エンケファリンとは?脳内の自然鎮痛物質の役割と増やす方法|ストレスと痛みに向き合うために

1. エンケファリンとは?

エンケファリンは、脳や脊髄で働く内因性オピオイドペプチドの一種です。
「内因性」というのは“体の中で自分自身が作っている”という意味で、外から薬として入れる鎮痛薬とは違い、もともと私たち自身が持っている“自然の鎮痛メカニズム”です。

エンケファリンは、同じく内因性オピオイドに分類されるエンドルフィンやダイノルフィンとともに、痛みの感じ方・ストレス反応・感情の安定に深く関わります。
簡単に言うと、エンケファリンは「つらさをやわらげ、心身を落ち着けるための内なるサポーター」です。


2. エンケファリンの主な役割

① 痛みをやわらげる(自然の鎮痛作用)

エンケファリンは、脳や脊髄でオピオイド受容体(主にμ受容体・δ受容体)に結合し、痛みの信号が脳に強く伝わりすぎないようにブロックします。
これにより、痛みの感じ方そのものが弱まり、慢性的な痛みや急な痛みのつらさがやわらぐことがあります。

→ “体内でつくられるやさしい鎮痛薬”とイメージするとわかりやすいです。

② ストレスの軽減・リラックスのサポート

強いストレスや不安を感じるとき、エンケファリンはストレス反応を調整し、自律神経の過緊張をなだめる方向に働くとされています。
この働きは、心を落ち着け「もう大丈夫」と感じやすくするメンタル面の支えにもなります。

③ 気分・感情の安定

エンケファリンは、幸福感や安心感、満足感といったポジティブな情緒にも関与します。
過度な不安や緊張、気分の不安定さをやわらげ、感情の波をなだらかに保つサポートをしてくれます。

④ 免疫バランスのサポート

エンケファリンは、免疫細胞の働きにも影響します。
免疫応答を調整し、体の防御システムが過剰になりすぎたり、逆に弱りすぎたりするのを防ぐ役割があると考えられています。
これは、慢性的なストレスが免疫を落とすというよくある現象と関係の深いポイントです。


3. エンケファリンはどのように作られ、どう働くの?

① 生成のしくみ

エンケファリンは、プロエンケファリンという前駆体タンパク質から分解・加工されて生まれます。
主に脳・脊髄・末梢神経系などで合成され、神経伝達を調整する役割を持ちます。

② オピオイド受容体と結びついて作用

エンケファリンは、オピオイド受容体(μ・δなど)に結合し、以下のような変化を起こします。

  • 痛みの信号の伝達を弱める
  • ストレスで高ぶった交感神経を落ち着かせる
  • 心身に「安心感」「落ち着き感」をもたらす

つまり、「痛みをただ感じなくさせる」というよりは
“痛みや不安を、からだと心がコントロールしやすいレベルに戻す” 働きと言えます。


4. エンケファリンが心と体に与える影響

身体面への影響

  • 慢性的な痛みの緩和
  • 筋緊張のやわらぎ(肩や首のこわばりが軽くなることも)
  • 体をリラックスモードへ切り替えるサポート

つらい痛みが続くと、眠れない・イライラする・呼吸が浅くなる、といった悪循環に入りがちです。
エンケファリンはその悪循環を断ち切る「休ませる力」を支えています。

精神面への影響

  • 不安感や緊張感のやわらぎ
  • 気分の安定、安心感の向上
  • 「なんとかやっていけそう」という耐性・回復力のサポート

ストレスの高い状況でも折れずにいられる力、いわゆる「レジリエンス(回復力)」にも関係します。

免疫機能への影響

  • 免疫細胞の働きを整える
  • ストレス性の免疫低下を防ぐサポート
  • 抵抗力の維持

ストレスが続くと風邪をひきやすくなる、肌荒れしやすくなる、といった経験がある方は多いと思います。
その背景にも、自律神経とエンケファリンの関わりがあると考えられています。


5. エンケファリンが期待される健康効果

エンケファリンは、日常的な「なんとなくつらい」をやわらげる役割が期待されています。特に次のような場面で役立つ可能性があります。

① 慢性痛のサポート

肩こり、腰痛、頭痛、神経痛など、長く続く痛みは心身を消耗させます。
エンケファリンは、痛みの伝わり方そのものをやわらげる働きがあるため、慢性的な痛みの「質」を下げるサポートが期待できます。

