はじめに:頸椎・胸椎はツボの“縦軸”
鍼灸師にとって背骨は、取穴の「縦のものさし」として欠かせない存在です。とりわけ頸椎から胸椎にかけては、督脈や膀胱経の多くの経穴が並び、臨床で頻繁に使われます。しかし、学生の段階では「どの突起がC7なのか?」「T1との区別がつかない」といった混乱がよく見られます。触診力が不十分なままではツボの位置がぶれ、刺鍼の安全性や効果も低下しかねません。逆に、骨学的ランドマークを正しく押さえていれば、確実な取穴と患者への説得力ある説明につながります。本記事では、頸椎・胸椎の特徴と触診の手順、代表的なツボとの関係を整理し、解剖学を実技に活かすための基盤を解説します。
頸椎の特徴と触診ポイント
- C1(環椎)・C2(軸椎)
- 外後頭隆起のすぐ下に位置。天柱(BL10)や風池(GB20)の基準。
- C3〜C6
- 小さい棘突起で触診が難しいが、胸鎖乳突筋の外側から圧すと見つけやすい。
- C7(隆椎)
- 頸を前屈させると最も突出する棘突起。大椎(GV14)の基準点。
- C7とT1の区別
- C7:頸を回旋させると動く
- T1:頸を回旋しても動かない
👉 実技試験では「C7とT1を区別できるか」が定番問題です。
胸椎の特徴と触診ポイント
- T1〜T3
- 棘突起が水平に近い。大椎(GV14)・陶道(GV13)の基準。
- T4〜T6
- 棘突起がやや下方に傾く。身柱(GV12)、神道(GV11)などの目印。
- T7〜T9
- 棘突起が斜め下方に突出。至陽(GV9)、筋縮(BL52)の基準。
- T10〜T12
- 棘突起が再び水平に近づく。中枢臓腑との関連が強い。
頸椎・胸椎とツボの関係
- 大椎(GV14):C7棘突起下の陥凹
- 陶道(GV13):T1棘突起下
- 身柱(GV12):T3棘突起下
- 至陽(GV9):T7棘突起下
- 神道(GV11):T5棘突起下
- 風池(GB20)・天柱(BL10):後頭骨とC2の関係で決定
👉 それぞれのツボは骨の突起を“触って確認する”ことが正確性の鍵になります。
学び方のステップ
- ランドマーク確認:C7を見つけ、そこから上下に数える習慣をつける。
- ペンマーキング:背部に水性ペンでC7〜T7をマーキング → ツボをプロット。
- 反復練習:毎回「ここがC7、大椎、次がT1、陶道」と口に出す。
- 臨床応用:患者の症状(咳=肺、胃の不調=胃兪など)と胸椎レベルを結びつけて覚える。
臨床での活用例
- 呼吸器疾患(咳・喘息)
- 大椎(GV14)、陶道(GV13)付近を重点的に取穴。
- 消化器不調(胃のもたれ)
- T6〜T9レベル → 胃兪(BL21)、至陽(GV9)と関連。
- 自律神経調整
- 上胸椎(T1〜T4)への刺鍼で交感神経系のバランス調整。
まとめ
頸椎・胸椎は督脈・膀胱経を中心に数多くのツボの基準点になります。特にC7(大椎)を正しく見極め、そこから上下に追うことが精度向上の第一歩です。臨床では「骨=ツボ=症状」の三位一体で学び、触診と実技を結びつけて習熟していきましょう。
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