1.鍼通電(電気鍼)とは
鍼通電とは、刺入した鍼に低周波電流を流し、機械的刺激に加えて電気刺激を与える鍼灸技法です。
「電気鍼」「低周波鍼通電療法」などとも呼ばれ、現代鍼灸の臨床では筋・神経系アプローチの代表的な手法のひとつとして広く用いられています。
単刺や置鍼と比較すると、刺激量を一定に保ちやすく、再現性の高い治療が可能になる点が特徴です。一方で、刺激が明確になる分、適応・禁忌や設定条件を理解せずに使用すると、過剰刺激につながるリスクもあります。
2.鍼通電の主な作用機序
鍼通電の作用は単一ではなく、以下のような複数の生理学的反応が関与していると考えられています。
① 鎮痛作用
低周波刺激により、内因性オピオイド(エンドルフィンなど)の分泌が促進され、中枢性・末梢性の鎮痛効果が得られます。
特に筋・筋膜性疼痛や慢性痛に対して有効性が示唆されています。
② 筋緊張の調整
一定のリズムで筋収縮を起こすことで、過緊張した筋の弛緩を促します。
トリガーポイント治療や、運動器疾患において頻用される理由のひとつです。
③ 血流改善
筋ポンプ作用や自律神経反応を介し、局所循環の改善が期待されます。
冷えや循環不良が関与する症状にも応用されます。
3.若手鍼灸師がまず押さえるべき適応症
鍼通電は万能ではありませんが、以下のようなケースでは導入しやすい技法です。
- 肩こり・腰痛などの筋緊張性疼痛
- 頸肩腕症候群
- 坐骨神経痛などの神経症状
- スポーツ障害における筋疲労・筋緊張
- 慢性痛で刺激に慣れている症例
一方、強い不安がある患者や、刺激に敏感な体質の場合は慎重な判断が必要です。
4.刺激条件の基本的な考え方
鍼通電では、周波数・強度・通電時間の設定が重要になります。
周波数
- 1~3Hz:鎮痛・リラックス目的
- 10~20Hz:筋緊張緩和
- 50Hz以上:使用頻度は低く、目的を明確にする必要あり
若手のうちは低周波から始め、反応を観察しながら調整するのが安全です。
強度
「患者が心地よく感じる範囲」を基本とし、筋が軽く動く程度までにとどめます。
効果を出そうとして強くしすぎると、治療後のだるさや痛みにつながります。
通電時間
5~15分程度が一般的です。
長時間通電すれば効果が高まるわけではない点を理解しておく必要があります。
5.鍼通電を使う際の注意点と禁忌
以下のケースでは、原則として鍼通電は避ける、もしくは慎重に対応します。
- ペースメーカー使用者
- 妊娠中(特に腹部・腰仙部)
- 感覚障害が強い部位
- 炎症が強い急性期
また、電極クリップの接触不良や、鍼の固定不足によるトラブルにも注意が必要です。
6.若手鍼灸師にとっての鍼通電の位置づけ
鍼通電は「効かせるための技法」ではありますが、それ自体が目的になってしまうと、本来の弁証や触診がおろそかになりがちです。
まずは
- なぜ通電するのか
- 単刺や置鍼では不十分なのか
- どの反応を引き出したいのか
これらを明確にしたうえで使うことで、鍼通電は非常に心強い選択肢になります。
7.まとめ
鍼通電は、現代鍼灸において再現性と即効性を持つ有用な技法です。
一方で、刺激が明確であるがゆえに、理論と安全管理を理解せずに使うとリスクも伴います。
若手鍼灸師にとっては、
「単刺・置鍼・鍼通電をどう使い分けるか」
を学ぶ過程そのものが、臨床力を高める重要なステップになります。
基礎を押さえ、反応を丁寧に観察しながら、鍼通電を臨床の引き出しのひとつとして育てていくことが大切です。
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