評価(A)の立て方と東洋医学的な証立て

はじめに

SOAPカルテの中でも、A(Assessment:評価)は最も“鍼灸師らしさ”が現れるパートです。
患者の主訴(S)と所見(O)を受けて、「この患者はどんな状態なのか」「どう施術方針を立てるべきか」を記録するこの項目は、臨床力=判断力を見える形にするものです。

この記事では、Aに何を書くべきか、そして東洋医学的にどのように証を立てて評価を記すべきかを、事例とともに丁寧に解説します。


A(評価)に書くべきこと

Aに書くのは、「SとOから導かれる臨床的な判断」です。以下の内容を意識しましょう。

✅ 書くべきポイント

  1. 症状の本質的な原因(筋緊張・冷え・ストレスなど)
  2. 病態の傾向や体質の特徴(虚実・寒熱・気血津など)
  3. なぜその症状が起きているのかの分析
  4. それに基づく証立てや施術方針の根拠

よくある記載ミスと改善法

❌ NG例①:「肩こりのため鍼施術を実施」

→ただの事実列挙で、評価がまったく書かれていない状態

❌ NG例②:「何となく疲れている印象」

→抽象的であり、具体的な施術方針につながらない


✅ 改善例①

「頸肩部の過緊張による血流不良と考えられる。デスクワークによる筋疲労、精神的ストレスも背景にある」
西洋医学的視点での病態の評価+背景要因の言及がある。

✅ 改善例②

「舌質淡・脈沈細より、脾腎陽虚が疑われる。冷えと慢性的な疲労によるエネルギー不足の体質傾向」
東洋医学的な証立てと、S/Oとの整合性がある。


東洋医学での証立ての基本フレーム

証(しょう)とは、東洋医学における体質・病態の捉え方です。SOAPのAでは以下のような観点で記載できます。

❶ 八綱弁証(はっこうべんしょう)

  • 表・裏:表在症状 or 深部症状
  • 寒・熱:冷え傾向か、熱傾向か
  • 虚・実:エネルギーが足りないか、過剰に滞っているか
  • 陰・陽:全体的なバランス感

記載例:「裏・寒・虚・陰証」


❷ 臓腑弁証(ぞうふべんしょう)

  • 肝・心・脾・肺・腎などの不調に対応

記載例:「肝鬱気滞」「脾気虚」「腎陽虚」


❸ 気血津液弁証(きけつしんえきべんしょう)

  • エネルギー(気)、血のめぐり(血)、体液(津液)の状態

記載例:「気滞」「血瘀」「津液不足」


❹ 六経弁証・衛気営血弁証(やや応用)

より高度な診断技術ですが、研修生や中堅以上の鍼灸師には記録に用いることもあります。


Aを書くときの思考プロセス(例)

S(主訴):3日前から腰が重だるく、朝がつらい
O(所見):腰部に冷感、前屈で可動域制限、脈沈・舌苔白
A(評価):寒湿による腰痛と判断。外寒侵入により経脈が滞り、腎陽虚の体質傾向も影響している
P(計画):腎兪・命門・大腸兪に温灸施術+生活指導

このように、S→O→A→Pの一貫性を持たせることが最も重要です


まとめ

「評価(A)」は、ただ所見をまとめるだけでなく、「この人の症状はどうして起きているのか?」を自分の臨床判断として記録する場です。
東洋医学でも西洋医学でも、自分なりの仮説と施術方針の根拠を記すことで、カルテの質が格段に上がります。

評価を書くことで、自分の施術にも自信が生まれ、施術の効果検証にもつながります。

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