鍼灸師のための解剖学入門⑦:骨盤(腸骨稜・ASIS・PSIS)と腰部経穴

はじめに

腰痛は鍼灸臨床で最も多い症状の一つであり、その評価と施術において骨盤は欠かせない基準点となります。特に**腸骨稜・ASIS(上前腸骨棘)・PSIS(上後腸骨棘)**は、腰部経穴を正確に取穴する際の必須ランドマークです。骨盤は体幹と下肢をつなぐ重要な構造であり、姿勢や荷重のバランスに大きく影響を与えます。これらのランドマークを正しく触診できると、腰部ツボの位置が明確になり、施術の効果が高まります。本記事では、骨盤の解剖学的特徴、主要ランドマークの触診法、関連ツボ、臨床応用について詳細に解説します。


骨盤の解剖学的特徴

骨盤の構成

  • 寛骨:腸骨・坐骨・恥骨からなる。
  • 仙骨:脊柱の最下部に位置。
  • 尾骨:仙骨の下に連なる小骨。

解剖学的役割

  • 体幹と下肢を連結。
  • 内臓(膀胱・子宮・直腸)を支持。
  • 主要な筋肉(腸腰筋・大殿筋・中殿筋・ハムストリングスなど)の起始停止点。

👉 骨盤は「運動器と内臓器の交差点」であり、解剖学の理解がそのまま臨床に直結します。


腸骨稜・ASIS・PSISの触診ポイント

腸骨稜(Crista iliaca)

  • 骨盤上縁を形成する長い稜線。
  • 体表で最も触りやすい部位。
  • 触診法:両手で腰に手を当て、親指が触れる部分。

上前腸骨棘(ASIS:Spina iliaca anterior superior)

  • 腸骨稜の前端。突出して触知できる。
  • 触診法:鼠径部外側、腰のくびれ部分で硬い突起を確認。
  • 臨床的意義:下肢長差評価・骨盤前傾後傾評価の基準。

上後腸骨棘(PSIS:Spina iliaca posterior superior)

  • 腸骨稜の後端。腰部正中から外側にある陥凹(えくぼ)として認識される。
  • 触診法:仙骨正中の両外側にあるくぼみを触れる。
  • 臨床的意義:仙腸関節の評価に利用。

👉 3点を線で結ぶと「骨盤の傾き」が把握できる。これが姿勢評価にもつながる。


骨盤と関連する代表的なツボ

腰部正中ライン(督脈)

  • 腰陽関(GV3):第4腰椎棘突起下。腰痛治療の中心的ツボ。
  • 命門(GV4):第2腰椎棘突起下。腎陽を補う作用。

腰部膀胱経ライン

  • 大腸兪(BL25):第4腰椎棘突起下、1.5寸外方。腸疾患・腰痛に有効。
  • 関元兪(BL26):第5腰椎棘突起下、1.5寸外方。泌尿器・婦人科疾患に使用。
  • 小腸兪(BL27):第1仙骨孔。消化器疾患に。
  • 膀胱兪(BL28):第2仙骨孔。泌尿器疾患に。

骨盤前面関連のツボ

  • 気衝(ST30):ASISと恥骨結合を結ぶ線上。婦人科疾患・泌尿器疾患に有効。
  • 衝門(SP12):ASISの下方、鼠径靭帯の上。下腹部症状に対応。

臨床応用

1. 腰痛

  • 筋性腰痛:腰陽関・大腸兪を中心に。腸骨稜の触診で多裂筋・腰方形筋の緊張を評価。
  • 椎間板性腰痛:命門・関元兪・志室を加える。PSIS周囲の圧痛点を確認。

2. 婦人科疾患

  • 月経困難症・不妊症:関元兪・気衝・衝門を利用。骨盤前傾後傾の評価とあわせて施術。

3. 泌尿器疾患

  • 頻尿・排尿障害:膀胱兪・関元兪。PSIS周囲の仙腸関節緊張をチェック。

4. 姿勢・運動器疾患

  • 骨盤の傾きをASISとPSISで評価。左右差を見て、腰痛や下肢痛の原因を探る。

学び方のステップ

  1. 骨盤を触る:腸骨稜・ASIS・PSISを実際に触診。
  2. 線を結ぶ:ASISとPSISを線で結び、骨盤の傾きを確認。
  3. ツボを重ねる:腰陽関・大腸兪・関元兪を骨基準で位置づけ。
  4. 症状とリンク:腰痛・婦人科・泌尿器疾患と照合。

まとめ

骨盤のランドマークである腸骨稜・ASIS・PSISは、腰部経穴を正確に取穴するための必須知識です。これらを触診できれば、腰痛や婦人科疾患、泌尿器疾患の臨床に即応用可能です。骨盤は「体の中心」であり、姿勢評価の起点でもあります。鍼灸師は、骨盤解剖をしっかりと理解し、ツボと症状を結びつけて施術に活かすことが求められます。

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