はじめに
肩関節は人体の中でもっとも可動域の広い関節ですが、その分不安定さを抱えやすい構造でもあります。この安定性を支えているのがローテーターカフ(回旋筋腱板)です。棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋の4つから成り、肩関節の動きだけでなく、腱板損傷・五十肩・野球肩といった臨床上の多くの疾患に深く関与しています。鍼灸師がこれらの筋の起始・停止・支配神経・触診方法を理解することは、肩関節の評価と施術に直結します。また、肩髃・肩髎・天宗などツボの正確な取穴にも欠かせません。本記事では、ローテーターカフの解剖学的特徴、触診法、ツボとの関係、臨床応用について詳しく解説します。
ローテーターカフ各筋の解剖学的特徴
棘上筋(Supraspinatus)
- 起始:肩甲骨棘上窩
- 停止:上腕骨大結節上面
- 作用:肩関節外転開始(0〜15°)
- 支配神経:肩甲上神経
- 臨床的意義:外転時の痛みは腱板損傷のサイン。
棘下筋(Infraspinatus)
- 起始:肩甲骨棘下窩
- 停止:上腕骨大結節後面
- 作用:外旋
- 支配神経:肩甲上神経
- 臨床的意義:野球肩や肩関節外旋制限に関与。
小円筋(Teres minor)
- 起始:肩甲骨外側縁
- 停止:上腕骨大結節後下面
- 作用:外旋・内転補助
- 支配神経:腋窩神経
- 臨床的意義:棘下筋と共に外旋筋群を形成。
肩甲下筋(Subscapularis)
- 起始:肩甲骨肋側の肩甲下窩
- 停止:上腕骨小結節
- 作用:内旋
- 支配神経:上肩甲下神経・下肩甲下神経
- 臨床的意義:腱板損傷で最も多い損傷部位。
触診の方法
- 棘上筋:肩甲棘の上、小さな筋腹を確認。外転開始時に触れる。
- 棘下筋:肩甲棘下窩を覆う大きな筋。肩関節を外旋させると明瞭。
- 小円筋:棘下筋の外側。外旋・内転で触診。
- 肩甲下筋:腋窩の前方から触診。内旋で収縮を確認。
👉 肩甲骨のランドマーク(肩甲棘・肩甲下角・外側縁)と組み合わせると触診精度が高まります。
ローテーターカフと関連するツボ
- 肩髃(LI15):肩峰前方の陥凹。棘上筋・三角筋と関連。
- 肩髎(TE14):肩峰後方の陥凹。棘下筋との関わりが強い。
- 肩貞(SI9):肩関節後下方。小円筋と関連。
- 天宗(SI11):肩甲棘下窩中央。棘下筋の真上に位置。
- 肩内陵(経外奇穴):肩甲下筋の緊張に用いる臨床穴。
臨床応用
1. 五十肩(肩関節周囲炎)
- 棘上筋・肩甲下筋の拘縮が原因。肩髃・肩髎と阿是穴を組み合わせる。
2. 腱板損傷
- 棘上筋腱断裂が最多。棘上筋の圧痛点を阿是穴として施術。
3. 野球肩・スポーツ障害
- 棘下筋・小円筋を中心に外旋筋群を調整。肩髎・肩貞を選穴。
4. 姿勢異常(巻き肩)
- 肩甲下筋の短縮が関与。肩内陵を利用し、肩甲下筋を弛緩させる。
学び方のステップ
- 骨格基準を確認:肩甲棘・肩峰・肩甲下角・外側縁を触診。
- 筋を触る:外転・内旋・外旋を使い分けて各筋を触診。
- ツボを重ねる:肩髃・肩髎・天宗を実際にマーキング。
- 臨床ケースを想定:五十肩・スポーツ障害の患者像を設定し、選穴シミュレーション。
まとめ
ローテーターカフは肩関節を支える「縁の下の力持ち」であり、その理解は鍼灸師にとって欠かせません。棘上筋・棘下筋・小円筋・肩甲下筋を解剖学的に整理し、触診で確実に同定することで、肩髃・肩髎・天宗といった臨床頻用穴をより精密に取穴できるようになります。また、これらの筋群は五十肩や腱板損傷、スポーツ障害、さらには姿勢異常まで幅広い症状と関連します。筋とツボを結びつけて理解することは、臨床現場での「診る力」と「治す力」を高める大きな武器になります。鍼灸師は骨 → 筋 → ツボ → 症状という流れで体系化し、施術の質を一段上げていくことが求められます。
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