鍼灸師のための解剖学入門㉓:咀嚼筋(咬筋・側頭筋・翼突筋)と顎関節周囲ツボ

はじめに

食べる・話す・感情を表す――これら日常の動作を支えるのが咀嚼筋群です。咬筋・側頭筋・内側翼突筋・外側翼突筋の4つは、顎関節を動かす主力であり、顎関節症・歯ぎしり・食いしばり・片頭痛・耳鳴りといった症状と深い関連があります。鍼灸臨床においても、咀嚼筋の緊張や左右差は顎関節の可動域制限や頭頸部症状の原因となるため、解剖学的に正しく理解し触診できることが重要です。本記事では、咀嚼筋群の解剖学的特徴、触診法、関連するツボ、臨床応用を詳しく整理します。


咀嚼筋の解剖学的特徴

1. 咬筋(Masseter)

  • 起始:頬骨弓
  • 停止:下顎角
  • 作用:下顎を挙上(咀嚼の主力筋)
  • 臨床意義:顎関節症・歯ぎしり・食いしばりに直結

2. 側頭筋(Temporalis)

  • 起始:側頭窩
  • 停止:下顎枝・筋突起
  • 作用:下顎挙上・後退
  • 臨床意義:偏頭痛や側頭部の緊張に関連

3. 内側翼突筋(Medial pterygoid)

  • 起始:蝶形骨翼状突起・上顎骨後方
  • 停止:下顎角内面
  • 作用:下顎挙上、側方運動
  • 臨床意義:咀嚼の補助筋。顎関節の動的安定性に寄与

4. 外側翼突筋(Lateral pterygoid)

  • 起始:蝶形骨大翼・翼状突起外側板
  • 停止:下顎頸・関節円板
  • 作用:下顎前方移動、開口
  • 臨床意義:顎関節症の中核筋。関節円板の動きを制御

触診のポイント

  1. 咬筋:歯を食いしばらせると下顎角部で隆起が確認できる。
  2. 側頭筋:側頭部に手を当て、噛みしめで収縮を確認。
  3. 内側翼突筋:下顎内側から触診可能。直接触るには熟練が必要。
  4. 外側翼突筋:直接触診困難。顎関節前方に圧痛点として現れる。

👉 咬筋・側頭筋は比較的触診容易だが、翼突筋は臨床的推測や症状評価と組み合わせる。


咀嚼筋と関連する代表的なツボ

  • 頬車(ST6):下顎角中央。咬筋の最も隆起する部位。顎関節症に必須。
  • 下関(ST7):頬骨弓下、下顎切痕部。外側翼突筋と関連。
  • 太陽(EX-HN5):眉梢と目尻の中点の外方。側頭筋の緊張緩和に。
  • 翳風(TE17):耳垂後下方。顎関節の可動域改善に。
  • 頷厭(GB3):耳珠上方。側頭筋と咀嚼筋の連携調整に。

臨床応用

1. 顎関節症

  • 外側翼突筋・咬筋の過緊張が中心。
  • 下関・頬車・翳風を組み合わせて取穴。

2. 歯ぎしり・食いしばり

  • 咬筋・側頭筋の硬直を緩める。
  • 太陽・頬車・印堂(EX-HN3)も併用。

3. 偏頭痛・側頭部痛

  • 側頭筋緊張がトリガー。
  • 太陽・頷厭を用いる。

4. 耳鳴り・難聴

  • 顎関節の緊張が耳周囲循環に影響。
  • 翳風・下関を使用。

学び方のステップ

  1. 噛みしめ動作で筋を確認:咬筋・側頭筋をまず触診。
  2. 顎運動で翼突筋を推測:開口・側方運動で異常を評価。
  3. ツボをマッピング:頬車・下関・太陽を骨格に重ねる。
  4. 臨床シミュレーション:顎関節症や歯ぎしり症例を想定し、施術プランを構築。

まとめ

咀嚼筋群は顎関節の運動を司り、顎関節症・歯ぎしり・頭痛など多くの症状の背景に存在します。咬筋・側頭筋を正確に触診し、頬車・下関・太陽・翳風などツボを重ねることで、施術効果が大幅に向上します。鍼灸師は「筋とツボをリンク」させる学び方を通じて、美容鍼・顎関節症・頭痛治療に幅広く応用することができます。

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