日本鍼灸大学 
はじめに
「物を押す」「腕を伸ばす」「手首を反らす」といった動作を支えているのが上肢伸筋群です。代表的な筋には上腕三頭筋と前腕伸筋群（総指伸筋・長橈側手根伸筋・短橈側手根伸筋・尺側手根伸筋など）があり、肘・手首・指の運動をコントロールします。鍼灸臨床では、テニス肘（外側上顆炎）・肘頭滑液包炎・手首痛・指伸展障害などに関連し、さらに小海・曲池・外関などの経穴と深く結びついています。本記事では、伸筋群の解剖、触診法、ツボとの関係、臨床応用を詳しく整理します。
上肢伸筋群の解剖学的特徴
1. 上腕三頭筋（Triceps brachii）
- 起始：長頭＝肩甲骨関節下結節、外側頭＝上腕骨後面、内側頭＝上腕骨後面
- 停止：肘頭
- 作用：肘関節伸展、肩関節伸展補助
- 臨床意義：肘痛・肘頭滑液包炎・スポーツ障害に関連
2. 総指伸筋（Extensor digitorum）
- 起始：上腕骨外側上顆
- 停止：第2〜5指中節・末節骨背面
- 作用：手指伸展
- 臨床意義：腱鞘炎、指伸展障害に関連
3. 長橈側手根伸筋（Extensor carpi radialis longus）
- 起始：上腕骨外側上顆・外側縁
- 停止：第2中手骨底
- 作用：手関節伸展・外転
- 臨床意義：テニス肘・手首痛に関連
4. 短橈側手根伸筋（Extensor carpi radialis brevis）
- 起始：上腕骨外側上顆
- 停止：第3中手骨底
- 作用：手関節伸展
- 臨床意義：外側上顆炎の主因筋
5. 尺側手根伸筋（Extensor carpi ulnaris）
- 起始：上腕骨外側上顆・尺骨後縁
- 停止：第5中手骨底
- 作用：手関節伸展・内転
- 臨床意義：尺側手首痛、腱炎に関連
触診のポイント
- 上腕三頭筋：肘を伸ばすと後上腕で筋腹が隆起。停止部は肘頭で確認。
- 総指伸筋：手を開き指を伸展させると前腕背面中央で触知。
- 橈側手根伸筋群：手首を背屈・外転すると前腕外側に隆起。
- 尺側手根伸筋：小指側の前腕背面に走行。手首を内転させると触知。
上肢伸筋群と関連する代表的なツボ
- 小海（SI8）：肘頭の内側。肘関節痛に。
- 曲池（LI11）：肘窩外側端。外側上顆炎・皮膚疾患に。
- 天井（TE10）：肘頭上方1寸。上腕三頭筋と関連。
- 外関（TE5）：手首背面2寸。伸筋群と手首痛に。
- 陽池（TE4）：手関節背面中央。腱鞘炎・伸展障害に。
臨床応用
1. テニス肘（外側上顆炎）
- 主因筋＝短橈側手根伸筋。
- 曲池・外関を中心に配穴。
2. 肘頭滑液包炎
- 小海・天井を用いて炎症軽減。
- 三焦経と組み合わせると効果的。
3. 手首痛・腱鞘炎
- 橈側・尺側手根伸筋を緩める。
- 外関・陽池を活用。
4. スポーツ障害（投球・ラケット競技）
- 上腕三頭筋の過緊張を緩和。
- 肘頭周囲に阿是穴を追加。
学び方のステップ
- 肘頭を触診：上腕三頭筋停止部を明確にする。
- 伸展動作で筋確認：手首・指を伸ばさせて伸筋群を触知。
- ツボをマッピング：小海・曲池・外関・陽池を骨格上に描く。
- 臨床ケースを想定：テニス肘・肘頭炎・手首痛の症例を設定。
まとめ
上肢伸筋群は肘関節・手首・指の伸展に関与し、スポーツ障害や日常生活での不調に直結します。上腕三頭筋・総指伸筋・手根伸筋群を正しく触診し、小海・曲池・外関・陽池などのツボと結びつけて理解することで、鍼灸施術の効果を大きく高めることができます。鍼灸師は「伸展動作＝伸筋群の働き」と捉え、筋とツボを一体的に学ぶことが重要です。
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