正気と邪気とは?中医学における健康のバランス理論と病気の原因を解説|未病を防ぐ鍵とは?

正気と邪気とは?|中医学の健康観の中心にある2つの力

中医学では、健康か病気かを決定づけるのは、「正気(せいき)」と「邪気(じゃき)」という2つの力のバランスとされています。

  • 正気(せいき):身体を守り、外敵から防御し、体内の調和を保つ力(≒免疫力・生命力)
  • 邪気(じゃき):身体に悪影響を及ぼす外的または内的な要因(六淫・七情・飲食失調など)

➡️ 正気が強ければ邪気をはねのけることができ、弱ければ病気に至るという考え方です。

👉中医学における「邪気」とは?六淫の種類と体への影響、季節ごとの不調と予防法を解説

正気とは?|体を守る“自然の免疫力”

正気の中医学での意味構成

中医学では、正気は以下のような要素で構成されると考えられています:

成分役割
元気(げんき)先天的に受け継いだ生命エネルギー
気(き)全身を巡る生命活動の推進力
血(けつ)栄養と潤いを与える
津液(しんえき)体内の水分、体を潤し代謝を助ける
衛気(えき)外敵から身を守るバリア機能

✅ これらがバランスよく機能していれば、病気にかかりにくい「健康な状態」を維持できます。

邪気の分類とその性質

東洋医学における「邪気」とは、体のバランスを乱し、不調や病気を引き起こす原因となる要素の総称です。
邪気は大きく分けて、自然環境など外部から侵入するもの(外因)と、感情や精神状態など体の内側から生じるもの(内因)に分類されます。
ここでは代表的な「六淫」と「七情」について詳しく解説します。

六淫(りくいん)とは|外因となる6つの邪気

「六淫(りくいん)」とは、病気の原因となる6つの外的な邪気を指します。
本来は自然界に存在する気候の変化ですが、体の防御力(正気)が弱ったときに体内へ侵入し、不調や病気を引き起こします。

風邪(ふうじゃ)

風邪は主に2~4月の春に起こりやすい邪気です。
「軽い・上昇する・発散する」という性質を持ち、体の上部や表面に症状が現れやすいのが特徴です。

風は一年を通して存在するため、春だけでなく、寒邪・熱邪・湿邪など他の邪気と一緒に侵入することもあります。このことから、風邪は「百病の長」とも呼ばれ、さまざまな病気のきっかけになると考えられています。

体に侵入すると、めまい・悪寒・鼻水・くしゃみ・喉の痛みといった症状が現れやすくなります。

暑邪(しょじゃ)

暑邪は5~7月の春から夏にかけて起こりやすい邪気で、
「強い熱・上昇・発散」という炎のような性質を持ちます。

暑邪は湿邪と結びつきやすく、気温が高い環境では、体のエネルギーや体液(気・血・水)を消耗させやすくなります。そのため、体のバランスが崩れやすいのが特徴です。

侵入すると、高熱・顔が赤い・口渇・大量の発汗などの症状が起こります。

火邪(かじゃ)

火邪は暑邪と同じく、強い熱性を持つ邪気ですが、より激しい炎症性の症状を引き起こします。
皮膚の赤み・腫れ・痛み・化膿など、局所的な炎症として現れやすいのが特徴です。

体に侵入すると、高熱・吐血・血尿・血便など、重い症状が見られることもあります。

湿邪(しつじゃ)

湿邪は梅雨時期(6~7月)に起こりやすく、「重い・停滞する・濁る」といった性質を持っています。

特に五臓の脾(消化・吸収)に影響を与えやすく、水分代謝が乱れやすくなります。
症状は体の上部から下部へと移動しやすいのも特徴です。

侵入すると、体がだるい・むくみ・頭が重い・下痢などの症状が現れます。

燥邪(そうじゃ)

燥邪は8~10月の秋に起こりやすく、乾燥した空気によって体の潤いを奪う邪気です。

体の表面だけでなく、体内の水分にも影響し、特にの働きを弱めやすくなります。

侵入すると、空咳・便秘・皮膚や髪の乾燥といった症状が現れます。

寒邪(かんじゃ)

