はじめに
頸部の深層に位置する斜角筋群(前・中・後斜角筋)は、鍼灸臨床において重要な施術対象です。これらは第2〜7頸椎から第1・2肋骨に付着し、呼吸補助筋としても機能します。特に胸郭出口症候群や頸肩腕症候群では、斜角筋の緊張が神経や血管を圧迫し、上肢のしびれ・冷え・だるさを引き起こす要因となります。また、斜角筋群の上には頸部経穴(人迎・天鼎・天窓など)が並び、筋とツボを重ねて理解することが診断・治療に直結します。本記事では、斜角筋群の解剖学的特徴、触診法、ツボとの関連、臨床応用について詳しく整理します。
斜角筋群の解剖学的特徴
前斜角筋(Scalenus anterior)
- 起始:第3〜6頸椎横突起
- 停止:第1肋骨(前斜角筋結節)
- 作用:頸部前屈・側屈、第1肋骨挙上
- 神経支配:頸神経叢(C4〜C6)
中斜角筋(Scalenus medius)
- 起始:第2〜7頸椎横突起
- 停止:第1肋骨上面
- 作用:頸部側屈、第1肋骨挙上
- 神経支配:頸神経叢(C3〜C8)
後斜角筋(Scalenus posterior)
- 起始:第5〜7頸椎横突起
- 停止:第2肋骨外側面
- 作用:頸部側屈、第2肋骨挙上
- 神経支配:頸神経叢(C6〜C8)
触診のポイント
- 胸鎖乳突筋を確認:その後縁をたどると深部に斜角筋群。
- 前斜角筋:鎖骨上窩で、胸鎖乳突筋後縁の内側。
- 中斜角筋:前斜角筋のすぐ後方。第1肋骨に付着。
- 後斜角筋:肩甲挙筋の前方、触診はやや困難。
👉 触診時は腕を軽く挙上させ、第1肋骨の動きとあわせて確認。
斜角筋群と関連する代表的なツボ
- 人迎(ST9):胸鎖乳突筋前縁・甲状軟骨外側。動脈拍動部。高血圧・咽喉疾患に。
- 天鼎(LI17):胸鎖乳突筋後縁、甲状軟骨後下方。呼吸器症状に。
- 天窓(SI16):胸鎖乳突筋後縁、甲状軟骨レベル。耳鳴り・咽喉痛に。
- 扶突(ST10):人迎の下方、胸鎖乳突筋前縁。咳嗽・喘息に応用。
- 缺盆(ST12):鎖骨上窩中央。胸郭出口に位置し、胸肩症候群に関連。
臨床応用
1. 胸郭出口症候群
- 前斜角筋と中斜角筋の間を通る腕神経叢・鎖骨下動脈が圧迫。
- 症状:上肢のしびれ・冷え・脱力。
- 施術:人迎・天鼎・缺盆を選穴、斜角筋の緊張を緩和。
2. 頸肩腕症候群
- 長時間のデスクワークで斜角筋過緊張。
- 頸部痛・肩こり・手のしびれを訴える。
- 施術:天窓・天鼎を活用。
3. 呼吸器疾患
- 斜角筋群は吸気補助筋。
- 慢性気管支炎・喘息に対して人迎・扶突を選穴。
4. 自律神経症状
- 頸動脈洞反射に関与する人迎(ST9)は血圧調整に応用可能。
学び方のステップ
- 胸鎖乳突筋を基準に:その後縁をたどり、斜角筋群の位置を把握。
- 第1肋骨を確認:呼吸動作と連動させ、筋付着部を触る。
- ツボを重ねる:人迎・天鼎・天窓・缺盆をマーキング。
- 臨床シミュレーション:胸郭出口症候群や頸肩腕症候群を想定し、施術プランを組む。
まとめ
斜角筋群は頸部深層に位置し、呼吸補助筋として働くと同時に、神経・血管の圧迫によるしびれや循環障害の原因ともなります。鍼灸臨床では胸郭出口症候群や頸肩腕症候群などに直結し、関連ツボ(人迎・天鼎・天窓・缺盆)を的確に取穴することで症状改善が期待できます。鍼灸師は「筋とツボを重ねる」視点を持ち、解剖学を臨床に直結させることが重要です。
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