鍼灸師のための解剖学入門㉔:後頭下筋群とツボ ― 頭痛・めまい・自律神経症状への応用

はじめに

現代人に多い頭痛・めまい・首のこりは、頸後頭部の緊張が大きな要因です。特にスマホやPC作業による前傾姿勢は、頭を支える後頭下筋群に大きな負担をかけます。後頭下筋群は「大後頭直筋・小後頭直筋・上頭斜筋・下頭斜筋」からなり、頭部の微細な動きを制御する役割を担います。これらは自律神経中枢に近い延髄・頸髄上部と関わりが深く、施術により全身的なリラックスや血流改善をもたらします。さらに、この部位には天柱(BL10)、風池(GB20)、亜門(GV15)など臨床頻用穴が存在し、筋とツボを重ねて理解することが極めて重要です。


後頭下筋群の解剖学的特徴

1. 大後頭直筋(Rectus capitis posterior major)

  • 起始:第2頸椎棘突起
  • 停止:後頭骨下項線外側部
  • 作用:頭部伸展・同側回旋
  • 臨床意義:片頭痛や緊張性頭痛に関与

2. 小後頭直筋(Rectus capitis posterior minor)

  • 起始:第1頸椎後結節
  • 停止:後頭骨下項線内側部
  • 作用:頭部伸展・安定化
  • 臨床意義:後頭部のだるさや眼精疲労と関連

3. 上頭斜筋(Obliquus capitis superior)

  • 起始:第1頸椎横突起
  • 停止:後頭骨下項線外側部
  • 作用:頭部伸展・側屈
  • 臨床意義:頸肩こり・めまいに関連

4. 下頭斜筋(Obliquus capitis inferior)

  • 起始:第2頸椎棘突起
  • 停止:第1頸椎横突起
  • 作用:頭部回旋
  • 臨床意義:頸部可動域制限・めまいに関連

触診のポイント

  1. 後頭骨の外後頭隆起を確認
    → ここから外側に指を動かすと後頭下筋群の位置。
  2. 天柱(BL10)付近を圧すと 筋緊張や圧痛が出やすい。
  3. 風池(GB20)付近で指を斜め前方に圧すると、眼精疲労や頭重感に関連。
  4. 触診時の注意:延髄や椎骨動脈が近いため、強圧は避ける。

後頭下筋群と関連する代表的なツボ

  • 天柱(BL10):後頭骨下縁、僧帽筋外縁。頭痛・肩こりに必須。
  • 風池(GB20):後頭骨下縁、胸鎖乳突筋と僧帽筋の間。頭痛・めまい・自律神経症状に。
  • 亜門(GV15):第1頸椎棘突起直下。言語障害・精神症状に応用。
  • 完骨(GB12):乳様突起後下方。耳鳴り・不眠に。
  • 承漿(CV24)・印堂(EX-HN3)と組み合わせると精神安定に有効。

臨床応用

1. 緊張性頭痛・片頭痛

  • 天柱・風池を中心に。
  • 大後頭直筋・小後頭直筋の緊張を解消。

2. めまい・耳鳴り

  • 下頭斜筋の緊張が椎骨動脈血流を阻害。
  • 風池・完骨を活用。

3. 自律神経症状(不眠・不安・動悸)

  • 延髄近くの風池・亜門は副交感神経を調整。
  • 百会・神門と併用で全身調整。

4. 頸肩こり

  • 上頭斜筋を緩める。
  • 肩井(GB21)と合わせて用いると効果的。

学び方のステップ

  1. 後頭骨・頸椎ランドマーク確認:外後頭隆起・第1・第2頸椎を触診。
  2. ツボをマーキング:天柱・風池・亜門を正確に取穴。
  3. 動作と関連づけ:頭部伸展・回旋で筋収縮を確認。
  4. 臨床シナリオ練習:頭痛・めまい・自律神経失調のケースを想定し、配穴を組む。

まとめ

後頭下筋群は頭部を支える小さな筋群ですが、頭痛・めまい・自律神経症状に大きな影響を与えます。天柱・風池・亜門などのツボを重ね合わせて学ぶことで、施術効果が格段に向上します。鍼灸師は「後頭部の解剖学=全身調整のカギ」と捉え、筋とツボを体系的に理解することが求められます。

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