしません。」

O(客観的情報):
顔面に軽度紅潮あり。舌質やや紅、舌尖部に赤点。脈は細数。心兪付近に圧痛。

A(評価):
心火亢進による中途覚醒型の不眠。精神的疲労と過度の思考による「心脾両虚・心火擾神」の傾向。

P(計画):
心兪・神門・内関・太谿に鍼施術。耳鍼(神門・交感)をテープで留置。日中のPC使用制限と温浴を指導。

→このように、それぞれの「問題」ごとにSOAPを分けることで、施術の焦点が明確になり、記録の整理や情報共有がしやすくなります。
また、症状ごとの経過観察も可能になり、評価や計画の修正も行いやすくなります。


2. 問題リストを作ってから記録を始める

初回時に、以下のような「患者の訴え一覧」を作っておくと便利です:

  • 肩こり(1年前〜現在)
  • 不眠(3ヶ月前〜現在)
  • 便秘(1週間に1〜2回)

→毎回のSOAPで、「どの問題に対する記録か」を明記しておくことで、経過追跡がしやすくなります。


教育・症例検討にも活かせるPOS

鍼灸学生の教育現場や、症例検討のときにはPOS方式は非常に有効です。

  • 問題ごとにS→O→A→Pを整理して書く
  • 時系列での変化や、評価の仮説・修正が明確になる
  • 発表や論文化にもそのまま使えるフォーマット

まとめ

SOAP式とPOS方式は、いずれも「記録を通じて臨床力を高める」ためのツールです。
日々の施術にはSOAPを使いながら、必要に応じてPOSの視点で「問題単位」で記録する柔軟さを持つことで、カルテの質・再現性・共有性が一気に向上します。

記録=思考の蓄積。
そのための土台として、SOAPとPOSの違いを理解し、目的に応じて使い分けていきましょう。

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