はじめに
胸部は呼吸器・循環器・消化器の機能と密接に関わり、鍼灸施術の中でも重要なエリアです。特に胸骨と肋骨は、胸部経穴を取穴する際の基準点として必須の知識になります。胸骨は縦の基準、肋骨は横の基準となり、両者を組み合わせてツボの位置を正確に導きます。例えば、膻中(CV17)は胸骨体上の水平線を基準に、期門(LR14)は第6肋間に位置するなど、臨床に直結します。本記事では、胸骨・肋骨の解剖学的特徴、触診のコツ、代表的ツボとの対応、臨床応用まで詳しく解説します。
胸骨の解剖学的特徴と触診ポイント
胸骨の構造
- 胸骨柄(Manubrium sterni):胸骨の上部。頸静脈切痕と鎖骨切痕を持つ。
- 胸骨角(Angulus sterni):胸骨柄と胸骨体の接合部で、第2肋骨の基準点。臨床で非常に重要。
- 胸骨体(Corpus sterni):胸骨の中央部分。胸部経穴の垂直的基準。
- 剣状突起(Processus xiphoideus):胸骨の最下端。中脘(CV12)、鳩尾の取穴基準。
触診のポイント
- 胸骨上縁の頸静脈切痕を探す。
- 下に降り、胸骨角を触れる(第2肋骨の位置)。
- 胸骨体を縦にたどり、剣状突起に至る。
- 水平ラインを引き、肋骨レベルを数える。
👉 胸骨角=第2肋骨の認識が、肋間カウントの起点になります。
肋骨の解剖学的特徴と触診ポイント
肋骨の構造
- 真肋(1〜7肋骨):胸骨に直接連結。
- 仮肋(8〜10肋骨):肋軟骨を介して胸骨に連結。
- 浮遊肋(11・12肋骨):胸骨に付着せず、体幹側面のランドマーク。
触診のポイント
- 胸骨角から第2肋骨を確認。
- 下方に数えて第3〜6肋骨を同定。
- 腋窩側では肋骨弓を確認。
- 側腹部で11・12肋骨を触診。
👉 肋間腔を数えるスキルが、胸部経穴の正確な取穴につながります。
胸骨・肋骨と関連する代表的ツボ
胸骨正中ライン(任脈上のツボ)
- 膻中(CV17):第4肋間、両乳頭を結ぶ線の正中。呼吸器・循環器に効果。
- 中庭(CV16):第5肋間の正中。
- 鳩尾(CV15):剣状突起下端。消化器系症状に応用。
胸骨外縁ライン
- 中府(LU1):第1肋間、鎖骨下窩外側。呼吸器疾患に重要。
- 雲門(LU2):鎖骨下窩外側。
肋間ライン
- 期門(LR14):第6肋間、乳頭直下。肝疾患・消化器疾患に有効。
- 膻中(CV17)との連動:心肺系と肝胃系の症状を診る際に同時に使う。
臨床応用
1. 呼吸器疾患
- 喘息・咳嗽 → 中府(LU1)、膻中(CV17)を取穴。
- 胸骨角から第2肋間を基準にツボを確定することが重要。
2. 循環器疾患
- 胸悶・動悸 → 膻中(CV17)、巨闕(CV14)。
- 正中の胸骨体を触診して垂直的な精度を高める。
3. 消化器疾患
- 胃の不調・逆流性食道炎 → 中脘(CV12)、期門(LR14)。
- 剣状突起と肋骨弓を基準に取穴。
4. 精神疾患・自律神経症状
- 胸苦しさ・不安感 → 膻中(CV17)、神蔵(KI25)。
- 胸骨正中と肋間腔を確実に同定することが鍵。
学び方のステップ
- 胸骨を基準にする:頸静脈切痕 → 胸骨角 → 胸骨体 → 剣状突起を順に触る。
- 肋骨を数える:胸骨角を起点に肋間を数え、乳頭・肋骨弓との位置関係を把握。
- ツボをマッピング:膻中、中府、期門などを実際に皮膚上に描く。
- 臨床シミュレーション:呼吸器・循環器症状を想定し、ツボを選穴する。
まとめ
胸骨と肋骨は、胸部経穴を正しく取穴するための「縦と横の基準線」です。胸骨角を起点に肋骨を数えること、胸骨体と剣状突起を触診できることが、膻中・期門・中府など重要ツボを取穴する際に不可欠です。臨床では、呼吸器疾患・循環器疾患・消化器疾患・精神疾患など幅広いケースに応用でき、鍼灸師としての実技力を大きく高めます。
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