はじめに
訪問施術は、高齢者や身体が不自由な患者にとって通院の負担を軽減できる大きなメリットがあります。一方で、患者宅や介護施設など院外で施術を行うため、院内施術にはないリスクやトラブルが発生しやすくなります。施術内容や料金に関する認識の相違、施術中の事故、患者や家族とのコミュニケーション不全、個人情報の取り扱い、交通事故など、想定すべきリスクは多岐にわたります。これらのリスクは事前の契約・安全対策・保険加入で大幅に軽減できます。本記事では、訪問施術に必要な法的準備、契約の作り方、安全確保の実務、そしてトラブルが発生した場合の初動対応について詳しく解説します。
1. 訪問施術で発生しやすいトラブル事例
- 施術内容や料金の誤解:事前説明不足により、患者が「聞いていた料金と違う」と主張
- 施術中の事故:転倒、ベッドからの転落、やけど、皮下出血など
- 物損事故:施術機器や荷物が家具を傷つける
- 交通関連の事故:訪問先への移動中に事故を起こす、または巻き込まれる
- 衛生・感染管理不足:器具の消毒不十分による感染症リスク
2. 契約書で明確にすべき項目
訪問施術では口頭説明だけでは不十分で、契約書を交わすことで双方の認識を一致させることが重要です。契約書には以下を盛り込みます。
- 施術内容と目的(治療目的、美容目的の区別)
- 料金体系(施術料、交通費、キャンセル料)
- 施術日時・頻度
- 支払方法(現金、振込、請求書払い)
- 安全管理責任の範囲
- キャンセルポリシー
- 個人情報保護の取り扱い
3. 安全対策の実務
- 施術環境の事前確認:施術台を置くスペースの確保、動線の安全性、照明の明るさなどを確認
- 機器・器具の管理:持ち込み器具の定期点検と消毒、滅菌を徹底
- 感染対策:手指衛生、マスク着用、施術器具の個別包装
- 緊急時対応マニュアル:急病や事故発生時の連絡先リスト、救急搬送の判断基準
4. 賠償責任保険の活用
訪問施術では、院内以上に事故や損害賠償のリスクが高まります。
- 施設損壊:患者宅の家具や設備を破損した場合
- 人身事故:施術中の転倒やけが
- 交通事故:訪問移動中の事故
これらをカバーするために、業務遂行中の賠償責任保険、施設外での事故も対象となるプランを選ぶことが重要です。
5. 個人情報保護の徹底
訪問施術ではカルテや予約情報を外部に持ち出すため、情報漏洩リスクが高まります。
- 紙カルテは施錠可能なバッグで持ち運ぶ
- デジタルデータはパスワード保護と暗号化を必須化
- 不要になったメモや資料は帰院後速やかに廃棄
6. トラブル発生時の初動対応
- 患者や家族への迅速な報告と謝罪
- 事実関係の記録(日時、状況、写真、関係者の証言)
- 保険会社や弁護士への連絡
- 再発防止策の策定と共有
まとめ
訪問施術は患者の生活の質を高める重要なサービスですが、その一方で院外特有のリスクが伴います。事前に契約書で条件を明確化し、安全対策と衛生管理を徹底し、万一の事故に備えて保険を整えることが、トラブル防止の最も効果的な方法です。また、スタッフ教育や定期的なマニュアル見直しによって、訪問施術の質と安全性を継続的に向上させることができます。患者との信頼を守りながら、安心して施術を提供できる体制づくりを進めましょう。
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