はじめに
鍼灸院や教育現場では、複数の施術者が1人の患者を診ることが珍しくありません。
このとき、施術者ごとの「カルテの書き方の差」や「評価のずれ」があると、情報共有に齟齬が生まれ、患者にも不安を与えてしまいます。
SOAP式カルテは「誰が書いても読みやすく」「誰が読んでも内容がつかめる」形式のため、チーム施術との相性が非常に良いです。
本記事では、複数施術者でSOAPを活用する際のポイントをまとめます。
なぜ共有が難しくなるのか?
- 書く人によって「主訴の取り方」や「評価の基準」が異なる
- P(計画)が抽象的で次に何をすればよいかわからない
- A(評価)に施術者の思考が書かれていないため引き継げない
- カルテが長文化・主観的になり読みづらい
→このような課題を解消するためには、チーム内でカルテ記入の「統一ルール」と「見やすさの工夫」を行う必要があります。
チームでSOAPを共有するための記録ルール【5つの原則】
❶ 書き方のフォーマットをそろえる
- S・O・A・P の区切りを明確に
- 箇条書き or 短文を基本にする
(例:「主訴:〇〇」「圧痛:〇〇」「脈:浮・やや数」)
→誰が読んでも理解できるように視認性を重視します。
❷ SとOは事実ベース、AとPは思考ベースで分ける
- S/Oは「言ったこと」「観察したこと」
- A/Pは「施術者の評価」「どう動くか」
→この線引きが共有カルテの「読みやすさ」に直結します。
❸ P(計画)は「引き継ぎやすさ」を意識
- 経穴・手技だけでなく「次回どうする予定か」まで書く
(例:「〇〇に置鍼。緊張改善が弱ければ次回〇〇に補法追加検討」)
→引き継ぐ人が悩まなくて済む記録を心がけましょう。
❹ 評価(A)には「判断の根拠」を残す
- 「肩こり」ではなく「筋緊張+ストレス→肝鬱気滞の傾向」と記載
- 所見や証の要素を明記して、次の施術者も同じ目線で考えられるように
❺ カルテ内容をチーム内で定期的に見直す
- 「どう書けば読みやすいか」「共通ルールはあるか」を話し合う
- 研修や症例共有会で「良い記録例」「わかりにくい例」を比較するのも有効
具体的なカルテ記載例(肩こり/2人目の施術者)
- S:「前回施術後、右肩が少し軽くなったが夕方はまだ重い」
- O: 僧帽筋に軽度緊張残存、肩井に圧痛。外転130度。舌質紅、苔やや黄
- A: 肝気鬱結→肝火化風傾向に移行。初回より緊張改善も、実熱傾向やや強くなっている
- P: 肩井・天宗・太衝・百会に鍼。耳鍼(神門)併用。次回も肝実に対する調整継続。入浴指導の徹底も伝達予定
→前回からの変化・自分の評価・今後の指示がまとまっており、引き継ぎがスムーズです。
見落としがちな工夫ポイント
- 略語や個人ルールは使わない(例:「圧あり」→「圧痛あり」)
- 他人が読んでも意味が通じるように書く
- 生活指導など「何を伝えたか」もPに書く
→「カルテは自分だけのメモ」ではなく、「チーム全体で患者を診るための共通言語」だと捉えましょう。
まとめ
SOAP式カルテは、「思考を整理し、伝える力を育てる」ための記録法です。
複数施術者で共有する場合も、書き方を統一し、思考と事実を明確に分けることで、患者対応の質とスピードが向上します。
院内・実習先でのカルテの共有に悩む方は、ぜひSOAPを「チーム全体の施術記録フォーマット」として活用してみてください。
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