鍼灸師のための解剖学入門㊶:舌筋群(舌内在筋・舌外在筋)とツボ ― 嚥下・発声・消化機能に活かす

はじめに

舌は発声・咀嚼・嚥下・味覚といった生命活動に不可欠な働きを持つ器官で、その運動を担うのが舌筋群です。舌の筋は大きく 舌内在筋(上縦舌筋・下縦舌筋・横舌筋・垂直舌筋)舌外在筋(舌骨舌筋・茎突舌筋・オトガイ舌筋・口蓋舌筋) に分類されます。

舌内在筋は舌の形そのものを変化させ、発音や食物操作を担います。一方、舌外在筋は舌の位置を動かし、嚥下や発声を円滑に行うために不可欠です。これらが協調して働くことで、言語・摂食・呼吸のバランスが保たれています。

鍼灸臨床においては、舌下・廉泉・承漿 といったツボを通じて舌筋群にアプローチすることで、発声障害・嚥下障害・消化機能低下・舌痛症など幅広い症状に対応可能です。本記事では舌筋群の解剖学的特徴と臨床応用を整理し、鍼灸師が施術に活かすための実践的な知識を提供します。


舌筋群の解剖学的特徴

舌内在筋(Intrinsic muscles)

  • 上縦舌筋:舌尖を上げる
  • 下縦舌筋:舌尖を下げる
  • 横舌筋:舌を左右に細くする
  • 垂直舌筋:舌を扁平化する

👉 舌の形態を自在に変化させ、発音や食物操作をサポート。

舌外在筋(Extrinsic muscles)

  • 舌骨舌筋(Hyoglossus):舌を後方・下方へ引く
  • 茎突舌筋(Styloglossus):舌を後上方へ引く
  • オトガイ舌筋(Genioglossus):舌を前方へ突き出す
  • 口蓋舌筋(Palatoglossus):口蓋と舌を連動させる

👉 舌全体の位置を調整し、嚥下・発声・呼吸に関与。


触診と観察のポイント

  • 舌の動き:突き出し・持ち上げ・左右運動で筋機能を確認
  • 舌の形態:厚さや柔軟性を観察(舌診の要素とも関連)
  • 触診部位:オトガイ下(オトガイ舌筋)、舌骨周囲(舌骨舌筋)

舌筋群と関連する代表的なツボ

  • 舌下(EX-HN10):舌下静脈外側 ― 舌の違和感・発声障害
  • 廉泉(CV23):舌骨上縁 ― 嚥下障害・発声不良
  • 承漿(CV24):オトガイ正中 ― 口腔周囲の不調
  • 頤承漿(EX-HN12):オトガイ下方 ― 言語障害・口腔緊張
  • 合谷(LI4):全身調整に加え咽頭・口腔症状に有効

👉 舌筋群は「任脈」「督脈」と深く関わり、咽頭・胸腹部の不調にも影響を及ぼす。


臨床応用

1. 発声障害

  • 舌可動性の低下による滑舌不良
  • 廉泉・舌下を中心に施術し柔軟性を改善

2. 嚥下障害

  • 高齢者や脳血管障害後のリハビリで有効
  • 廉泉・承漿を併用して嚥下をサポート

3. 消化機能低下

  • 舌筋不全による咀嚼・嚥下不足が背景
  • 中脘・気海を加えて全身調整

4. 舌痛症・舌の違和感

  • 舌下筋の緊張や血流不良が要因
  • 舌下・頤承漿の施術が有効

学び方のステップ

  1. 舌の動きを観察:突き出し・左右差・震えを確認
  2. 筋を意識して触診:オトガイ下・舌骨周囲をチェック
  3. ツボをマッピング:廉泉・承漿・舌下を記録
  4. 臨床ケース練習:発声障害・嚥下障害・舌痛症を想定してプラン作成

まとめ

舌筋群(舌内在筋・舌外在筋)は、発声・嚥下・咀嚼・呼吸の基盤を支える重要な筋群です。咬筋や咽頭筋と連動し、口腔機能全体を統合的に調整しています。鍼灸臨床では、廉泉・舌下・承漿といった経穴を活用することで、発声障害・嚥下障害・消化機能低下の改善が可能です。

さらに舌筋群は東洋医学の「舌診」と重なる領域であり、その緊張や形態は全身の気血状態や自律神経のバランスを映し出します。舌筋の働きを改善することは、口腔機能の回復だけでなく、内臓機能の調整やストレスケアにもつながります。

鍼灸師が舌筋群を解剖学と経穴の両側面から理解し臨床に応用することで、患者の生活の質(QOL)を包括的に高めることができるでしょう。

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