はじめに
上腕は肩関節と肘関節をつなぐ部位であり、動作の中心を担います。特に上腕二頭筋と上腕三頭筋は、屈曲と伸展という対照的な働きを持ち、肘関節の動きの大部分を支えています。臨床的には「肘の痛み」「スポーツによる過使用障害」「肩から腕にかけてのだるさ」といった訴えに関連が深く、鍼灸施術においても頻繁にアプローチする筋群です。さらに、曲池(LI11)、小海(SI8)、天井(TE10)など、肘周囲に存在する代表的ツボはこれらの筋群と密接に結びついています。本記事では、上腕二頭筋・三頭筋の解剖学的特徴と触診法、関連ツボ、臨床応用を詳しく整理します。
上腕二頭筋(Biceps brachii)
解剖学的特徴
- 起始
- 長頭:肩甲骨関節上結節
- 短頭:肩甲骨烏口突起
- 停止:橈骨粗面、上腕二頭筋腱膜
- 作用:肘関節屈曲、前腕回外、肩関節屈曲補助
- 支配神経:筋皮神経
触診法
- 前腕を回外位にし、肘を屈曲すると筋腹が明瞭に現れる。
- 上腕前面中央に太い筋腹を確認。
- 短頭・長頭は肩に近い部分で分けて触診可能。
関連ツボ
- 曲池(LI11):肘窩外側端。上腕二頭筋腱の外側に位置。
- 尺沢(LU5):肘窩横紋上で、上腕二頭筋腱の橈側。呼吸器症状にも有効。
上腕三頭筋(Triceps brachii)
解剖学的特徴
- 起始
- 長頭:肩甲骨関節下結節
- 外側頭:上腕骨後面(橈骨神経溝より上方)
- 内側頭:上腕骨後面(橈骨神経溝より下方)
- 停止:尺骨肘頭
- 作用:肘関節伸展、肩関節伸展補助
- 支配神経:橈骨神経
触診法
- 肘を伸展させると上腕後面に大きな筋腹が浮き上がる。
- 長頭は腋窩後方から肩甲骨にかけて触れる。
- 外側頭と内側頭は上腕後面で触診。
関連ツボ
- 小海(SI8):肘頭と上腕骨内側上顆の間。上腕三頭筋長頭の停止部近く。
- 天井(TE10):肘頭の上方1寸。三頭筋腱の走行上にある。
上腕筋群とツボの関係
- 屈曲系(上腕二頭筋):曲池・尺沢との関連が強い。
- 伸展系(上腕三頭筋):小海・天井と直結。
- 肩関節疾患:長頭腱炎は肩前面痛の原因となり、烏口突起周囲と連動する。
臨床応用
1. スポーツ障害(投球・テニス・筋トレ)
- 上腕二頭筋長頭腱炎 → 曲池・肩髃を組み合わせ。
- 上腕三頭筋の過使用 → 小海・天井でアプローチ。
2. 肘関節疾患
- 外側上顆炎(テニス肘) → 曲池・手三里と組み合わせ。
- 内側上顆炎(ゴルフ肘) → 小海・天井周囲の圧痛点を利用。
3. 全身症状との関連
- 曲池(LI11)は消化器疾患や高血圧にも応用。
- 小海(SI8)は神経痛や上肢麻痺に使われる。
学び方のステップ
- 筋を触る:上腕前面・後面で二頭筋・三頭筋を触診。
- 動きと連動:屈曲・伸展で筋の働きを確認。
- ツボをマッピング:曲池・尺沢・小海・天井を骨と筋に重ねて描く。
- 臨床ケースを想定:スポーツ障害や肘痛を例にツボを選穴。
まとめ
上腕二頭筋と上腕三頭筋は、肘関節の屈曲と伸展を担う対照的な筋群であり、臨床で頻繁に取り扱う領域です。これらの筋の走行を把握し、触診で同定できるようになると、曲池・尺沢・小海・天井など肘周囲ツボの精度が向上します。さらに、スポーツ障害や肩関節疾患、日常的な肘痛に幅広く応用可能です。鍼灸師は「筋とツボをリンクさせて学ぶ」ことにより、より効果的な施術を展開できるでしょう。
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