疾患別に見る腰痛に対する鍼灸のアプローチ|原因別に解説する鍼灸治療の実践方法

1. はじめに:疾患別の腰痛に対する鍼灸の重要性

腰痛は、患者が最も訴えることの多い症状の一つですが、その原因となる疾患は多岐にわたります。腰痛の根本原因を理解し、鍼灸による適切な施術を行うことは重要です。ここでは、代表的な腰痛疾患ごとに鍼灸のアプローチを解説します。


2. 筋筋膜性腰痛に対する鍼灸アプローチ

筋筋膜性腰痛は、筋肉の使い過ぎや姿勢の悪さによる筋肉の疲労・緊張、あるいは炎症が原因で引き起こされる腰痛です。比較的若年層から中高年まで幅広く発生しやすいのが特徴です。

鍼灸のアプローチ

  • 主要なツボ:「腎兪(じんゆ)」「腰眼(ようがん)」「志室(ししつ)」
  • 目的:筋肉の緊張をほぐし、血流を改善することで、疲労や炎症を軽減します。

これらのツボに鍼やお灸を施すことで、筋肉の柔軟性が回復し、痛みが和らぎやすくなります。鍼治療は直接的に筋肉の血行を促進し、筋繊維の癒着を防ぎます。また、患者に正しい姿勢やストレッチの指導を行うと、再発予防にもつながります。


3. 椎間板ヘルニアに対する鍼灸アプローチ

椎間板ヘルニアは、椎間板が飛び出し神経を圧迫することで、腰から足にかけて放散痛が現れる症状です。重度になると、下肢に痺れや筋力低下が見られ、手術が必要になる場合もあります。

鍼灸のアプローチ

  • 主要なツボ:「大腸兪(だいちょうゆ)」「環跳(かんちょう)」「委中(いちゅう)」「承山(しょうざん)」
  • 目的:神経圧迫を和らげるため、神経周囲の炎症を抑制し、血行促進を行います。

「環跳」「承山」など坐骨神経に関連するツボに施術することで、痛みを和らげる効果が期待できます。また、「大腸兪」や「委中」は腰部の血行を促し、周囲の緊張を軽減して神経への圧迫を緩和します。鍼灸による刺激は、神経の炎症を抑えるのに有効です。


4. 坐骨神経痛に対する鍼灸アプローチ

坐骨神経痛は、坐骨神経が圧迫されることで、腰から臀部、太ももにかけて痛みやしびれが現れる症状です。椎間板ヘルニアや筋肉の硬直が原因となり、特に中高年層に多く見られます。

鍼灸のアプローチ

  • 主要なツボ:「環跳」「陽陵泉(ようりょうせん)」「承山」「足三里」
  • 目的:坐骨神経周囲の血行改善と緊張緩和を図り、神経への圧迫を軽減します。

「環跳」や「承山」は、坐骨神経に沿った痛みやしびれを緩和するための重要なツボです。また、「陽陵泉」や「足三里」を組み合わせることで、下肢全体の血流が良くなり、神経痛が軽減されます。患者の症状に合わせ、腰・臀部から下肢にかけての筋肉をリラックスさせる施術を行いましょう。


5. 変形性腰椎症に対する鍼灸アプローチ

変形性腰椎症は、加齢による椎骨や椎間板の変形で発症し、腰の鈍痛や動作時の痛みが特徴です。高齢者に多く、日常生活の中での負担が蓄積されることで悪化します。

鍼灸のアプローチ

  • 主要なツボ:「腎兪」「大腸兪」「命門(めいもん)」「腰陽関(ようようかん)」
  • 目的:腰部の血行を促進し、関節や筋肉の動きを改善することで痛みを緩和します。

これらのツボに施術を行うことで、腰椎周辺の血流が改善され、組織の硬化が緩和されます。鍼灸により体の動きが楽になることで、日常生活での活動がしやすくなり、患者の生活の質(QOL)の向上が期待されます。変形性腰椎症の場合は、痛みの慢性化が進みやすいため、患者に対しても根気よく施術を続ける姿勢が重要です。


