本間祥白 日本経絡治療の礎を築いた鍼灸師― その生涯と功績

1. 生い立ちと鍼灸師としての歩み

本間祥白(ほんま・しょうはく/1904年-1962年)は、日本の鍼灸医学において「経絡治療」を臨床・教育に普及させた重要人物です。鍼灸の伝統的理論を現代の臨床に応用することで、多くの後進に影響を与えました。
彼は古典理論をただ継承するだけでなく、患者の臨床像を丁寧に観察・分析し、「なぜこのツボを使うのか」「どの経絡を意識するのか」といった問いを立てながら実践を深めました。
こうした姿勢が、教育用テキストとしての著作にも反映され、鍼灸師養成機関でも広く使われるようになりました。

2. 経絡治療への貢献

本間が特に注力したのは「経絡(けいらく)」という東洋医学的概念の臨床的活用です。古典的には身体の中の経絡・経穴(ツボ)を通じて気血が流れるとされており、治療として鍼灸を使う際にはこれを重視する流派もあります。
彼はこの枠を現代臨床に適用し、痛み・機能障害・慢性疾患などに対して「どの経絡・経穴をどんな深さ・角度で刺すか」「どのように証(あかし)を見定めるか」といった理論と操作の統合を試みました。
また、理論と実践をつなぐため、図解・索引・症例を充実させたテキストを残すことで、鍼灸師が再現可能な技術体系を提示しました。

3. 主な著作とその内容紹介

以下に、本間祥白の代表的著作と内容のポイントを紹介します。

『図解十四経発揮』

この著作は、元代の中国医書『十四経発揮』(滑伯仁著)を和訳・解説し、さらに354の経穴一穴一穴について図解を付して取穴法を述べています。
章構成も明確で、「手・足の陰陽流注篇」「十四経脉気所発篇」「奇経八脉篇」などを収録しています。
このため、経絡治療を学ぶ上で“経絡・経穴の体系を視覚的に理解したい”という鍼灸師・学生にとって鍵となる一冊です。

『誰にもわかる経絡治療講話』

こちらは、鍼灸初心者から臨床経験者までを対象に、経絡治療の原理・鍼灸操作・脈診・腹診・望診などを平易に解説したものです。
「なぜこの経絡を使うのか」「どのように証を考えるのか」といった問いに、平易な言葉で答えており、教育用テキストとして長く使われています。

『鍼灸病證学』

この書は、鍼灸臨床における「病証学」すなわち、患者の状態(病態)をどのように証(あかし)として捉え、鍼灸のアプローチを決めるか、という視点を整理しています。
臨床の現場で「この症例にはどの経絡・経穴を選ぶべきか」「どんな操作をすべきか」を考えるための理論的基盤として、鍼灸師にとって実践的な内容が含まれています。

4. 臨床・教育・普及の視点から

本間祥白のアプローチは「理論と実践の架け橋」として際立っています。

  • 理論:古典をただ引用するのではなく、経絡・経穴という構造を整理・図解化することで理解をしやすくしています。
  • 実践:実際の臨床に即して、「どこに刺すか」「どのような操作か」「どんな証か」という問いを重視。
  • 教育/普及:著作を図解化・平易化し、鍼灸学校や養成機関で使用され、後進育成に寄与。

これにより、鍼灸師が伝統的な経絡治療を学び、実践に応用するための「再現可能な体系」が提示されたと言えます。

5. 今日に残る影響とまとめ

本間祥白が遺した著作群は、鍼灸師・経絡治療家にとって学習の柱となっています。特に「経絡・経穴を体系的に把握したい」「証を立てて鍼灸を応用したい」というニーズに対し、彼の著作は今でも有効な資料です。
また、今日の鍼灸教育においても、図解・索引・実践視点を備えたテキストのあり方を探るうえで、ひとつのモデルとなっています。
まとめると、彼は「経絡治療という日本鍼灸の重要な流れを、理論・臨床・著作を通じて守り・発展させた人物」であると言えるでしょう。

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