はじめに
鍼灸院において医療事故は決して多くはありませんが、ゼロではありません。施術中の失神、内出血、感染症、誤施術による痛み悪化など、思いもよらない事態が発生する可能性は常にあります。こうした事故が起きた際、初動対応の速さと正確さが、患者の回復、信頼の維持、そして法的リスクの最小化に直結します。逆に対応が遅れたり不適切であったりすると、事態が悪化し、損害賠償や行政処分といった重大な結果を招く恐れがあります。本記事では、鍼灸院で医療事故が発生した際の初動対応マニュアルを、現場で即実践できるレベルで解説します。
1. 医療事故の定義
医療事故とは、施術に関連して患者に予期しない傷害や健康被害が発生した事象を指します。重大か軽微かを問わず、患者の安全に影響を及ぼす出来事はすべて対象と考えるべきです。鍼灸院で発生しうる例としては、鍼の折損、感染、神経損傷、誤った部位への施術、体位変換時の転倒などがあります。
2. 初動対応の優先順位
- 患者の安全確保:施術を直ちに中止し、応急処置を実施。必要に応じて救急要請。
- 記録の作成:発生時刻、状況、施術内容、使用器具、患者の症状を詳細に記録。
- 院長・責任者への報告:迅速に院内の責任者へ報告し、対応方針を決定。
- 患者・家族への説明:事実を正確に伝え、謝罪と今後の対応を説明。
- 関係機関への報告:重大事案は保健所や所属団体、保険会社へ報告。
3. 患者安全のための応急処置例
- 出血がある場合:滅菌ガーゼで圧迫止血
- 気分不良:施術を中止し、仰臥位で安静、酸素供給を検討
- アナフィラキシー疑い:エピペン使用、直ちに救急搬送
- 転倒時:安易に起こさず、意識・外傷の有無を確認して救急要請
4. 記録のポイント
事故発生から初動までの流れを時系列で記録し、主観ではなく事実を記載します。使用した鍼や器具のロット番号、消毒薬の種類なども記録しておくと、原因究明や再発防止に役立ちます。
5. 患者・家族への説明方法
- 迅速性:事故発生後できるだけ早く説明
- 正確性:推測や憶測を避け、事実のみを伝える
- 誠実さ:責任回避ではなく、安全確保のための対応を中心に説明
- 再発防止策:同様の事故を防ぐために何をするのか具体的に示す
6. 関係機関への報告
重大な事故は、所属する鍼灸師会、賠償責任保険会社、必要に応じて保健所への報告が必要です。報告義務の有無や方法は契約や条例によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
7. 院内体制と再発防止
- 医療事故マニュアルを作成し、定期的に全スタッフで訓練
- ヒヤリ・ハット事例を共有し、未然防止につなげる
- 器具管理、衛生管理、患者体位変換の方法など基本動作の見直し
8. チェックリスト
- 患者安全確保の行動を即時に取れたか
- 記録は正確かつ詳細か
- 院長・責任者への報告は速やかか
- 患者・家族への説明で不信感を招かなかったか
- 再発防止策が実行されたか
まとめ
医療事故発生時の初動対応は、被害の最小化と信頼維持の分かれ目となります。迅速な安全確保、正確な記録、誠実な説明、適切な報告が揃って初めて、院の信頼を守ることができます。本記事を参考に、院内マニュアルを整備し、スタッフ全員が即対応できる体制を構築しましょう。備えがあれば、万一の事故にも冷静かつ適切に対処できます。
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