鍼灸院経営で重要なLTVとは?一人の患者さんと長く信頼関係を築く考え方

鍼灸院経営は「1回の来院単価」だけで考えない

鍼灸院の経営を考えるとき、多くの先生がまず意識するのは、1回あたりの施術料金かもしれません。

初回料金はいくらにするか。
通常施術はいくらにするか。
美容鍼のコースはいくらにするか。
回数券を作るべきか。
自費施術の単価を上げるべきか。

もちろん、施術単価は大切です。

しかし、鍼灸院経営を安定させるうえでは、1回の単価だけを見ていては不十分です。

なぜなら、患者さんとの関係は、1回の施術だけで終わるとは限らないからです。

初回来院。
2回目以降の継続。
症状が落ち着いた後のメンテナンス。
再び不調が出たときの再来院。
家族や友人の紹介。
Google口コミ。
SNSでの共有。

一人の患者さんとの関係は、さまざまな形で長く続いていきます。

この長期的な価値を考えるためのマーケティング用語が、今回解説する LTV です。

LTVを理解すると、鍼灸院の経営は「今日いくら売上が上がったか」だけでなく、
患者さんとどのような信頼関係を築いていくか
という視点で考えられるようになります。

マーケティング用語解説:LTVとは?

LTVとは、Life Time Value の略です。

日本語では、
顧客生涯価値
と訳されます。

簡単に言えば、
一人の顧客が、長期的にどれくらいの価値をもたらすか
を表す考え方です。

鍼灸院に置き換えると、一人の患者さんが初回来院してから、その後の継続、再来院、紹介、口コミなどを通じて、どれくらいの価値を生むかという視点になります。

たとえば、1回6,000円の施術を受ける患者さんがいたとします。

1回だけで終われば、売上は6,000円です。

しかし、その患者さんが月2回、3ヶ月通った場合は、

6,000円 × 6回 = 36,000円

になります。

さらに、その後も月1回のメンテナンスで半年通えば、

6,000円 × 6回 = 36,000円

が加わります。

合計すると、72,000円です。

さらに、家族を1人紹介してくれた場合、その価値はさらに広がります。

このように、LTVは単発の売上ではなく、患者さんとの長期的な関係性を数字として捉えるための考え方です。

鍼灸院におけるLTVの基本的な考え方

鍼灸院におけるLTVは、単純化すると次のように考えることができます。

LTV = 1回あたりの施術単価 × 来院回数 × 継続期間

たとえば、

施術単価:6,000円
月の来院回数:2回
継続期間:3ヶ月

の場合、

6,000円 × 2回 × 3ヶ月 = 36,000円

となります。

ただし、鍼灸院のLTVは、売上だけでは測りきれません。

患者さんが口コミを書いてくれる。
家族や知人を紹介してくれる。
一度卒業しても、また困ったときに来院してくれる。
地域で院の評判を広げてくれる。
先生への信頼を長期的に持ってくれる。

