災害時の鍼灸院事業継続計画(BCP)の作り方|緊急時も治療を止めないための実務ガイド

はじめに

日本は地震・台風・豪雨・豪雪といった自然災害の多発国です。鍼灸院も例外ではなく、建物の損壊、停電・断水、交通寸断などの影響を受ける可能性があります。災害発生時には、安全確保と被害の最小化が最優先ですが、同時に「どうすれば施術や経営をできるだけ早く再開できるか」を考える必要があります。このために作成するのが「事業継続計画(BCP:Business Continuity Plan)」です。BCPは、災害などの緊急事態が発生した際に重要業務を維持・早期復旧するための行動計画であり、患者の信頼を守るためにも不可欠です。本記事では、鍼灸院に特化したBCPの作り方を、実務的かつ現場で即使える形で解説します。


1. BCPの目的と必要性

BCPの目的は「命を守ること」と「事業を守ること」です。鍼灸院の場合、被災直後は施術よりも安全確保が最優先ですが、数日〜数週間のうちに再開できる体制を整えることで、患者の治療中断や経営の打撃を最小限に抑えられます。特に継続治療が必要な慢性疾患患者への対応は重要です。


2. 優先業務の特定

災害時にすべての業務を通常通り行うのは困難です。

  • 最優先業務:予約患者の緊急対応、急性症状への施術
  • 重要業務:カルテ保全、会計処理、連絡体制の維持
  • 後回し業務:広告・販促、イベント運営など

3. スタッフと患者の安否確認体制

  • スタッフ全員の連絡網(電話・メール・LINEグループ)を整備
  • 患者の緊急連絡先をカルテに明記
  • 災害発生時は院長または指定担当者が一斉連絡を実施
  • 情報混乱を避けるため、連絡ルールを事前に定めておく

4. 物資・設備の備蓄

  • 飲料水、保存食(3日分以上)
  • 使い捨て手袋、マスク、消毒液
  • 携帯充電器(ソーラー式推奨)
  • 懐中電灯、ラジオ
  • 施術用の簡易ベッド、ポータブル電源

5. データ保全とバックアップ

  • 電子カルテはクラウド型を採用し、院外からアクセス可能に
  • 紙カルテは耐火・耐水ロッカーで保管
  • 重要データは週1回以上外部ストレージにバックアップ
  • 停電時のアクセス方法をマニュアル化

6. 代替拠点・代替手段の確保

  • 近隣の医療機関や同業者との提携による施設利用
  • 公共施設(集会所、体育館)での臨時施術スペース
  • 移動式施術(訪問施術車)によるサービス提供

7. 保険と資金繰り対策

  • 火災保険・地震保険・動産保険の加入状況を確認
  • 事業中断保険で休業損失をカバー
  • 緊急時の資金調達方法(金融機関・自治体支援)を事前に把握

8. 年次訓練と見直し

BCPは作成しただけでは意味がありません。

  • 年1回以上の避難訓練・連絡網テストを実施
  • 災害発生時のシミュレーション(停電時施術、カルテアクセス)
  • 実施後は改善点を反映して計画を更新

まとめ

災害時の事業継続計画(BCP)は、患者の治療を守り、経営へのダメージを最小限に抑えるための必須ツールです。優先業務を明確化し、連絡体制や物資備蓄、データ保全、代替手段を事前に整えることで、緊急時でも落ち着いた対応が可能になります。定期的な訓練と見直しを通じて、常に最新の体制を維持することが、患者の安心と院の信頼を守る第一歩です。

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