はじめに
大腿骨と股関節は、体重を支え、歩行や運動の基盤となる部位です。臨床では腰痛、股関節痛、変形性股関節症、下肢のしびれなど、多くの症状に関連します。鍼灸施術においても、股関節周囲のランドマークを理解することは、症状の原因を見極め、効果的にツボを取穴するために不可欠です。特に大転子・小転子・大腿骨顆部は、触診の出発点となり、関連するツボ(環跳・伏兎・血海・膝眼など)を正確に取るための鍵となります。本記事では、大腿骨の解剖学的特徴、股関節の構造、ランドマークの触診法、ツボとの関係、臨床応用までを詳しく解説します。
大腿骨の解剖学的特徴
基本構造
- 大腿骨頭(Caput femoris):寛骨臼に収まり、股関節を形成。
- 大腿骨頸(Collum femoris):骨頭と骨幹部をつなぐ部分。骨折好発部位。
- 大転子(Trochanter major):外側に突出し、触診容易。環跳取穴の基準。
- 小転子(Trochanter minor):内側後方に位置。腸腰筋停止部。
- 大腿骨内外側顆(Condylus medialis/lateralis):膝関節を形成し、膝眼・梁丘などのツボと関連。
解剖学的意義
- 大腿骨は「人体最大の骨」であり、荷重と運動の両方に関与。
- 筋付着が多く(殿筋群・腸腰筋・大腿四頭筋・ハムストリングス)、ツボとの結びつきが強い。
股関節の解剖学的特徴
- 構造:球関節(臼関節)で、屈曲・伸展・外転・内転・内外旋など広い可動域を持つ。
- 支持構造:関節包・靱帯(腸骨大腿靭帯・坐骨大腿靭帯など)。
- 筋群:腸腰筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、大腿筋膜張筋、内転筋群。
- 臨床的意義:可動域制限や痛みは腰椎疾患とも関連し、鍼灸の鑑別に必須。
大腿骨・股関節のランドマーク触診
大転子
- 触診:股関節外側に突出する骨。仰臥位で股関節を内外旋させると明確に触れる。
- 意義:環跳・居髎の基準。殿筋群の評価に必須。
小転子
- 触診:直接触診困難。腸腰筋の停止部として位置を把握。
- 意義:腸腰筋の緊張評価。腰痛の鑑別に利用。
大腿骨内外側顆
- 触診:膝関節内外側に触れる。膝蓋骨との関係で明確。
- 意義:膝眼・梁丘・血海など膝周囲ツボの基準。
大腿骨と関連する代表的なツボ
股関節周囲
- 環跳(GB30):大転子と仙骨裂孔を結ぶ線上。坐骨神経痛に有効。
- 居髎(GB29):ASISと大転子を結ぶ線の中央。股関節痛に用いる。
大腿前面
- 伏兎(ST32):大腿直筋の筋腹中央。膝痛・下肢疲労に有効。
- 梁丘(ST34):膝蓋骨外上縁の上2寸。急性胃痛や膝疾患に。
- 血海(SP10):膝蓋骨内上縁の上2寸。婦人科疾患・血行障害に。
膝周囲
- 膝眼(EX-LE4):膝蓋骨下の内外側の陥凹。膝疾患に多用。
- 犢鼻(ST35):膝蓋骨下外側の陥凹。膝関節痛・腫脹に有効。
臨床応用
1. 坐骨神経痛
- 環跳(GB30)、殿筋群の触診と併用。
- 大転子と仙骨を基準に正確に取穴することで効果増大。
2. 変形性股関節症
- 居髎(GB29)、環跳(GB30)を中心に。
- 股関節可動域と痛みの関連を骨学的に評価。
3. 膝関節疾患
- 大腿骨顆部を基準に、膝眼・犢鼻・梁丘・血海を取穴。
- 鍼灸と筋肉リリースの併用が有効。
4. 婦人科疾患
- 血海(SP10)は月経異常・不妊症に用いられる。大腿内側の骨学的基準とセットで理解。
学び方のステップ
- 骨を触る:大転子・大腿骨顆を明確に触診。
- 動きを確認:股関節の内外旋・屈曲伸展で骨の動きを追う。
- ツボを重ねる:環跳・伏兎・血海・膝眼をマッピング。
- 臨床シミュレーション:腰痛・股関節痛・膝痛の患者像を想定し、選穴。
まとめ
大腿骨と股関節は、腰痛や下肢疾患に直結する重要な解剖学的領域です。大転子・小転子・大腿骨顆を触診できることは、環跳・伏兎・血海・膝眼など臨床で頻用されるツボの正確な取穴につながります。骨を基準にしてツボを重ねることで、施術の効果と安全性を高めることができます。鍼灸師にとって、股関節周囲の骨学理解は臨床力を大きく向上させる武器となります。
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