鍼灸師のための解剖学入門㉙:下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)とツボ ― 足のだるさ・こむら返りへの応用

はじめに

歩行・走行・立位――これらを可能にしているのが下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)です。アキレス腱を介して踵骨に付着し、足関節の底屈を担います。特に腓腹筋は「瞬発力」、ヒラメ筋は「持久力」を発揮する筋であり、スポーツから日常生活まで広く働きます。鍼灸臨床ではこむら返り・足のだるさ・下肢静脈瘤・アキレス腱炎などに関連し、承山・承筋・太谿・崑崙といったツボと重なります。本記事では、下腿三頭筋の解剖学的特徴、触診法、ツボとの関連、臨床応用を詳しく整理します。


下腿三頭筋の解剖学的特徴

1. 腓腹筋(Gastrocnemius)

  • 起始:大腿骨内側上顆・外側上顆
  • 停止:アキレス腱を介して踵骨隆起
  • 作用:足関節底屈、膝関節屈曲
  • 臨床意義:スポーツ障害(肉離れ)、こむら返りに関連

2. ヒラメ筋(Soleus)

  • 起始:腓骨後面、脛骨後面(ヒラメ筋線)
  • 停止:アキレス腱を介して踵骨隆起
  • 作用:足関節底屈(持久的作用)
  • 臨床意義:下肢循環障害、浮腫に関連

3. 下腿三頭筋全体の特徴

  • 足関節底屈の主力筋。
  • 歩行・立位保持・ジャンプ動作に不可欠。
  • 臨床では循環改善・下肢疲労回復の要。

触診のポイント

  1. 腓腹筋:下腿後面上部で最も隆起。つま先立ちで収縮が明瞭。
  2. ヒラメ筋:腓腹筋の深層。膝を曲げて足首を底屈させると触知。
  3. アキレス腱:踵骨に停止。炎症や圧痛の確認が臨床で重要。

下腿三頭筋と関連する代表的なツボ

  • 承山(BL57):腓腹筋下部の中央陥凹。こむら返り・痔疾患に。
  • 承筋(BL56):腓腹筋中央。下肢のだるさや腰痛に。
  • 太谿(KI3):内果後方、アキレス腱前縁。腎虚・腰痛・足の疲労に。
  • 崑崙(BL60):外果とアキレス腱の間。足首痛・坐骨神経痛に。
  • 飛揚(BL58):腓腹筋外側。下肢循環改善に。

👉 下腿三頭筋の走行上に膀胱経が重なるため、筋と経絡を一体的に学ぶことが有効。


臨床応用

1. こむら返り

  • 承山・承筋を中心に施術。
  • 太谿・三陰交を補助穴に。

2. 下肢のだるさ・浮腫

  • ヒラメ筋ポンプ作用を意識。
  • 承山・飛揚・太谿を組み合わせて循環改善。

3. アキレス腱炎

  • アキレス腱付着部の圧痛点(阿是穴)を施術。
  • 崑崙・太谿を併用。

4. 腰痛・坐骨神経痛

  • 下腿三頭筋の緊張が下肢全体の張りを悪化させる。
  • 承山・崑崙・委中を併用。

学び方のステップ

  1. アキレス腱を基準に:踵骨を触診し、筋停止部を確認。
  2. 腓腹筋を観察:つま先立ちで筋腹の収縮を確認。
  3. ツボをマッピング:承山・承筋・太谿・崑崙をライン上に描く。
  4. 症例練習:こむら返り・下肢浮腫・アキレス腱炎を想定し施術プランを構築。

まとめ

下腿三頭筋(腓腹筋・ヒラメ筋)は足関節底屈と歩行・立位保持に不可欠な筋群であり、スポーツ障害や下肢循環障害と直結します。承山・承筋・太谿・崑崙などのツボと組み合わせることで、こむら返りや下肢疲労の改善効果が高まります。鍼灸師は「下腿三頭筋=循環と安定の要」と捉え、解剖学と経穴学を重ねて臨床に活かすことが重要です。

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