こうした価値も含めて考える必要があります。

つまり、鍼灸院におけるLTVとは、
一人の患者さんと長く信頼関係を築くことで生まれる総合的な価値
だと言えます。

なぜ鍼灸院にLTVの視点が必要なのか

鍼灸院にLTVの視点が必要な理由は、大きく3つあります。

1. 新規集客だけに依存しなくて済む

新規患者さんを毎月増やし続けることは大切ですが、それだけに頼る経営は不安定です。

広告費がかかる。
SNSやSEOの更新に追われる。
毎月の新規数に売上が左右される。
初回割引に依存しやすくなる。

こうした状態になることがあります。

一方で、既存患者さんとの関係が続いていれば、毎月の売上は安定しやすくなります。

LTVを高めることは、新規集客の負担を減らすことにもつながります。

2. 患者さんとの関係性を重視できる

LTVの視点を持つと、目先の売上だけではなく、患者さんとの長期的な信頼関係を重視するようになります。

今日の売上を上げるために無理な提案をするのではなく、患者さんが納得して通える関係を作る。

必要がない通院を勧めるのではなく、状態に合わせた適切な来院目安を伝える。

症状が落ち着いたら卒業やメンテナンスを提案する。

こうした誠実な対応が、結果的に長い信頼関係につながります。

3. 紹介や口コミの価値を理解できる

LTVを考えると、患者さん一人の価値は、その人自身の来院回数だけではありません。

その患者さんが家族を紹介してくれる。
職場の人に勧めてくれる。
Google口コミを書いてくれる。
SNSで紹介してくれる。

こうした行動は、次の患者さんとの出会いを生みます。

つまり、患者さん一人ひとりの満足度や信頼関係は、将来的な集客にも影響します。

LTVは、口コミマーケティングや紹介施策とも深く関係しているのです。

LTVを高めることは「高く売ること」ではない

LTVを高めるというと、

「単価を上げる」
「回数券を売る」
「長く通ってもらう」
「物販を増やす」

というイメージを持つかもしれません。

もちろん、料金設計や継続メニューはLTVに関係します。

しかし、LTVを高めることは、患者さんからできるだけ多くのお金を取ることではありません。

本来のLTV向上とは、
患者さんにとって必要な価値を、適切なタイミングで提供し続けること
です。

たとえば、

急性の腰痛で来院した患者さんに、必要な施術とセルフケアを提供する。
症状が落ち着いたら、再発予防やメンテナンスの選択肢を伝える。
無理に通わせず、必要なときに相談できる関係を残す。
数ヶ月後に再び不調が出たとき、また相談してもらえる。

これもLTVの向上です。

短期的に無理な提案をして売上を上げるより、長期的に信頼される方が、結果として院の価値は高まります。

鍼灸院でLTVが高まる流れ

鍼灸院でLTVが高まる流れを整理すると、次のようになります。

  1. 新規患者さんが来院する
  2. 初回で安心感と納得感を得る
  3. 2回目以降も継続する
  4. 症状や状態の変化を実感する
  5. メンテナンスや定期ケアへ移行する
  6. 家族や知人を紹介する
  7. 口コミを書く
  8. 一度離れても、必要なときに再来院する

この流れの中で大切なのは、すべての段階で患者さんの納得があることです。

特に、継続やメンテナンスは、院側の都合だけで提案してはいけません。

患者さんが、

「今の自分には必要だ」
「続ける意味がわかる」
「この先生なら相談し続けたい」

と思えることが重要です。

LTVを構成する5つの要素

鍼灸院のLTVは、主に次の5つの要素で考えることができます。

1. 施術単価

1回あたりの施術料金です。

鍼灸施術。
美容鍼。
スポーツコンディショニング。
初回カウンセリング。
特別メニュー。

などの料金が関係します。

ただし、単価を上げる場合は、患者さんが価値を理解できる説明や体験が必要です。

料金だけを上げても、価値が伝わっていなければ継続にはつながりません。

2. 来院回数

患者さんがどれくらいの回数来院するかです。

初回で終わるのか。
2回目につながるのか。
数回通って症状を整えるのか。
定期的なメンテナンスに移行するのか。

前回解説したリピート率は、この来院回数に大きく関係します。

3. 継続期間

患者さんとの関係がどれくらい続くかです。

短期間の集中ケア。
数ヶ月の継続施術。
月1回のメンテナンス。
年に数回の再来院。
ライフイベントごとの相談。

鍼灸院では、症状が落ち着いた後も、季節の不調や生活の変化に応じて再び相談されることがあります。

4. 関連サービスの利用

鍼灸院によっては、施術以外の関連サービスもあります。

お灸指導。
セルフケア講座。
養生相談。
美容鍼コース。
産後ケアプログラム。
スポーツコンディショニング。
物販。

ただし、関連サービスの提案は、患者さんの状態や目的に合っていることが前提です。

単なる追加販売ではなく、患者さんにとって必要な選択肢として提案することが大切です。

5. 紹介・口コミ

患者さん本人の来院だけでなく、紹介や口コミによって生まれる価値もLTVに含めて考えられます。

家族を紹介する。
友人を紹介する。
職場で話題にする。
Google口コミを書く。
SNSで共有する。

こうした行動は、新しい患者さんとの接点を生みます。

特に鍼灸院では、紹介や口コミの影響が大きいため、LTVを考えるうえで見逃せません。

LTVを高めるために重要な初回体験

LTVは、初回体験から始まります。

初回で不安や不信感が残れば、2回目以降につながりにくくなります。

逆に、初回で安心感と納得感があれば、継続や紹介につながりやすくなります。

初回体験で重要なのは、

来院前の案内。
受付対応。
問診。
施術前説明。
施術中の声かけ。
施術後の説明。
料金の明確さ。
次回提案。
帰宅後のフォロー。

です。

患者さんは、施術の技術だけでなく、体験全体で院を評価しています。

LTVを高めたいなら、初回から長期的な信頼関係を意識する必要があります。

LTVを高める問診の考え方

LTVを高めるための問診では、症状だけでなく、患者さんの生活や目的を理解することが大切です。

たとえば、肩こりの患者さんに対して、

「どこが痛いですか」
「いつからですか」

だけでなく、

「肩こりがあることで、日常生活で何が一番つらいですか」
「この状態が少し楽になったら、何をしたいですか」
「仕事や睡眠に影響はありますか」
「今までどのような対処をしてきましたか」

