鍼灸師のための解剖学入門⑨:下腿(脛骨・腓骨)のランドマークとツボ

はじめに

下腿は体重を支え、歩行・走行など日常動作の基盤となる部位です。臨床では、膝痛・シンスプリント・足関節捻挫・下肢のむくみなど多彩な症状と関連します。その中心となるのが脛骨と腓骨です。脛骨は内側に位置し荷重を担い、腓骨は外側にあり支持と安定性を補います。これらの骨のランドマークを正確に把握できれば、足三里・三陰交・陽陵泉など臨床で頻用されるツボをより確実に取穴できます。本記事では、脛骨・腓骨の解剖学的特徴、主要ランドマークの触診法、ツボとの関連、臨床応用について詳しく解説します。


脛骨の解剖学的特徴と触診

主な構造

  • 脛骨粗面(Tuberositas tibiae):膝蓋靭帯の停止部。足三里取穴の基準。
  • 脛骨稜(Margo anterior):脛骨前面中央を縦走する鋭い稜。触診容易。
  • 内果(Malleolus medialis):内くるぶし。三陰交や照海の基準。
  • 内側顆:膝内側に位置し、鵞足筋群付着部。

触診ポイント

  1. 膝蓋骨下縁から指を下ろし、脛骨粗面を確認。
  2. 脛骨稜を下方へたどると、内果に到達。
  3. 脛骨内側面は三陰交などの取穴に直結。

腓骨の解剖学的特徴と触診

主な構造

  • 腓骨頭(Caput fibulae):膝外側に位置。腓骨筋群・外側側副靭帯付着部。
  • 腓骨体(Corpus fibulae):下腿外側を走る。触診は筋群を通して。
  • 外果(Malleolus lateralis):外くるぶし。陽陵泉・崑崙の基準。

触診ポイント

  1. 膝外側で腓骨頭を触診。膝屈伸で動きが確認しやすい。
  2. 外果を明確に触診。内果よりやや下方に位置するのが特徴。
  3. 腓骨稜を意識して、前脛骨筋・腓骨筋との位置関係を整理。

脛骨・腓骨と関連する代表的なツボ

脛骨ライン

  • 足三里(ST36):脛骨粗面下方、前脛骨筋上。消化器疾患・全身調整に多用。
  • 上巨虚(ST37):足三里の下3寸。大腸疾患に。
  • 三陰交(SP6):内果上3寸、脛骨内側縁後方。婦人科・泌尿器疾患に必須。

腓骨ライン

  • 陽陵泉(GB34):腓骨頭前下方の陥凹。胆経要穴、筋肉疾患に有効。
  • 懸鐘(GB39):外果上3寸、腓骨前縁。髄会、頸項部疾患に応用。

足関節周囲

  • 解谿(ST41):足背、足関節の中央。内果・外果の間に取穴。
  • 崑崙(BL60):外果とアキレス腱の間。腰痛・坐骨神経痛に有効。

臨床応用

1. 膝痛・スポーツ障害

  • 足三里・陽陵泉を骨基準で確実に取穴。
  • シンスプリントでは脛骨稜沿いの圧痛点を阿是穴として活用。

2. 下肢のむくみ・冷え

  • 三陰交を脛骨内縁に基づいて正確に取る。
  • 下腿循環改善に足三里を併用。

3. 坐骨神経痛・腰痛

  • 崑崙・陽陵泉を中心に。腓骨頭と外果を基準にすれば誤差が少ない。

4. 婦人科疾患

  • 三陰交は不妊・月経困難に頻用。脛骨内縁を明確に触診することが成功のカギ。

学び方のステップ

  1. ランドマークを押さえる:脛骨粗面・脛骨稜・内果・腓骨頭・外果を毎回触診。
  2. 動作とリンク:足関節背屈で前脛骨筋、外反で腓骨筋群を触れる。
  3. ツボマッピング:足三里・陽陵泉・三陰交を骨に重ねて描く。
  4. 臨床ケースを想定:スポーツ選手の膝痛、女性の冷え症、腰痛患者を想定し、ツボ選穴をシミュレーション。

まとめ

脛骨と腓骨は下腿解剖の基盤であり、足三里・陽陵泉・三陰交など鍼灸で最も頻用されるツボと直結しています。骨を基準に取穴することで、触診の正確性と施術の効果が高まります。特にスポーツ障害や婦人科疾患など幅広い臨床に応用できるため、下腿骨学の理解は鍼灸師にとって不可欠です。

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