はじめに
体幹屈筋群は、腹直筋・外腹斜筋・内腹斜筋・腹横筋を中心とする腹部の筋群であり、体幹の前屈・回旋・姿勢保持に欠かせません。さらに呼吸運動や腹圧の維持、消化器や泌尿生殖器の機能にも深く関与します。スポーツ場面では体幹の安定性がパフォーマンスに直結し、日常生活では姿勢不良や腰痛の予防に重要な役割を果たします。鍼灸臨床では、中脘・天枢・気海など腹部のツボと関連づけて施術することで、腰痛・便秘・消化器障害・自律神経失調に幅広く応用できます。本記事では、体幹屈筋群の解剖学的特徴、触診のポイント、ツボとの関連、臨床応用について詳しく整理します。
さらに、体幹屈筋群は「姿勢の前側を支える筋肉」としてだけでなく、全身の安定性に直結する中核的な存在です。腹圧の調整を通じて腰椎を保護する機能があり、この働きが弱まると慢性的な腰痛や姿勢異常に発展します。また、内臓を支える「腹腔の壁」としての役割も担っており、便秘や胃腸の不調など内科的症状にも影響を与えます。鍼灸師にとって体幹屈筋群を理解することは、局所治療にとどまらず、患者の全身状態を読み解く重要な手がかりとなるのです。
体幹屈筋群の解剖学的特徴
1. 腹直筋(Rectus abdominis)
- 起始:恥骨結合・恥骨稜
- 停止:剣状突起、第5〜7肋軟骨
- 作用:体幹屈曲、腹圧上昇
- 臨床意義:腰痛・便秘・消化不良に関連
2. 外腹斜筋(External oblique)
- 起始:第5〜12肋骨外面
- 停止:白線、腸骨稜
- 作用:体幹屈曲・回旋(反対側)、腹圧維持
- 臨床意義:姿勢不良、脊柱側弯に関連
3. 内腹斜筋(Internal oblique)
- 起始:腸骨稜、鼠径靭帯、腰背腱膜
- 停止:第10〜12肋骨、白線
- 作用:体幹屈曲・回旋(同側)
- 臨床意義:腰痛、骨盤安定障害に関連
4. 腹横筋(Transversus abdominis)
- 起始:第7〜12肋軟骨、腸骨稜、腰背腱膜
- 停止:白線
- 作用:腹圧保持、体幹安定
- 臨床意義:腰椎不安定性、呼吸機能に関連
触診のポイント
- 腹直筋:仰臥位で上体を起こさせると隆起。
- 外腹斜筋:体幹を反対側に回旋させると収縮。
- 内腹斜筋:体幹を同側に回旋させると活動。
- 腹横筋:「お腹を凹ませる動作」で触診可能。
体幹屈筋群と関連する代表的なツボ
- 中脘(CV12):臍上4寸。胃腸障害・消化不良に。
- 天枢(ST25):臍の左右2寸。便秘・下痢に。
- 気海(CV6):臍下1.5寸。全身の気を補う要穴。
- 大巨(ST27):臍下2寸外方。泌尿器疾患に。
- 関元(CV4):臍下3寸。婦人科疾患・虚弱体質に。
👉 腹部ツボは臓腑機能との関連が強く、筋と経絡を重ねて理解することが重要。
臨床応用
1. 腰痛・体幹不安定
- 腹直筋・腹横筋の筋力低下が腰椎に負担。
- 気海・関元を中心に施術し、体幹安定を補助。
2. 消化器症状(便秘・胃もたれ)
- 中脘・天枢を基本穴に。
- 腹直筋の緊張を緩め、内臓機能を整える。
3. 姿勢不良(猫背・側弯)
- 外腹斜筋・内腹斜筋の不均衡が原因。
- 大巨・天枢を施術しバランスを回復。
4. 呼吸機能障害
- 腹横筋の働きを改善することで呼吸効率向上。
- 気海・中脘を組み合わせる。
学び方のステップ
- 骨盤と肋骨を基準に:剣状突起・恥骨結合を触診。
- 動作で筋を確認:屈曲・回旋・ドローインで筋活動を観察。
- ツボをマッピング:中脘・天枢・気海を腹部にマーキング。
- 症例練習:腰痛・消化器障害・呼吸不全をモデルに施術プラン作成。
まとめ
体幹屈筋群(腹直筋・腹斜筋・腹横筋)は姿勢保持・腹圧維持・内臓機能に不可欠な筋群であり、腰痛や消化器症状と密接に関連します。中脘・天枢・気海・大巨など腹部ツボと結びつけて理解することで、鍼灸施術の幅が大きく広がります。
さらに、臨床現場では「体幹屈筋群=内臓と姿勢の架け橋」として捉える視点が有効です。筋群の不調は単なる腰痛や姿勢不良にとどまらず、自律神経の乱れや内臓機能低下をも招くことがあります。鍼灸師は、腹部ツボの活用を通じて局所の筋緊張を整えるだけでなく、全身的な気血の流れを改善することを意識すべきです。体幹屈筋群を正しく理解することは、患者の不調を根本から見直し、治療効果を長期的に高める大きな鍵となるでしょう。
加えて、この筋群は「健康寿命の延伸」にも直結します。体幹が安定すれば転倒リスクが減少し、呼吸や消化の効率も高まります。スポーツ選手では競技力向上に、高齢者では生活の自立維持に大きく貢献します。鍼灸師が体幹屈筋群の評価と施術を積極的に取り入れることで、痛みの改善だけでなく、予防やコンディショニングといった幅広いケアが実現できるのです。
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