鍼灸師のための解剖学入門㉟:体幹伸筋群(脊柱起立筋・多裂筋)とツボ ― 姿勢保持・腰痛治療に活かす

はじめに

体幹伸筋群は、背部を縦走する大きな筋群で、脊柱の伸展・回旋・側屈を担い、姿勢保持に欠かせません。代表的な筋には脊柱起立筋(最長筋・腸肋筋・棘筋)と多裂筋があり、脊柱を支える「柱」として働きます。特に腰背部の伸筋群は、慢性腰痛・姿勢不良・スポーツ障害に深く関連します。鍼灸臨床では、腎兪・命門・大腸兪などのツボと重ねて理解することで、腰痛改善や体幹安定に効果を発揮します。本記事では、体幹伸筋群の解剖学的特徴、触診法、ツボとの関連、臨床応用を詳しく整理します。

さらに、体幹伸筋群は単に「背筋」として括られるだけでなく、実際には深層から表層まで多層的に構成され、微細な動作制御と強大な姿勢支持を両立しています。そのため、柔軟性が損なわれると脊柱全体の動きが制限され、逆に弱化すると腰椎の不安定性を招きます。また、精神的ストレスや自律神経の乱れによっても過緊張を起こしやすい筋群であり、心身の健康と直結する点も重要です。鍼灸師が体幹伸筋群を解剖学的に理解することは、局所の腰痛治療だけでなく、全身バランスや心身調整を目的とした治療の基盤になるのです。


体幹伸筋群の解剖学的特徴

1. 脊柱起立筋(Erector spinae)

  • 構成:腸肋筋・最長筋・棘筋
  • 起始:仙骨・腸骨稜・腰椎棘突起
  • 停止:肋骨・胸椎・頸椎・後頭骨
  • 作用:脊柱伸展・側屈
  • 臨床意義:慢性腰痛・猫背・脊柱不良姿勢に関連

2. 多裂筋(Multifidus)

  • 起始:仙骨・椎骨横突起
  • 停止:上位椎骨の棘突起
  • 作用:脊柱伸展・安定化
  • 臨床意義:腰椎不安定症・急性腰痛の原因筋

3. その他の深部筋

  • 回旋筋・半棘筋などが補助的に脊柱を支える。
  • 微細な動作制御に関与。

触診のポイント

  1. 脊柱起立筋:腰椎両側で縦走する大きな筋。体幹を反らすと隆起。
  2. 多裂筋:脊柱起立筋の深層に位置し、棘突起近くで触診。
  3. 仙骨周囲:仙骨両側を押圧すると多裂筋の圧痛を確認しやすい。

体幹伸筋群と関連する代表的なツボ

  • 腎兪(BL23):第2腰椎棘突起下。腰痛・腎機能調整に。
  • 命門(GV4):第2腰椎棘突起間。腰背部の要穴。
  • 大腸兪(BL25):第4腰椎棘突起下。腰痛・便秘に。
  • 腰陽関(GV3):第4腰椎棘突起間。腰下肢痛に。
  • 志室(BL52):腎兪外方。腰背部の筋緊張を緩和。

👉 脊柱に沿った膀胱経・督脈の経穴は、伸筋群の走行と密接に関与。


臨床応用

1. 慢性腰痛

  • 脊柱起立筋・多裂筋の過緊張が原因。
  • 腎兪・大腸兪・命門を中心に施術。

2. 急性腰痛(ぎっくり腰)

  • 多裂筋の急激な収縮・損傷による。
  • 阿是穴・腰陽関を併用。

3. 姿勢改善(猫背・反り腰)

  • 脊柱起立筋と腹筋群のアンバランス。
  • 腎兪・志室を組み合わせて調整。

4. 慢性疲労・全身倦怠

  • 体幹伸筋群の硬直は全身の血流低下を招く。
  • 命門・腎兪を補気穴として使用。

学び方のステップ

  1. 骨指標を確認:腰椎棘突起・仙骨を触診。
  2. 筋収縮を観察:体幹伸展・側屈で筋の活動を確認。
  3. ツボをマッピング:腎兪・命門・腰陽関を脊柱に沿って描く。
  4. 臨床想定:慢性腰痛・ぎっくり腰・姿勢不良をモデルに施術プランを作成。

まとめ

体幹伸筋群は脊柱の安定と姿勢保持に欠かせない筋群であり、慢性腰痛や姿勢不良、スポーツ障害と密接に関わります。脊柱起立筋や多裂筋を正しく触診し、腎兪・命門・大腸兪などのツボと関連づけて学ぶことで、鍼灸施術の効果を大きく高めることができます。

さらに、体幹伸筋群は「人間の直立を支える柱」としての役割を担っており、その機能低下は全身の不調につながります。デスクワークでの長時間の座位や運動不足は、これらの筋群の柔軟性と筋力を低下させ、腰痛をはじめとする慢性症状を引き起こします。鍼灸師は、ツボ刺激による筋緊張緩和とともに、体幹伸筋群の働きを補助することで、患者の健康寿命の延伸や日常生活の快適さに大きく寄与できるでしょう。

加えて、この筋群は呼吸運動や血流循環にも影響を与えるため、腰背部への施術は局所の痛み改善にとどまらず、自律神経や全身調整の観点でも重要です。体幹伸筋群を総合的に評価し、適切にアプローチすることは、慢性的な不調の改善や再発予防に直結します。鍼灸臨床においてこの筋群を深く理解することは、治療効果を一段と高める鍵となるでしょう。

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