他業種との業務提携契約書に盛り込むべき必須項目|鍼灸院が守るべき法的・実務ポイント

はじめに

鍼灸院が他業種と連携することは、単なる顧客数の増加にとどまらず、地域での医療・健康ネットワークの強化、ブランド価値の向上にも直結します。例えば、整骨院との併設運営でリハビリと鍼灸の両方を提供するケースや、フィットネスジムと提携して会員向け健康プログラムを提供する事例など、連携の形は多様です。しかし、連携は双方の信頼があってこそ成立するもので、契約内容があいまいだと「誰が責任を負うのか」「費用は誰が出すのか」といった問題が浮上し、せっかくの協力関係が破綻する恐れがあります。特に医療・健康サービスでは、事故や施術効果のトラブルが発生した場合の責任所在が重要です。そこで不可欠なのが、詳細かつ実務的な契約書の作成です。以下では、鍼灸院が他業種と提携する際に契約書へ盛り込むべき必須項目を、現場運営の観点から解説します。


1. 契約の目的と業務範囲の明確化

契約書の冒頭で提携の目的を具体的に記載します。単に「協力する」ではなく、「地域住民への予防医療サービス提供」「会員への健康管理プログラム実施」など、ゴールを明確化することが重要です。さらに、鍼灸院側が行う業務(施術内容、頻度、場所)と、提携先が行う業務(施設提供、予約管理、集客など)を区別して明示します。また、「本契約に含まれない業務」を記載することで、後の責任範囲を限定できます。


2. 報酬・費用負担の取り決め

報酬形態は固定額制、売上歩合制、紹介料制など様々ですが、それぞれメリットとリスクがあります。歩合制の場合は計算方法(例:月末締め翌月末払い、税抜価格の●%)を明記し、固定額制なら支払い日や遅延時の取り扱いも決めます。さらに、材料費や消耗品費、広告費、イベント運営費などの負担割合も事前合意しておくべきです。特に消費税の扱いはトラブルになりやすいため、「税込・税抜」の記載方法を統一しましょう。


3. 顧客情報の取り扱い

顧客情報は個人情報保護法に基づき、利用目的・共有範囲を明確化します。例えば、共同イベント参加者の氏名・連絡先は「イベント運営および次回案内」にのみ使用し、それ以外の目的で使わない、といった制限が必要です。契約終了時には顧客情報を返却または完全削除し、第三者提供を禁止する旨を明記します。


4. 責任分担と事故時の対応

施術中のケガや施設内での転倒事故など、万が一の事態に備え、責任所在を明確化します。例えば、「施術中の事故は鍼灸院が、施設内共用部分での事故は施設側が責任を負う」といった具合です。さらに、双方に賠償責任保険の加入を義務付けることで、損害発生時の金銭的リスクを軽減できます。事故発生時の報告期限(例:24時間以内)や報告方法(文書・写真・関係者の証言)も記載しておきましょう。


5. 契約期間と更新・解除条件

契約期間は半年〜1年が多いですが、自動更新か都度更新かを選択します。契約解除は「●日前の書面通知」を条件に設定し、違約金や途中解約時の費用精算方法も決めておくことが重要です。契約違反があった場合の即時解除権についても忘れずに記載します。


6. 守秘義務と知的財産権

提携中に知り得た顧客リストや営業ノウハウ、施術マニュアルなどは守秘義務の対象です。契約終了後も一定期間は情報漏洩を禁止する条項を設けましょう。知的財産権については、共同開発した広告素材や販促ツールの権利帰属先を明確にし、無断利用を禁止します。


7. 広告・表示に関するルール

相手先の名称やロゴを使用する場合は、使用範囲や事前承認の要否を取り決めます。医療広告ガイドラインに抵触する誇大表現や比較広告は禁止とし、広告原稿は双方で確認するルールを設けます。


8. 紛争解決方法

万が一の紛争時には、まず協議による解決を試み、解決しない場合は管轄裁判所を指定します。時間と費用を抑えるため、調停や仲裁を利用する条項を加えるのも有効です。


9. トラブル事例と予防策(加筆強化)

  • 事例1:売上計算の基準が曖昧で揉めた → 計算式、対象金額の定義、締め日・支払日を契約書に明記
  • 事例2:顧客情報を無断で別サービスに使用 → 利用目的を限定し、違反時の損害賠償額を明示
  • 事例3:事故の責任押し付け合い → 責任分担と保険加入義務を契約に盛り込む

まとめ

他業種との業務提携は、鍼灸院のサービス拡大と地域連携の大きな機会ですが、契約の不備は関係悪化や経営リスクに直結します。契約書には業務範囲、報酬、顧客情報管理、責任分担、期間・解除条件、守秘義務、広告ルール、紛争解決方法まで具体的に盛り込みましょう。実務の現場を踏まえた詳細な取り決めは、単なるリスク回避だけでなく、長期的で信頼性の高い提携関係を築くための基盤となります。

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