はじめに
パソコン作業やテニス・バドミントンなどラケットスポーツで多用されるのが前腕伸筋群です。これらは肘外側上顆から起始し、手関節や指を伸展させる働きを持ちます。代表的な障害に「外側上顆炎(テニス肘)」があり、鍼灸臨床でも日常的に遭遇します。前腕伸筋群を正確に理解し、触診とツボの位置を重ねることは、肘や手首の痛みに対処する上で不可欠です。本記事では、前腕伸筋群の解剖学的特徴、触診法、ツボとの関連、臨床応用について詳しく解説します。
前腕伸筋群の解剖学的特徴
浅層伸筋群
- 総指伸筋(Extensor digitorum)
- 起始:上腕骨外側上顆
- 停止:第2〜5指末節骨
- 作用:手関節伸展、MP関節伸展
- 臨床:テニス肘の主要原因
- 短橈側手根伸筋(Extensor carpi radialis brevis)
- 起始:外側上顆
- 停止:第3中手骨底
- 臨床:テニス肘の代表的責任筋
- 長橈側手根伸筋(Extensor carpi radialis longus)
- 起始:上腕骨外側縁
- 停止:第2中手骨底
- 臨床:手関節伸展時に強く作用
- 尺側手根伸筋(Extensor carpi ulnaris)
- 起始:外側上顆
- 停止:第5中手骨底
- 臨床:小指側手首痛に関連
深層伸筋群
- 長母指外転筋・短母指伸筋・長母指伸筋・示指伸筋
- 母指・示指の動きに特化。母指腱鞘炎や腱摩擦音に関連。
触診の実際
- 外側上顆を確認:すべての伸筋群の共通起始。
- 総指伸筋:手指を伸展させると背側に腱が浮き上がる。
- 長橈側・短橈側手根伸筋:手首背屈で前腕橈側に浮き上がる。
- 尺側手根伸筋:小指側で手関節背屈すると触れやすい。
👉 動きを加えると筋が鮮明になり、ツボとの関連が理解しやすくなります。
前腕伸筋群と関連する代表的なツボ
- 曲池(LI11):肘窩外側端。外側上顆周囲筋群の圧痛に関連。
- 手三里(LI10):曲池から3寸下。総指伸筋上に位置。
- 外関(TE5):手関節背側、橈骨と尺骨の間。腱鞘炎や上肢痛に有効。
- 陽谿(LI5):橈骨茎状突起の背側。手首痛に多用。
- 偏歴(LI6):陽谿の上3寸。浮腫や前腕痛に関連。
臨床応用
1. 外側上顆炎(テニス肘)
- 原因:総指伸筋・短橈側手根伸筋の過使用。
- 施術:曲池・手三里・阿是穴(圧痛点)。
2. 腱鞘炎(ドケルバン病など)
- 母指伸筋群の摩擦。
- 施術:外関(TE5)、陽谿(LI5)。
3. 手首痛・スポーツ障害
- 長橈側・尺側手根伸筋の過緊張。
- 施術:陽谿・偏歴・外関。
4. 上肢全体の疲労・痺れ
- 総指伸筋の硬直で血流障害。
- 施術:曲池・外関・合谷を組み合わせる。
学び方のステップ
- 外側上顆を触る:伸筋群の共通起始を確実に押さえる。
- 動作で確認:手首背屈・指伸展で筋の走行を浮かび上がらせる。
- ツボを重ねる:曲池・手三里・外関・陽谿を実際にマーキング。
- 臨床シミュレーション:テニス肘・腱鞘炎・手首痛の症例を想定し、施術プランを組み立てる。
まとめ
前腕伸筋群は、肘外側上顆から起始し、手関節や指の伸展を担う重要な筋群です。特に総指伸筋・短橈側手根伸筋はテニス肘の原因筋として知られ、鍼灸臨床での理解が欠かせません。これらの筋を触診し、曲池・手三里・外関・陽谿などのツボを骨学的ランドマークに重ねることで、施術の精度が向上します。鍼灸師は「筋とツボをリンク」させる習慣を持ち、スポーツ障害や日常的な手首痛に対応できる技術を磨く必要があります。
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