寒邪は11~1月の冬に起こりやすく、「冷やす・収縮させる」性質を持っています。

薄着や冷たい飲食物、冷房などによって体が冷えると、寒邪は侵入しやすくなります。体が冷えることで、気血水の巡りが悪くなり、さまざまな不調につながります。

侵入すると、足腰やお腹の冷え・下痢・痛みなどが起こりやすくなります。


内因:七情(しちじょう)とは|感情による邪気

七情とは、人が本来持つ7つの感情のことです。
通常であれば病気の原因にはなりませんが、感情が過剰になったり長く続いたりすると、五臓や気の流れに悪影響を及ぼします。

「心」は喜を主る

喜びは気血の巡りを良くし、心を明るくします。
しかし、喜びすぎると気が緩み、動悸や不眠など、心の不調につながることがあります。

「肝」は怒を主る

怒りは気を上昇させる性質があります。
怒りすぎると、頭痛・めまい・顔や目が赤くなるといった症状が現れやすくなります。

「脾」は思を主る

思い悩みすぎると、脾の働きが低下します。
食欲不振・胃の張り・吐き気など、消化器系の不調につながります。

「肺」は悲・憂を主る

悲しみや憂いが続くと、肺の気を消耗します。
声が出にくい・やる気が出ない・呼吸が浅くなるといった症状が見られます。

「腎」は驚・恐を主る

驚きや恐れが強すぎると、腎のエネルギーが消耗します。
腰が抜ける・尿を漏らすといった表現は、東洋医学的な腎の弱りを表しています。

六淫と七情は身近な不調の原因

今回は、六淫(外因)と七情(内因)という病気の原因について紹介しました。
季節ごとの体調不良や、感情の変化による不調に、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

梅雨時期に体が重くなるのは「湿邪」の影響、
仕事の悩みで食欲が落ちるのは「思」が脾に影響している状態と考えられます。

鍼灸や養生では、こうした邪気の性質を理解し、
季節・感情・生活習慣に合わせて体を整えることを大切にしています。
日々の不調を見つめ直すヒントとして、ぜひ役立ててみてください。

正気と邪気のバランスが崩れると何が起こる?

状態結果
正気が強く、邪気が弱い発病しにくい、回復が早い
正気が弱く、邪気が強い発病しやすい、慢性化しやすい
邪気が強すぎて正気が負ける急激な発症・高熱・激しい症状
正気が弱すぎて抵抗できない慢性的な虚弱・疲労・風邪をひきやすい体質など

✅ 「病気の原因=邪気」ではなく、「正気と邪気の相互関係」によって健康状態が変化するというのが中医学の基本的な見方です。

正気を高めるには?|養生の基本と具体的な対策

日常生活でできる5つの正気強化法

  1. 規則正しい生活:睡眠・食事・運動のリズムを整える
  2. 適度な運動:ウォーキングや太極拳など、気血の巡りを良くする活動
  3. ストレスコントロール:感情の起伏を穏やかに保ち、七情の乱れを防ぐ
  4. 腹八分目+温かい食事:脾胃の働きを助け、気血の生成を促す
  5. 冷えを避け、体を温める:衛気を高め、邪気の侵入を防ぐ

薬膳による正気の補い方(体質別)

体質薬膳食材例目的
気虚山芋・かぼちゃ・もち米元気・気を補う
血虚黒ごま・ナツメ・レバー血を増やし、栄養と潤いを与える
陰虚白きくらげ・梨・豆腐津液を補い、内熱を抑える
陽虚羊肉・シナモン・生姜体を温め、エネルギーを補う

鍼灸による「正気を養う」ツボと施術例

ツボ名効果使い方の例
足三里(あしさんり)消化・免疫力UP胃腸が弱い人におすすめ
中脘(ちゅうかん)脾胃の働きを助け、気を補う消化不良や疲労感に
太谿(たいけい)腎の陽を補う冷え、疲れやすさに
合谷(ごうこく)衛気を高め、風邪予防に肩こりや頭痛にも◎

✅ 鍼灸は、正気の不足した体に“気の巡り”を与え、邪気の排出を助けます。

まとめ|「正気を養う」ことが中医学的健康の基本

中医学では、「邪気が強いから病気になる」のではなく、「正気が不足しているから邪気に負ける」と考えます。

つまり、「健康を守る最良の方法は、邪気を避けることよりも、自分の中の正気=生命力を養うこと」にあります。

忙しい日々の中でも、自分の体調と対話しながら、正気を高める生活習慣・食養生・ツボケアを取り入れて、未病(まだ病になっていない状態)を防ぎ、健やかな体をつくりましょう。

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