はじめに
近年、ストレスや生活リズムの乱れによって「寝つきが悪い」「途中で目が覚める」「眠りが浅い」といった不眠症状を訴える患者が増えています。
鍼灸にはこうした不眠へのアプローチ法が多数あり、カルテにはその判断根拠と施術内容を的確に残すことが求められます。
本記事では、不眠症状を訴える患者に対するSOAP記録の実例を通じて、臨床での記録の仕方を学びます。
症例プロフィール(仮想症例)
- 年齢・性別:45歳 女性
- 主訴:寝つきが悪く、夜中に目が覚めてしまう
- 発症時期:2ヶ月前から
- 生活背景:仕事が忙しく、残業多め。夜遅くまでスマホを見ている。
- 既往歴:軽度の自律神経失調症あり
SOAP記録例:不眠症の症例
S(Subjective:主観的情報)
- 「寝つくまで1〜2時間かかる」
- 「夜中に2回ほど目が覚めてしまう」
- 「朝スッキリ起きられず、日中もだるい」
- 「最近イライラしやすく、仕事のストレスが強い」
- 「便通が不安定で、少し冷えやすい」
O(Objective:客観的情報)
- 舌質やや紅、舌尖に赤点、苔薄黄
- 脈は弦・やや数、左関部に力強さあり
- 目元やこめかみに熱感あり
- 肩部・項部の筋緊張やや強い
- 肩井・心兪に圧痛
A(Assessment:評価)
- 肝気鬱結から肝火化風に至り、心神不安による不眠症状と考えられる
- 精神的ストレスにより肝気が上昇、寝つきの悪さと中途覚醒を引き起こしている
- 便通不安定、舌尖紅、弦脈からも「実熱型」の不眠と捉えられる
P(Plan:施術計画)
- 使用経穴:太衝、神門、内関、百会、肝兪、心兪
- 手技:鍼+軽補瀉法(実熱をさばく)、耳鍼(神門・皮質下)使用
- 頻度:週1回を3回継続、毎回睡眠状況を確認して方針調整
- 生活指導:就寝前1時間はスマホ・TVを避ける。白湯を飲んで入浴→深呼吸のルーティンを提案
- 評価ポイント:寝つき時間、中途覚醒の回数、起床時のスッキリ感
解説|このSOAPの構成の意図
✅ AとPの一貫性
「肝火化風 → 心神不安」という東洋医学的な評価に対し、Pでは「太衝・神門」など鎮静・疎肝系の経穴を用いており、理論に基づいた施術方針が立てられている。
✅ 日常生活への介入も含める
単なる施術ではなく、「スマホの使用制限」や「入浴・呼吸習慣」などの生活リズム改善提案も記載。これはPにおける重要な要素。
✅ 毎回のフォロー項目を明示
次回以降に「どの変化を見るのか(寝つき・中途覚醒・疲労感など)」を明記することで、継続的な評価と記録が可能となる。
まとめ
不眠症のような“感覚的で個人差のある症状”こそ、SOAP式で丁寧に記録することで、判断の再確認・施術根拠の明確化・経過の可視化がしやすくなります。
特に評価(A)では東洋医学的な証をしっかり立て、計画(P)ではその証に合った経穴と生活指導を記録することで、臨床の質が上がるだけでなく、自分の施術への自信にもつながります。
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