1. 生涯と鍼灸への道
澤田健は、昭和初期の鍼灸界で“名人”と称された実力派で、古典医学の知識と卓越した臨床観察を組み合わせた治療家として知られています。自身の著作は少ないものの、弟子である 代田文誌 がその臨床を丁寧に筆録した『鍼灸真髄』が現存し、その中に治療思想・手技・症例が詳細に記録されています。
「弟子による伝承」という形で残されたことが、かえって澤田の“臨床家としての本質”を鮮やかに浮かび上がらせています。
2. 太極療法の核心――内臓を整える鍼灸
澤田の治療体系「太極療法」は、五臓六腑の調和を第一とする点に特徴があります。
たとえば、背部の肝兪の張りは「肝の腫れ」、脾兪の反応は「脾機能の停滞」と読み、そこへ灸を施すことで臓腑の機能そのものを高め、姿勢・筋緊張・痛み・冷えといった諸症状の改善へ導くと説明しています。
腹部の反応点、皮膚の色の変化、触診の感触、脈の状態を総合する診断法は東洋医学そのものであり、現代の経絡治療的アプローチの源流に位置しています。
局所治療よりも「なぜ問題が生じたか」という本質に向き合う姿勢が特徴でした。
3. 鍼よりも灸を重視した理由
澤田は灸の効果を非常に重視し、特に臓腑を調整する手段として最適であると考えていました。
“臓腑の腫れ・冷え・機能低下”の改善には灸の温熱刺激が優れ、皮膚表面だけでなく深部にまで働きかけると捉えていました。
このため治療風景の多くは灸を主体とし、必要に応じて鍼を補助的に使うという構成が基本だったとされています。
4. 弟子による記録と後世への影響
代田文誌が記録した『鍼灸真髄』には、澤田の治療法が「見立て → 臓腑の状態を把握 → 必要な灸点を選ぶ」という明快な流れで紹介されており、現在も教科書的価値を持ちます。
また澤田流の系統では、背部兪穴の反応を重視したり、腹部の「肚の状態」を読み解く方法など、初心者でも学びやすい要素が多く、その継承会・講習会も存在しています。
5. 今日に残る価値
澤田健の臨床哲学は、現代の「全身を診る鍼灸」や「証に基づく治療」の実践に深い影響を与えています。とくに、症状ではなく“身体全体の失調”に着目する姿勢は、今日の東洋医学の根幹そのものと言えるでしょう。
6. まとめ
澤田健は、伝統鍼灸の古典理論を基盤に置きながらも、臨床的実践を通じて「経絡を通して内臓を整える」治療哲学を打ち立てた鍼灸師です。彼の思想と記録は、現代の鍼灸実践を深めるうえで、今なお価値ある財産と言えるでしょう。
要点としては以下の通りです:
- 五臓六腑を中心に据えた「太極療法」という包括的視点
- 背部・腹部の反応を読み、臓腑の機能を整える手技
- 灸を主体とした治療法による“本質からの回復”
- 『鍼灸真髄』などを通じた弟子による継承と体系化
- 今日の鍼灸教育・実践における「証に基づく治療」「全身視点」の礎
彼の視点で臓腑・経絡・身体の流れを見つめ直すことで、鍼灸を学ぶ者・実践する者ともに新たな気づきを得る道が開かれています。
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