鍼灸師のための解剖学入門④:上腕骨外側上顆と肘周囲のツボ

はじめに

肘は鍼灸臨床で頻繁に取り扱う部位の一つです。特に「肘の外側が痛い」という訴えは外側上顆炎(いわゆるテニス肘)としてよく知られており、鍼灸治療が奏功するケースも少なくありません。この肘外側の痛みの中心となるランドマークが上腕骨外側上顆です。外側上顆には前腕伸筋群が起始しており、手関節や指の過使用と密接に関係します。また、外側上顆周囲には重要なツボ(曲池・手三里・肘髎など)が位置しており、骨学的に理解して取穴することで施術効果が格段に高まります。本記事では、上腕骨外側上顆の解剖学的特徴、触診のポイント、関連筋群やツボとの結びつき、さらに臨床応用について詳細に解説します。


上腕骨外側上顆の解剖学的特徴

  • 位置:上腕骨遠位端の外側に突出する骨性隆起。肘関節の外側に触知できる。
  • 関節構造:橈骨頭と連動し、肘関節の安定に寄与。
  • 筋付着部(共通伸筋腱の起始部)
    • 短橈側手根伸筋
    • 長橈側手根伸筋(外側縁から起始)
    • 総指伸筋
    • 尺側手根伸筋
    • 小指伸筋
  • 靭帯付着
    • 外側側副靭帯が付着し、肘関節外側の安定を保つ。

👉 外側上顆は「筋・靭帯の集中点」であり、臨床的に負担がかかりやすい部位です。


外側上顆の触診ポイント

  1. 肘を90°に曲げ、手を軽く回内させる。
  2. 肘外側の硬い突起に触れると外側上顆。
  3. その直上は圧痛を生じやすく、テニス肘の診断ポイントでもある。
  4. 触診時は橈骨頭との位置関係を確認し、骨性か筋性かを区別する。

👉 圧痛点を見つけたら、その周囲の筋群を伸展・収縮させて関連を確認すると理解が深まります。


関連する代表的なツボと骨学的基準

  • 曲池(LI11)
    • 肘を屈曲したとき、肘窩横紋の外端。外側上顆のやや前下方。
    • 胃腸疾患・高血圧・肘関節炎などに用いる。
  • 手三里(LI10)
    • 曲池から手首方向へ3寸下。橈側手根伸筋上。
    • 肘から前腕の筋緊張や胃腸症状に応用。
  • 肘髎(LI12)
    • 曲池の上方1寸。外側上顆の近くに位置。
    • 肘関節疾患・上肢の麻痺や疼痛に使われる。
  • 小海(SI8)
    • 尺側に位置するが、肘周囲疾患では外側ツボと組み合わせる。

👉 外側上顆を基準にすると、ツボの相対位置がわかりやすくなります。


臨床応用:テニス肘(外側上顆炎)

原因:手首や指の伸展動作の過使用により、伸筋腱の付着部で炎症が起こる。
症状:握力低下、ドアノブ回旋・タオル絞りでの疼痛。

鍼灸施術のポイント

  1. 外側上顆直上の圧痛点を探り、阿是穴として取穴。
  2. 曲池・手三里・肘髎を組み合わせて施術。
  3. 前腕伸筋群(特に短橈側手根伸筋)の筋腹にもアプローチ。
  4. 局所刺鍼と合わせて、上肢全体のバランスを調整(合谷・肩髃など)。

その他の臨床例

  • 肘関節炎:関節包炎を伴う場合、外側上顆周囲の圧痛点に加え、曲池・小海を併用。
  • 頸肩腕症候群:外側上顆は「腕の使いすぎサイン」として重要。肩甲帯と合わせて調整。
  • 消化器疾患:手の陽明大腸経に属する曲池・手三里は、胃腸の不調にも応用できる。

学び方のステップ

  1. 骨を触る:外側上顆を繰り返し触診し、橈骨頭・尺骨の突起と区別。
  2. 筋を動かす:手首を背屈させ、短橈側手根伸筋を浮き上がらせる。
  3. ツボを重ねる:曲池・手三里・肘髎をプロット。
  4. 症状と結びつける:実際に患者の「痛い動作」を再現して確認。

まとめ

上腕骨外側上顆は、前腕伸筋群の起始部であり、肘外側の疾患において中心的な役割を果たす部位です。ここを基準にすることで、曲池・手三里・肘髎などのツボを確実に取穴でき、臨床に直結します。骨を触診し、筋の動きとツボの位置をリンクさせながら学ぶことで、鍼灸師としての施術力が格段に高まります。

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