鍼灸師のための解剖学入門㉗:下肢屈筋群(ハムストリングス)と坐骨神経痛に関わるツボ

はじめに

歩行・走行・跳躍といった動作の基盤を支えるのが**下肢屈筋群(ハムストリングス)**です。大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋からなり、股関節伸展と膝屈曲を担います。スポーツ動作だけでなく、立位姿勢保持や日常動作にも欠かせない筋群であり、腰痛・坐骨神経痛・肉離れなどの臨床症状と深く関連します。鍼灸では、殷門・委中・承扶など下肢経穴がこの筋群の走行上にあり、ツボと筋を重ねて理解することで施術効果が飛躍的に高まります。本記事では、ハムストリングスの解剖、触診法、関連ツボ、臨床応用について詳しく解説します。


下肢屈筋群(ハムストリングス)の解剖学的特徴

1. 大腿二頭筋(Biceps femoris)

  • 起始:長頭=坐骨結節、短頭=大腿骨粗線
  • 停止:腓骨頭
  • 作用:股関節伸展・膝屈曲・下腿外旋
  • 臨床意義:スポーツ障害(肉離れ)の好発部位。

2. 半腱様筋(Semitendinosus)

  • 起始:坐骨結節
  • 停止:脛骨内側(鵞足)
  • 作用:股関節伸展・膝屈曲・下腿内旋
  • 臨床意義:膝内側痛・鵞足炎に関連。

3. 半膜様筋(Semimembranosus)

  • 起始:坐骨結節
  • 停止:脛骨内側顆
  • 作用:股関節伸展・膝屈曲・下腿内旋
  • 臨床意義:半月板障害や膝内側障害と関係。

触診のポイント

  1. 坐骨結節を起点に:殿部下方でハムストリングスの起始を確認。
  2. 大腿後面で腱を確認:膝裏で二分する腱=外側が大腿二頭筋腱、内側が半腱様筋・半膜様筋腱。
  3. 収縮確認:膝を曲げさせると大腿後面で筋腹が明瞭。

ハムストリングスと関連する代表的なツボ

  • 殷門(BL37):大腿後面、殿溝と膝窩横紋の中点。坐骨神経痛に頻用。
  • 承扶(BL36):殿溝の中点。腰痛・坐骨神経痛に。
  • 委中(BL40):膝窩中央。腰痛の特効穴。
  • 承筋(BL56):下腿後面。筋緊張の調整に。
  • 承山(BL57):腓腹筋下部。足のだるさ・こむら返りに。

👉 ハムストリングスと膀胱経のラインはほぼ一致するため、解剖と経絡を重ねやすい。


臨床応用

1. 坐骨神経痛

  • 殷門・承扶・委中を基本に取穴。
  • 阿是穴を加え、圧痛点を重点施術。

2. 腰痛

  • ハムストリングスの短縮が骨盤後傾を引き起こす。
  • 承扶・委中・承山で柔軟性改善。

3. スポーツ障害(肉離れ)

  • 大腿二頭筋長頭に多発。
  • 発症直後は刺鍼を避け、回復期に殷門・承扶を利用。

4. 膝関節障害

  • 半腱様筋・半膜様筋が膝内側安定に関与。
  • 膝痛には委中とともに鵞足部の圧痛点を治療。

学び方のステップ

  1. 骨盤の坐骨結節を触診:ハムストリングス起始部を確認。
  2. 膝裏の腱を触診:外側=大腿二頭筋、内側=半腱様筋・半膜様筋。
  3. ツボをマッピング:殷門・承扶・委中をライン上にマーキング。
  4. 症例を想定:腰痛・坐骨神経痛・肉離れのケースで配穴を組み立て。

まとめ

下肢屈筋群(ハムストリングス)は股関節・膝関節の運動を担うだけでなく、腰痛や坐骨神経痛、スポーツ障害と直結します。大腿二頭筋・半腱様筋・半膜様筋を正確に触診し、殷門・承扶・委中などのツボと重ね合わせることで、施術効果が格段に向上します。鍼灸師は「筋の解剖と経穴の位置」を一体的に学ぶことで、臨床応用の幅を広げることができます。

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