と聞くことで、患者さんの本当のニーズが見えてきます。

患者さんの目的がわかると、通院提案も自然になります。

「肩こりを軽くしましょう」

ではなく、

「夕方の頭痛を減らして、仕事を最後まで集中しやすい状態を目指しましょう」

と共有できます。

このような目標共有が、継続的な信頼関係につながります。

メンテナンス通院とLTV

鍼灸院では、症状が落ち着いた後にメンテナンス通院へ移行する患者さんもいます。

メンテナンス通院とは、つらくなってから来るのではなく、状態を保つために定期的に身体を整える考え方です。

ただし、メンテナンス通院は押しつけるものではありません。

患者さんによって、必要性も頻度も異なります。

たとえば、

慢性的な肩こりが戻りやすい人。
仕事の負担が大きく、疲労が蓄積しやすい人。
大会や仕事のパフォーマンスを維持したい人。
産後で身体の負担が続いている人。
季節の変わり目に不調が出やすい人。

こうした人には、状態が落ち着いた後に、

「今後はつらくなってからではなく、月1回程度で状態を確認する方法もあります」

と選択肢として伝えられます。

重要なのは、患者さんが自分の生活に合わせて選べることです。

再来院もLTVの一部

LTVを考えるとき、継続して毎月通っている患者さんだけを見る必要はありません。

一度症状が落ち着いて卒業した患者さんが、数ヶ月後や数年後に再来院することもあります。

たとえば、

季節の変わり目に不調が出た。
仕事が忙しくなって肩こりが再発した。
妊娠・出産・育児で身体の状態が変わった。
スポーツで新しいケガをした。
家族の紹介で再び来院した。

