同意書の作り方|施術前に患者から確実に了承を得るための実務ポイント

はじめに

鍼灸院で安全かつ信頼性の高い施術を行うためには、施術前に患者からのインフォームドコンセント(説明と同意)を確実に得ることが欠かせません。これは単なる形式的な署名ではなく、患者が施術内容・効果の限界・リスク・代替手段などを理解し、自らの意思で施術を受けるという重要な意思決定のプロセスです。同意書はその記録であり、患者と院の双方を守る法的証拠となります。特に医療類似行為を行う鍼灸院では、施術後の苦情や損害賠償請求が発生した際に同意書の有無が判断に大きく影響します。また、患者の安心感や信頼感を高める役割も果たします。本記事では、鍼灸院で使える同意書の作成方法、必須項目、説明の流れ、特殊ケースでの対応、そして日常業務への運用方法まで具体的に解説します。


1. 同意書が必要な理由

同意書は、法的には患者への説明義務履行の証拠であり、倫理的には患者の自己決定権を尊重する手段です。患者は施術の目的や方法、期待できる効果とその限界、予測されるリスクを十分に理解して初めて同意が成立します。これにより、効果が思ったほど得られなかった場合や軽微な副作用が出た場合でも、「聞いていなかった」という不満やクレームを未然に防げます。また、医療事故や施術トラブルが発生した際には、事前に十分な説明を行い、患者が同意していたという証拠として、院側の法的リスクを軽減できます。


2. 同意書に盛り込むべき基本項目

  1. 施術内容の説明:鍼や灸の種類、刺入の深さ、施術部位、施術時間など具体的に記載。
  2. 施術目的:症状の緩和、機能改善、予防など。
  3. 期待できる効果と限界:「改善を目指すが効果を保証するものではない」と明記。
  4. 予想されるリスクや副作用:内出血、疼痛、一時的な倦怠感、めまいなど。
  5. 代替手段の有無:他の施術方法や医療機関での治療選択肢を提示。
  6. 費用と支払い条件:料金、回数券、キャンセルポリシー。
  7. 患者署名・日付:自筆署名で意思表示を明確化。
  8. 施術者名・資格:国家資格を明記し信頼性を担保。

3. 説明と署名の流れ

  1. 施術方法と目的をわかりやすく説明(専門用語は避け、図解も活用)
  2. 想定される副作用や症状の変化も隠さず伝える
  3. 患者からの質問を受け、理解を確認
  4. 同意書に署名を依頼し、患者に控えを渡す
  5. 原本は施術録と一緒に保管(保存期間は最低3年、推奨5年以上)

4. 特殊なケースでの追加配慮

  • 未成年患者:保護者の署名・押印が必要
  • 外国人患者:英語や母国語対応の同意書を準備
  • 視覚障害のある患者:口頭説明に加え、点字または音声で記録
  • 高齢患者:家族同席での説明を推奨し、聞き間違いを防止

5. 同意書作成の注意点

  • 効果を断定しない:「必ず治る」などの文言は法的リスクあり
  • 空欄を残さない:未記入箇所は「なし」または「該当なし」と記載
  • 専門用語を多用しない:患者が理解できる平易な表現にする
  • 紙・電子双方で対応:電子保存の場合は改ざん防止策を講じる

6. 院内運用の工夫

  • 同意書テンプレートを作成し、スタッフ全員で共通使用
  • 年1回の内容見直しで法令改正や施術方法の変更に対応
  • 同意取得のタイミングは初診時だけでなく、施術内容が大きく変わる場合にも再取得
  • 署名後の同意書はスキャンし、デジタル管理も行う

7. チェックリスト

  • 患者が説明を理解しているか確認しているか
  • 効果の限界やリスクを明示しているか
  • 法令やガイドラインの最新版を反映しているか
  • 保存期間と保管場所を明確にしているか
  • スタッフ全員が説明手順を共有しているか

まとめ

同意書は、患者と院双方を守る「盾」であり、信頼を築く「架け橋」です。形だけの書類ではなく、説明と質問対応を通じて患者が安心・納得したうえで署名することが大切です。これにより、施術への理解と信頼が深まり、不要なトラブルも回避できます。本記事の内容を参考に、自院の同意書を法的・実務的に最適化し、安全で信頼される施術環境を構築しましょう。

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