※ただし、激しい急性痛や神経障害性の痛みなどは医療機関での評価が必須です。

② ストレスケア・メンタルケア

ストレスの高い状況でも、気持ちを落ち着け、過度な緊張をほぐす方向に働きます。
副交感神経(リラックス側の神経)を優位にし、心身を回復モードに切り替えやすくします。

③ 睡眠・休息の質の向上

「痛みで眠れない」「不安で寝つけない」という状態は、疲労をさらに悪化させます。
エンケファリンがしっかり働くことで、眠りに入りやすい安心状態へ導かれることが期待されます。

④ 免疫サポート

ストレスで免疫が落ちやすい人にとって、エンケファリンの安定は心身の防御力の底上げにもつながります。
「疲れるとすぐ体調を崩す」という方には重要な視点です。


6. エンケファリンを高める・働かせるための生活習慣

エンケファリンは薬のように「飲めば増える」という単純なものではありません。
しかし、日常のセルフケアでその分泌や作用をサポートできると考えられています。

① 適度な運動

ウォーキング・軽いジョギング・ストレッチ・筋トレなど、継続できる運動はエンケファリンやエンドルフィンの分泌を促すサポートになります。
「運動すると気持ちがスッと軽くなる」「痛みが少し楽になる」と感じるのはこの働きによるものと考えられています。

ポイントは“追い込みすぎないこと”。
強すぎる負荷は逆にストレスホルモンを上げてしまう場合があります。

② 深い呼吸・瞑想・マインドフルネス

ゆっくりとした腹式呼吸や、静かな瞑想は、自律神経のバランスを副交感神経優位に近づけていきます。
この「緩む時間」を意識的につくることで、ストレス起因の痛みやこわばりを和らげるサポートになります。

「今日は頑張りすぎたな」という日こそ、2〜3分でいいので呼吸の時間をとることが大切です。

③ 笑い・音楽・安心感のある交流

楽しい会話や笑い、好きな音楽、安心できる人とのつながりは、エンケファリン系やエンドルフィン系の働きを高める方向に作用すると考えられています。
「誰と過ごすか」「どんな環境で過ごすか」も立派なケアです。

④ 体を温めて緊張をほぐす

入浴や温熱ケア(腹部・首肩・腰まわりをやさしく温める)は、筋肉のこわばりをやわらげ、痛みの感じ方を下げるサポートになります。
血流が良くなると、体の「痛みの記憶」がやわらぐことがあります。

⑤ 鍼灸によるサポート

鍼灸は、体の緊張をゆるめ、自律神経のバランスを整えるケアとして古くから使われてきました。
鍼刺激は、内因性オピオイド(エンケファリンなど)の放出をサポートし、痛みの知覚を和らげる・ストレス反応を静める方向に働くことが期待されます。

こんな方に相性が良いことがあります:

  • 肩こりや頭痛が長引いている
  • ストレスで全身がガチガチに固まる
  • 痛みで寝つきが悪い/眠りが浅い
  • イライラや不安で常に体が緊張している

よく使われる代表的なツボは、たとえば

  • 百会(ひゃくえ)…頭頂部。緊張やイライラを落ち着かせるケアに用いられることがあります。
  • 風池(ふうち)…後頭部のくぼみ付近。首こり・頭痛・ストレス性の緊張に。
  • 合谷(ごうこく)…手の甲。全身の痛みやこわばりのケアによく使われるポイントとして知られます。

※鍼灸は、からだ全体のバランスを見ながら刺激量を調整します。自己流で強い刺激を与えるのではなく、専門家の施術を受けることをおすすめします。


7. まとめ:エンケファリンは「痛みとストレスからあなたを守る内なる力」

エンケファリンは、ただ痛みを鈍らせるだけの物質ではありません。
それは、つらさや不安に押しつぶされそうなとき、からだの内側から「大丈夫」と支えてくれる存在です。

  • 痛みをやわらげる
  • 緊張をほどき、ストレスを鎮める
  • 気分を落ち着かせる
  • 免疫バランスをサポートする

この働きを引き出すには、日々の“小さな整え方”がとても大切です。
やさしい運動、呼吸、温めるケア、安心できる時間、そして必要に応じての鍼灸ケア。

無理に我慢し続けるのではなく、体の「回復しようとする力」に寄り添っていくことが、長く元気でいるための鍵になります。

痛みが急に強くなった場合、しびれを伴う痛みが続く場合、強い不安や睡眠障害が長引く場合は、自己判断せず医療機関や専門家に相談してください。鍼灸は医療と併用しながらサポートとして活用できます。


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