こうした再来院も、長期的な信頼関係の結果です。

そのため、症状が落ち着いた患者さんに対しても、

「また困ったときは相談してください」

という関係を残すことが大切です。

無理に通わせるのではなく、必要なときに思い出してもらえる院になることも、LTVを高める方法です。

LTVと紹介の関係

LTVを考えるうえで、紹介は非常に重要です。

患者さんが家族や友人を紹介してくれる場合、その患者さんとの関係価値はさらに大きくなります。

たとえば、ある患者さんが月1回メンテナンスで通っているとします。

その患者さんが、肩こりに悩む家族を紹介してくれた。

さらに、その家族がGoogle口コミを書いてくれた。

このような場合、最初の患者さんとの信頼関係は、新しい患者さんとの接点を生んでいます。

紹介は、広告よりも強い信頼を伴うことがあります。

なぜなら、紹介する人と紹介される人の間に、すでに信頼関係があるからです。

LTVを高めるには、患者さんが自然に紹介したくなる体験を提供することが大切です。

LTVを高めるためのコミュニケーション

LTVは、施術だけでなくコミュニケーションによっても高まります。

患者さんは、施術技術だけでなく、

自分のことを覚えてくれているか。
前回の状態と比べて見てくれているか。
生活背景を理解してくれているか。
無理な提案をされないか。
質問しやすいか。

を感じています。

たとえば、

「前回、夕方の頭痛がつらいとおっしゃっていましたが、その後はいかがでしたか」

「来月大会があるとのことでしたが、練習量は増えていますか」

「お子さんの抱っこで腰に負担がかかるとお話しされていましたが、最近はいかがですか」

このような確認は、患者さんにとって大きな安心感につながります。

患者さんは、単に施術を受けに来ているだけではなく、身体のことを継続的に見てくれる存在を求めています。

LTVとLINE・メール配信

LINEやメール配信も、LTVを高めるために活用できます。

ただし、売り込みばかりの配信になると、患者さんにとって負担になります。

効果的なのは、患者さんに役立つ情報を定期的に届けることです。

季節の不調。
簡単なセルフケア。
休診日のお知らせ。
空き状況。
新しい記事の案内。
生活習慣の見直し。
来院後の注意点。

たとえば、

「梅雨時期は身体の重だるさや睡眠の乱れを感じる方が増えます。冷たい飲み物が続いている方は、胃腸の冷えにも注意してみてください」

というような配信は、患者さんが自分の身体を意識するきっかけになります。

必要なときに思い出してもらうことも、LTV向上につながります。

LTVを高める価格設計

LTVを考えるうえで、価格設計も重要です。

ただし、安くすればLTVが上がるわけではありません。

むしろ、安さだけで来院した患者さんは、継続や紹介につながりにくいこともあります。

大切なのは、料金と提供価値が一致していることです。

初回料金には何が含まれるのか。
通常施術の料金は何に対する価格なのか。
美容鍼や特別メニューはどのような価値があるのか。
メンテナンス通院の位置づけは何か。
回数券やコースがある場合、なぜ必要なのか。

これらをわかりやすく説明する必要があります。

料金が明確で、患者さんが納得できる価格設計であれば、継続への不安が減ります。

LTVを高めるうえで避けたいこと

LTVを高めようとするときに、避けたいこともあります。

1. 不安をあおって通院させる

「このままだと悪化します」
「通わないと大変なことになります」

といった不安を強める表現は、一時的には通院につながるかもしれません。

しかし、長期的な信頼を損なう可能性があります。

2. 必要以上の回数を提案する

患者さんの状態に合わない長期プランを提案すると、不信感につながります。

通院目安は、状態や目的に合わせて説明することが大切です。

3. 売上目的の物販や追加メニュー

患者さんに必要な商品やサービスなら提案してよいですが、売上目的が強すぎると信頼を失います。

4. 卒業させない

症状が落ち着いているのに、明確な理由なく通院を続けさせることは望ましくありません。

必要なときに相談できる関係を残すことが、長期的には信頼につながります。

LTVを測定する方法

鍼灸院でLTVを正確に計算するのは難しい場合もあります。

まずは、簡単な指標から確認するとよいでしょう。

一人あたりの平均来院回数。
平均施術単価。
平均継続期間。
メンテナンス移行率。
紹介率。
再来院率。
口コミ投稿率。

たとえば、

平均施術単価が6,000円。
平均来院回数が5回。

であれば、単純なLTVは、

6,000円 × 5回 = 30,000円

です。

これが平均8回に増えれば、

6,000円 × 8回 = 48,000円

になります。

ただし、数字だけを追いかけるのではなく、患者さんが納得して通っているかを確認することが大切です。

LTVを高めるために今日からできること

まずは、既存患者さんとの関係を見直してみましょう。

最近来院が途切れている患者さんはいないか。
メンテナンスに移行できそうな患者さんはいないか。
紹介してくれた患者さんに感謝を伝えているか。
口コミを書いてくれた患者さんに返信しているか。
再来院しやすい案内ができているか。
LINEやメールで役立つ情報を届けられているか。

次に、初回から継続までの流れを整理します。

初回で患者さんの目的を聞いているか。
状態説明はわかりやすいか。
通院目安は納得できる形で伝えているか。
症状が落ち着いた後の選択肢を用意しているか。
卒業後も相談できる関係を残しているか。

LTV向上は、大きなキャンペーンよりも、日々の小さな信頼の積み重ねから始まります。

まとめ

LTVとは、Life Time Valueの略で、顧客生涯価値を意味します。

鍼灸院においては、一人の患者さんが初回来院してから、継続、メンテナンス、再来院、紹介、口コミなどを通じてもたらす長期的な価値を指します。

LTVを考えることで、鍼灸院経営は、1回の施術単価や初回売上だけでなく、患者さんとの長期的な信頼関係を軸に考えられるようになります。

ただし、LTVを高めることは、患者さんに長く通わせることではありません。

患者さんにとって必要な価値を、適切なタイミングで提供し続けることです。

そのためには、

初回体験を整える。
患者さんの目的を理解する。
通院の意味をわかりやすく伝える。
症状が落ち着いた後の選択肢を用意する。
再来院しやすい関係を残す。
紹介や口コミが自然に生まれる体験を作る。

ことが重要です。

マーケティングは、新規患者さんを集めるためだけのものではありません。

一度出会った患者さんと長く信頼関係を築き、必要なときに思い出してもらえる存在になることも、鍼灸院にとって大切なマーケティングです。

次回は、ホームページや予約導線の成果を測るための
「CV・CVR」
について解説します。


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