6. 脊柱管狭窄症に対する鍼灸アプローチ

脊柱管狭窄症は、脊柱管が狭くなることで神経が圧迫され、腰から下肢にかけての痛みやしびれが出現する症状です。中高年に多く、症状が進むと、間欠性跛行(しばらく歩くと足が痛みで動かなくなる)が見られることがあります。

鍼灸のアプローチ

  • 主要なツボ:「大腸兪」「腎兪」「足三里」「承山」
  • 目的:神経圧迫の軽減と、下肢への血行促進を行い、痛みを緩和します。

「大腸兪」「腎兪」を中心に腰部全体の緊張を和らげ、血行を促進して痛みの緩和を目指します。また、「足三里」や「承山」を併用することで、下肢への血流改善が期待でき、間欠性跛行の症状を軽減します。施術は下肢へのアプローチも合わせて行い、腰から足にかけての血行を促進しましょう。


7. ギックリ腰に対する鍼灸アプローチ

ギックリ腰(急性腰痛症)は、突然の動作や無理な体勢で腰部の筋肉や靭帯に負荷がかかり、急激な痛みを伴う症状です。重い物を持ち上げる動作や急な腰のひねり、または腰部に負担がかかる姿勢が原因となりやすく、年齢を問わず発症します。発症直後は腰を動かすことが困難になり、立ち上がれないほどの強い痛みが続く場合もあります。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「腎兪(じんゆ)」「腰眼(ようがん)」「委中(いちゅう)」
  • 目的:急性の痛みを和らげ、血流を促進して筋肉の緊張を緩和します。

「腎兪」や「腰眼」は、腰部全体の血流を改善し、筋肉のこわばりをほぐすために用いられる基本的なツボです。また、「委中」は腰から下肢にかけての痛みを緩和する効果があり、腰の可動域を改善するためにも重要なツボです。これらのツボに鍼やお灸を施し、急性期の痛みを抑えるとともに、筋肉の柔軟性を取り戻すことを目指します。

患者の症状に合わせ、強い刺激は避け、穏やかに筋肉をリラックスさせる施術を行うことが大切です。また、温灸を併用して腰部を温めることで血行が促進され、痛みの緩和が期待されます。


8. 圧迫骨折に対する鍼灸アプローチ

圧迫骨折は、骨粗鬆症などで脊椎がもろくなり、転倒や軽微な外力で骨がつぶれるように骨折する状態です。高齢者に多く、軽度の骨折でも腰部に鋭い痛みが生じるのが特徴です。動作時に痛みが増すため、日常生活にも大きな支障をきたします。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「腎兪(じんゆ)」「命門(めいもん)」「大腸兪(だいちょうゆ)」
  • 目的:骨折周辺の筋肉の緊張を和らげ、血流を改善して自然治癒力を高めます。

「腎兪」や「命門」は、腰部全体の血流促進を目的として施術する重要なツボです。「大腸兪」は腰部の硬直した筋肉をリラックスさせる効果があり、痛みの軽減が期待されます。これらのツボに鍼や温灸を施し、急性期の痛みを抑えつつ、筋肉の硬直を緩和していきます。温灸を併用することで患部を温め、血行が促進され回復が早まります。

患者には無理な動作を避けるよう指導し、骨折周囲への過剰な負担を減らすことも重要です。


9. 仙腸関節炎に対する鍼灸アプローチ

仙腸関節炎は、骨盤の仙腸関節(仙骨と腸骨の間)の炎症や機能障害による痛みが特徴で、腰痛の原因の一つとして知られています。不自然な動作や長時間の姿勢保持が原因となりやすく、腰から臀部にかけて痛みが広がります。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「環跳(かんちょう)」「腎兪(じんゆ)」「腰眼(ようがん)」
  • 目的:仙腸関節周辺の血流を改善し、筋肉の緊張を緩和することで炎症を軽減します。

「環跳」は臀部の緊張をほぐし、仙腸関節周辺の筋肉をリラックスさせるために用いられる重要なツボです。「腎兪」や「腰眼」は、骨盤周辺の血行促進を目的として施術します。鍼と温灸を組み合わせて腰部を温めることで、筋肉の柔軟性が向上し、痛みの緩和が期待されます。

