1.鍼灸における刺鍼とは

鍼灸治療における「刺鍼」とは、単に鍼を体内に刺入する行為ではありません。
どのような理論・目的のもとで、どのような手順と操作を用いて刺激を加えるかという、
治療の質そのものを左右する重要な技術要素です。
刺鍼は、
- 刺激量
- 安全性
- 再現性
に大きく影響し、
鍼灸師の臨床技術を支える基盤といえます。
2.刺鍼術式とは何か
刺鍼術式とは、
鍼を刺入し、操作し、抜鍼するまでの一連の具体的技法を指します。
術式には、
- 刺入の方法
- 操作の仕方
- 刺激量の調整
- 安全配慮
が含まれ、
患者の状態や治療目的に応じて使い分けることが求められます。
刺鍼術式としての代表的技法
― 撚鍼法・打鍼法・管鍼法 ―
鍼灸における刺鍼術式は、刺激量・安全性・再現性を左右する重要な要素です。
ここでは、臨床および教育現場で広く用いられている
撚鍼法・打鍼法・管鍼法について、それぞれの特徴と使い分けを解説します。
3.撚鍼法(ねんしんほう)
● 撚鍼法とは
撚鍼法とは、鍼を刺入した後に、鍼体を回旋(回す)させる操作を加える刺鍼術式です。
鍼灸臨床において、最も基本的かつ汎用性の高い操作法の一つとされています。
● 撚鍼法の目的と特徴
撚鍼法は、主に以下の目的で用いられます。
- 刺激量の調整
- 得気の誘導
- 組織へのなじみを良くする
- 刺鍼感覚の微調整
回旋の速度・角度・回数・強さによって刺激量が大きく変化するため、
鍼灸師には繊細な操作感覚が求められます。
● 臨床での使い分け
- 軽くゆっくりした撚鍼:刺激量を抑えたい場合
- 速く大きな撚鍼:反応を強めたい場合
ただし、過度な回旋は筋・結合組織への負担や違和感の原因となるため、
常に患者の反応を観察しながら行うことが重要です。
4.打鍼法(だしんほう)
● 打鍼法とは
打鍼法とは、鍼を打ち込む動作によって刺入する刺鍼術式です。
主に鍼管や専用器具を用い、瞬間的な刺激で鍼を皮膚内に刺入します。
日本鍼灸において古くから用いられてきた技法であり、
浅刺や皮内刺激を目的とする場合に多く用いられます。
● 打鍼法の特徴
- 刺入が瞬間的で痛みが出にくい
- 刺激が表層にとどまりやすい
- 小児や刺激に敏感な患者にも用いやすい
一方で、
打ち方が雑になると刺激が強くなりやすいため、
安定した技術と経験が求められます。
● 臨床での注意点
- 打鍼の強さを一定に保つ
- 深刺にならないよう注意する
- 皮膚の状態を事前に確認する
特に、頸部や顔面部などでは、
刺激量と部位選択に十分な慎重さが必要です。
5.管鍼法(かんしんほう)
● 管鍼法とは
管鍼法とは、鍼管(しんかん)と呼ばれる筒状の器具を用いて刺鍼する方法です。
現在、日本の鍼灸臨床で最も一般的に用いられている刺鍼法の一つです。
● 管鍼法の特徴
- 刺入時の痛みを軽減しやすい
- 刺入深度を安定させやすい
- 再現性が高い
- 初学者でも比較的安全に行いやすい
鍼管内で鍼先を皮膚に軽く当て、
鍼柄を弾くようにして刺入することで、
皮膚抵抗を最小限に抑えることができます。
● 臨床での利点
管鍼法は、
- 多数の刺鍼が必要な場合
- 一定の刺激量を保ちたい場合
- 安全性を重視したい場合
に適しており、
教育・臨床の両面で広く採用されています。
6.三つの刺鍼法の比較と使い分け
| 術式 | 主な特徴 | 適した場面 |
|---|---|---|
| 撚鍼法 | 刺激調整が可能 | 得気誘導、調整目的 |
| 打鍼法 | 瞬間刺激、浅刺 | 表層刺激、小児 |
| 管鍼法 | 安定・再現性 | 一般臨床、教育 |
これらは優劣ではなく、
患者の状態・部位・治療目的に応じて選択する技法です。
7.安全管理の観点から見た刺鍼術式
どの刺鍼法を用いる場合でも、
- 解剖学的理解
- 刺入深度の把握
- 患者の体調・反応の観察
が不可欠です。
特に、
撚鍼法や打鍼法では刺激過多に、
管鍼法では「安全だと思い込みすぎる」ことに注意が必要です。
8.まとめ
撚鍼法・打鍼法・管鍼法は、
いずれも鍼灸臨床を支える基本的な刺鍼術式です。
- 撚鍼法:刺激の質を調整する技
- 打鍼法:表層刺激を活かす技
- 管鍼法:安全性と再現性を高める技
それぞれの特性を理解し、
治療目的と患者の状態に応じて使い分けることが、
安全で質の高い鍼灸臨床につながります。
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