電子帳簿保存法の実務ガイド|鍼灸院が押さえる保存・検索の要件とは?
はじめに:電子帳簿保存法は“やっておけば安心”ではなく“対応必須”に
「領収書は紙で取ってあるから大丈夫」
「データでもらった書類は印刷して保管している」
こうした対応は、2025年現在では電子帳簿保存法(以下「電帳法」)の要件を満たしていない可能性が高く、将来的な税務調査で否認されるリスクが出てきています。
特に、電子請求書やインボイス制度の導入により、医療系事業者にも電子保存の対応が求められる場面が急増中です。
鍼灸院も例外ではなく、クラウドサービスやLINE、メールで届く請求書や領収書の保存方法について、「紙に印刷して保存していればよい」という時代は終わりつつあります。
本記事では、鍼灸院が対応すべき電帳法の基本から、電子取引データの保存方法、検索要件、保存期間、必要な社内ルール(運用規程)まで、わかりやすく解説します。
ダウンロード資料には「保存対象チェックリスト」「自院で使える運用規程テンプレート」もご用意しています。
要点まとめ
- 電帳法は2022年改正、2025年1月から“原則義務化”に
- 電子で受け取った請求書・領収書等は、電子保存が必須(紙出力NG)
- 保存方法には「真実性」「可視性」が求められる(タイムスタンプや訂正履歴など)
- 検索要件を満たさなければ、保存していても“無効”になる場合がある
- 小規模事業者は「簡易保存要件」の対象になる可能性あり
1. 電子帳簿保存法とは?何が変わったのか(2025年時点)
電子帳簿保存法とは、帳簿・書類を電子的に保存する際の要件を定めた法律で、以下の3つの保存区分があります。
- 電子帳簿等保存(会計ソフトの仕訳など)
- スキャナ保存(紙の領収書をスキャンして電子保存)
- 電子取引データ保存(メールやクラウドで届いたPDFなど)
この中で特に重要なのが「電子取引」の対応です。
2025年1月以降、メール添付・クラウド請求書・LINE領収書など電子的に受け取ったデータは、電子のまま保存しなければなりません(紙保存は認められません)。
2. 対象となる“電子取引”の具体例(鍼灸院編)
鍼灸院でも日常的に発生する以下の取引は、すべて電子保存の対象となります。
- メールで送られてくる物販業者からの請求書(PDF)
- Amazonなどオンラインで発行される購入明細書・領収書
- クラウド型会計ソフトにアップロードされた経費明細
- LINEやメッセージで受け取るインボイス形式の請求情報
これらは「電子で受領=電子取引」となり、紙に印刷して保存するだけでは法令違反となります。
また、保存する際には検索可能性・改ざん防止といった形式要件を満たす必要があります。
3. 保存のための3大要件
電帳法で定められている保存形式には、次の3つのポイントが重要です。
①「真実性の確保」
- タイムスタンプの付与(受領後または自社発行時)
- 訂正・削除ができないシステムで保存(改ざん防止)
- 定期的なバックアップ推奨
②「可視性の確保」
- パソコンやスマホで即時に画面表示できること
- 税務職員が確認しやすい環境にしておくこと
③「検索機能の確保」
- 保存ファイルを「取引年月日」「金額」「取引先名」で検索可能であること
- 市販ソフトまたは管理用Excelでも対応可能(特例あり)
4. 小規模鍼灸院は「簡易保存の特例」対象になる場合も
2024年の改正により、以下の条件に当てはまる事業者は、「検索要件」や「タイムスタンプ要件」の緩和が認められています。
- 従業員5名以下(サービス業の場合)
- 電子取引データの件数が月20件未満
- 一定の運用規程を作成している
この「簡易保存の特例」を使えば、PDFのファイル名をルールに沿ってつけ、フォルダ分け保存することで、制度に準拠することが可能です。
5. 記載・保存ミスを防ぐチェックリスト(表形式)
以下のチェックリストで、自院の電帳法対応状況を確認しましょう。
チェック項目 | OK/NG | 備考 |
---|---|---|
電子で受け取った請求書を紙に印刷して保存していないか? | □ OK □ NG | 紙保存はNG。電子のまま保存が必要。 |
保存するPDFに取引日・金額・取引先が明記されているか? | □ OK □ NG | ファイル名に情報を含めると実務的。 |
タイムスタンプまたは訂正履歴が残る形式で保存しているか? | □ OK □ NG | 市販ソフトまたはクラウド保存で対応可。 |
取引年月日・金額・取引先で検索できるようになっているか? | □ OK □ NG | Excel台帳連携でも可(小規模特例)。 |
社内で運用規程を定めているか? | □ OK □ NG | 規程があると特例を活用しやすい。 |
6. よくある質問(FAQ)
Q:印刷してファイルに閉じて保存すれば大丈夫ですか?
A:いいえ。電子で受領したものは、電子のまま保存する義務があります。印刷保存のみでは法令違反となります。
Q:保存形式に迷ったらどうすればいい?
A:市販の会計ソフトや、タイムスタンプ付きクラウドサービスを利用するのが確実です。小規模事業者は特例の検討を。
Q:スマホで受け取ったLINE領収書も対象ですか?
A:はい。画像・PDF・テキストいずれも電子データであれば対象です。保存・検索のルールに従う必要があります。
まとめ:電子保存は「義務化対応」と「業務効率化」の両輪で考える
電子帳簿保存法は、鍼灸院にも確実に影響を及ぼす制度です。
特に、電子取引が1件でも発生する場合には、保存方法を見直さなければ、税務上の帳簿不備として否認されるリスクがあります。
しかし、正しいルールを理解し、クラウドストレージの活用やファイル名管理を徹底すれば、難しいシステム導入をせずとも十分に対応可能です。
また、対応がそのまま業務効率化やミス防止にもつながるため、経営の安定にも寄与します。
まずは今回のチェックリストで現状把握し、必要に応じて「運用規程」や「ファイル管理ルール」を整備することから始めましょう。
テンプレートを活用しながら、鍼灸院でも“無理なく実現できる”電帳法対応を進めてください。
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