施術後には正しい姿勢の維持やストレッチを指導し、症状の再発予防を目指します。


10. 腰椎すべり症に対する鍼灸アプローチ

腰椎すべり症は、腰椎が前後にずれることで神経を圧迫し、腰から脚にかけて痛みやしびれが発生する疾患です。加齢や過度な腰への負担が原因となりやすく、長時間座ると症状が悪化することが多いです。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「大腸兪(だいちょうゆ)」「腎兪(じんゆ)」「委中(いちゅう)」
  • 目的:腰部周辺の筋肉をリラックスさせ、神経の圧迫を緩和することを目指します。

「大腸兪」や「腎兪」は腰椎の周囲の血行を改善し、筋肉の緊張を緩和する重要なツボです。「委中」は腰から下肢にかけての神経痛やしびれを軽減する効果があります。鍼や温灸を用いて筋肉をほぐすことで、症状が緩和され、動作が楽になります。

患者には腰に負担をかける動作を避けるよう指導するとともに、軽い腰部のエクササイズを取り入れることで予防につなげます。


11. 梨状筋症候群に対する鍼灸アプローチ

梨状筋症候群は、坐骨神経が臀部の梨状筋に圧迫されることで発症する疾患です。腰や臀部に痛みが生じ、特に太ももやふくらはぎにかけてのしびれが特徴です。長時間の座位や歩行で症状が悪化することがあります。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「環跳(かんちょう)」「承扶(しょうふ)」「陽陵泉(ようりょうせん)」
  • 目的:梨状筋の緊張を緩め、坐骨神経への圧迫を軽減します。

「環跳」や「承扶」は、梨状筋の緊張を解消し、臀部から下肢にかけての血行を促進するために用いられるツボです。「陽陵泉」は足の筋肉や神経の流れを整え、坐骨神経痛を和らげる効果があります。鍼と温灸を併用して筋肉をリラックスさせることで、症状が徐々に軽減されます。

長時間の座位を避け、ストレッチを行うことが再発予防に効果的です。


12. 妊娠中・産後の腰痛に対する鍼灸アプローチ

妊娠中・産後の腰痛は、妊娠中の体重増加やホルモン変化による骨盤の緩み、また産後の骨盤の歪みが原因で発生します。腰や仙腸関節に痛みが生じ、日常動作に影響を与えることが多いです。

鍼灸のアプローチ:

  • 主要なツボ:「腎兪(じんゆ)」「大腸兪(だいちょうゆ)」「三陰交(さんいんこう)」
  • 目的:腰部の血行を改善し、骨盤周りの筋肉の緊張を緩和することで痛みを軽減します。

「腎兪」や「大腸兪」は腰痛全般に効果的で、特に骨盤周辺の筋肉を緩める効果が期待できます。「三陰交」は女性特有の症状に対する万能のツボで、ホルモンバランスを整え、血行を促進します。温灸を併用して腰部を温めることで、産後の回復をサポートします。

施術に加え、骨盤ベルトの使用や骨盤矯正ストレッチを指導することで、症状の早期改善を目指します。産後の慢性的な痛みなどは、産後うつ、産後クライシスなどの問題を引き起こす可能性があります。

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鍼灸師を目指す学生へのアドバイス

腰痛治療は、患者が日常生活で抱える負担を軽減するための基本的な施術です。疾患ごとに異なるアプローチを理解し、的確なツボを刺激することで、患者の症状に合った最適な治療が可能になります。疾患によってアプローチの目的が異なるため、患者の状態をしっかりと把握し、根本原因にアプローチすることが重要です。

また、鍼灸による施術は、即効性のあるものではないため、患者にセルフケアを指導し、日常生活での再発予防を支援することも鍼灸師の大切な役割です。鍼灸治療と患者指導を組み合わせて、より効果的な治療を目指しましょう。


まとめ

腰痛は、多様な疾患が原因となり、鍼灸師として各疾患に応じたアプローチを学ぶことが重要です。筋筋膜性腰痛、椎間板ヘルニア、坐骨神経痛、変形性腰椎症、脊柱管狭窄症など、疾患ごとに鍼灸が効果を発揮するツボと施術方法が異なります。それぞれのアプローチ方法を理解し、患者に合わせた施術を行うことで、症状の改善が期待できます。

腰痛治療において、鍼灸師としての技術を磨き、患者の生活をより快適にサポートできるよう、実践を通じてスキルを高めていきましょう。

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